第109話 進む道は?
あらすじ
『ブーンブーン』にトラはおらず倒れた職員がいただけだった。いたシカたない。
『ブーンブーン』にお邪魔してから3日が経過。ギルド職員の意識はいまだもどらないが随分と顔色は良くなって来た。職員は女性一人に男性が二人。識別先生によると順にスーズィーさん、トーソンさん、キヤさん。いるはずの護衛の姿は無い。食料が保存されていたはずの部屋はがらんどうで俺達が遅ければ死んでいた可能性は高いだろう。
比較的スーズィーさんの状態が良かったのは他の二人が食料等を融通したからだろうか。極限状態でそれができるのは尊敬できるとは思う。何にせよ事情を聞くためにも早く回復して欲しい。
気にかかることがもう一つ。あれから先発隊の『白の運び手』はいまだここへ来ていない。一体どうしたのだろうか。いつ誰が来てもいいように周辺のアイアンアントは狩っているけれども。たまに変異種であろうスチールアントも襲い掛かってくるが問題なく倒せた。
「最後の一匹ぃ!」
月猫の剣閃がアイアンアントの首を両断する。ぽーんと飛んでいく頭はちょっとグロかった。
俺は今、タマちゃんとアリーヴェデルチ殲滅大作戦に勤しんでいる。
フツノさんが衰弱した三人に掛かりきりなので俺とタマちゃん、ミタマとカグラさんに分かれて交代しながら周囲の安全を確保していた。
それにしてももう何匹倒したとか数えるのも嫌になるくらい蟻だらけである。鉄蟻の甲殻も山ほど貯まっているよ。
ふう、今日はここまでにしておこうか。現在のクラスは侍、忍者、拳士、時空魔術師。順調に上がってはいるものの倒しても倒しても蟻だけしか出てこないっていうのはメンタル的にちょっとしんどいな。
てれれてってって~♪ 侍、下忍、拳士、時空魔術師のレベルが上がりました。
てってれ~♪ 拳士のレベルが上限に達しました。
てってれ~♪ 侍のレベルが一定に達しましたのでクラスアップが可能です。
てってれ~♪ 下忍のレベルが一定に達しましたのでクラスアップが可能です。
てれれて~て~てんてってれ~♪ タマちゃんのレベルが上がりました。ドクターマリモのレベル上限に達しました。クラスチェンジの条件を満たしました。
おお、久しぶりに大量成ちょ……って、く、くくくく、クラスアップですと!? タマちゃんのクラスチェンジもキターーーーーー!
確かに拳士のレベルは頭打ちになったがスキルのほうはそういったアナウンスは流れていない。そっちの研鑽は欠かさないでおこう。上限に達したとは言え悲しくはない。十分基礎体力などの底上げはしてくれているのだから。ありがとう拳士、さようなら拳士。君の笑顔を僕は忘れない。それよりも伸びといえば背丈は全然伸びないんだけどね! グネってばこれどういうことよ!!
三文芝居はこれくらいにして次いってみようか……。
さてさて気になるクラスアップはどんな感じにすればいいのかな。折角だしあいつに聞いてみるか。
結界を張り次元収納から簡易折り畳み神殿『駄女神フロンティア2号』を取り出し組み立てる。形は幕張○ッセ風。お供え物は……海苔煎餅とおかきでいいか。結局、正しい呼び出し方を聞いていなかったので今回も適当に呼びつけてみる。
「ダメガーーミ、カーーームヒアーーーーーー!」
大量の魔力が吸い出されボウンと音を出しながら二頭身のあいつはやってきた。
『世のため人のため、日夜みんなの成長を促すレベリット様! このびゅりほーな輝きを恐れぬならばかかってくるがいいのですよー』
額に二本指を掲げてポーズをとり歯をキラリンと輝かせながらやりきったという満足感に浸っている駄女神。相変わらずである。
「うん、42点ってとこか……」
『謎の評価!? そしてすごく微妙な点数!』
心底悔しそうに顔をしかめる駄女神。相変わらずである。
「まあそれはそれとしてクラスアップについて聞きたいんだが」
『おー、ついにノブサダ君もそこまで成長したのですねー。随分といろいろなクラスに浮気しているから大丈夫かなーと心配していたんですがよかったよかった』
心配しているなら一言教えてくれればいいのに、とは言わない。腐っても神であるからして直接なにか手助けするのはご法度かなんかなんだろう。腐っても神だろうし。大事なことなので二回言いました。
『なんか色々と失礼なことを言われているような気がしますよ、バリバリ』
「煎餅食べながらでも構わん。毎度お馴染みお前さんのアナウンスで侍と下忍がクラスアップ可能らしいんだがどうすればそれができる?」
『それは簡単です。クラスアップと念じれば選択肢がでる仕様ですよー。クラスによってはそこで複数選択肢がでるのもありますけどね』
ほうほう、では早速。侍のクラスアップっと。
クラスアップ先を選択してくださいな。
・侍大将
・武芸者
【侍大将】
斬ることに特化した武器『刀』をはじめ槍や弓などを扱う武芸に秀でた職種。侍衆を率いる一軍の将。統率に優れ指揮能力が上がりやすい。
【武芸者】
斬ることに特化した武器『刀』をはじめ槍や弓などを扱う武芸に秀でた職種。剣の道を極めんと邁進する者。一対一の戦いに無類の強さを発揮する。
うーむ、どっちも有用である。悩むなぁ、両方とも選ぶってのはなし?
