第100話 新たなる門出
祝! 100話!
前の『のぶさん』からお読みくださっている皆様。
新説になってから御贔屓いただいてる皆様。
皆様の感想や評価に支えられなんとかここまで来れました。
これからも生暖かくゆるーいお気持ちでお読みくだされば幸いでございます。
雲ひとつない完璧な青空。
後ろには招待した多くの人たちが俺達を祝福してくれている。
グラマダにきて多くの人と出会った。
師匠にカイル。
ドヌールさんにミネルバちゃん、フォウちゃんにラコッグさん。
おやっさんにジルーイさん。
マニワさんにミネイアさんにマッスルのみなさん。
くまはっつぁんに商店街のみんな。
アミラルさんにギルドの面々。
キリシュナさんと歓楽街のおねーさまたち(キリシュナさんに頼まれて治療しにいっただけなんだからねっ!)
ヨーシイさんにピーティアさん。
ドルヌコさんにネーネさん。
もはや家族と言っていいディリットさんにティノちゃん、三連娘にタマちゃん、わかもとサン。
俺が生きてきた中でも物凄く濃厚な時間をこの世界に来て過ごした。
この期間の集大成が今ここにあると言っても過言ではないだろう。
俺の横には純白の衣装に身を包んだ愛しい女性達。
彼女達がいてくれたからここまで頑張ってこれた部分が大きい。
ミタマとフツノさんがいてくれたから森から迷うことなくここまでこれた。下手をすればあそこで死んでいたかもしれない。この世界で生きるうえでの大切なことも教えてもらった。
セフィさんには帰る場所をはっきりと示してもらった形になる。色々と振り回されているがそれもまた生きがいと感じている。
カグラさんには助け助けられてここまでこれた。彼女がいなければフツノさんを助けることができなかった。カグラさんとしても母を解放し呪われた体を解放することができた。これからも互いを支えあうようにして助け合いたい。
エレノアさんには師匠と共に心と体を鍛えてもらった。色々な意味で強くなれたことに感謝を。それに凜として弱さを吐き出さない彼女ではあるがその実、寂しがりやだったりするのだ。これからも通い妻ではあるが今までできなかったことなど愛情を注いでいきたい。
目の前にいるベルが一張羅の神官衣を引きずりながらしごく真面目な顔でしかしぎこちなく躓きながら俺が渡したカンペを読み上げていく。
「汝、ノブサダは、彼女達、ミタマ、フツノ、セフィロト、カグラ、エレノアを