クラスアップ先が選択されました。侍大将、武芸者へクラスチェンジ可能です。
なんという抜け道!?
両方選ぶことでどっちにも就けるとはな。普通に考えればどっちつかずになりそうな気がするが俺の場合はいつでも変更できるからなあ。
駄女神をチラリと見てみればなにやら複雑そうな表情をしている。
『まさかの選択肢無視。こんな抜け道があったとはレベリット一生の不覚! 悔しいのう、悔しいのう』
何度目の一生の不覚なのかは追求しないでやろう。両クラスゲットで気分がいいからな。
さて下忍のほうはっと。
クラスアップ先を選択してくださいな。
・中忍
【中忍】
厳しい修行によって東方伝来の暗殺術や幻術を操る暗殺者の中級職。隠密行動や毒物の扱いにも優れている。
こっちは選択の余地はなしか。そのほうが気楽でいいけどもさ。それにしてもランクアップ先の文面。使い回しっぽくないですか識別先生?
クラスアップ先が選択されました。下忍は中忍へと進化します。
てってれ~♪ 忍術を習得しました。
おお、忍術とな。これはまたおじさんの心を擽るものが来たね。
【忍術】
千変万化に形を変える忍の操りし秘術。使い手によって習得可能なものが異なる。
Lv1 幻術 相手に幻を見せる術。催眠誘導などにも応用可能。
ふむう、視覚で地味に訴えかけるのかそれともイリュージョンのように光と音で嵌めるのか。あとで実験してみようか。
「うん、上手くいったようだ。さんくす、駄女神様。そうそう、こいつは他の女神様と一緒に食べてくれ。この間のあれは皆喜んでたみたいだからさ」
クッキーと蒸し饅頭の詰め合わせを駄女神へと進呈する。おお! おおお! と目を輝かせているが「いいか必ず分けて食べるんだぞ」と念を押しておいた。どこぞのお笑い芸人のようにフリにならないといいが。
『はいはい、必ずみんなで分けますよー。じゃないとノブサダ君のお供え物がまた罰ゲーム集になりそうで怖いのですよー』
一度苺の果実水に偽装した唐辛子水をお見舞いしたことがよほど堪えている様だ。飴と鞭は使いようってね。エレノアさんから身をもって教わったし……。
ポンっと煙の如く菓子詰め合わせと駄女神が消え去る。一体どこに帰っているのか興味はあるのでいつか問い詰めてみよう。
一息ついたところで最後はタマちゃんのクラスチェンジか。ドクターマリモの次はなんだろうか。
・ハンマーマリモ
・羽マリモ
・ファイアマリモ
くっ! 選択肢が三つだと!?
タマちゃんの場合は職業と言うより完全に進化先のようだから複数ってのはない気がする。となると選択に悩むな。とりあえず一つ一つ見ていくしかないか。
【ハンマーマリモ】
鉄の様に硬くなり槌の様に敵を打ち据えるマリモ。肉体強化に優れる進化先。
【羽マリモ】
空を自由に飛びたいなという願いを叶えた夢見るマリモ。翼は魔力により形成され航空力学は完全に無視である。多様なスキルを覚える可能性を秘めているだろう。
【ファイアマリモ】
燃え尽きることのない熱血漢となったマリモ。その熱き心は魔力の源泉と化し様々な魔法を使いこなす……はずだ。
力と技と魔力に別れた進化先か。
タマちゃんはどうなりたい?
ふるんふるるるん
なに? 俺色に染めてくれだって? タマちゃんどこでそんな言葉覚えてきなすった。とにかく俺が決めろっていうのね。うーむ、どうしようか。
~~20分後~~
俺がタマちゃんに求めるものはこれだ!!
てってれ~♪ タマちゃんは『羽マリモ』にクラスチェンジしました。
ふるるんと震えたと思ったら真っ白なタマちゃんの背中からちんまい羽が生えた。外見の変化はこれくらいなようだ。では内面はどうだろう。
名前:タマちゃん 性別:雌 種族:マリモ
クラス:羽マリモLv1(new!) 状態:健康(ノブサダより魔力の供与あり)
称号:【可能性のマリモ】 絆:親愛
HP:137/155 MP:73/148
(主の称号の効果でステータスにプラス補正)
【スキル】
分体生成 薬効成分配合Lv2(up!) 神聖魔法Lv2(up!) 回避Lv3(up!) 硬化Lv2(up!) 迷彩Lv2 自爆Lv1(new!) 飛行Lv1(new!)
うおーい! なんてものが増えているんだ。自爆って……任務完了とともに派手に散るためか!?
おかしい、対空要員として進化を望んだはずなのにどうしてこうなった。まあ、覚えてしまったものは仕方がない。どんなスキルなんだ?
【自爆】
生命力と魔力を燃やし尽くして激しく爆発する。
シンプルな説明ありがとうございます。とりあえずタマちゃん。使い道は後で考えるからそれまでは絶対に使わないようにね。タマちゃんも俺の家族なんだから勝手にいなくなっちゃったりしたら駄目だぞ。
ぽよよよよん
嬉しそうに弾むタマちゃん。
ああ、可愛いのう。流石うちのマスコット。見てよし突いてよし撫でてよし。
タマちゃんもご機嫌だ。




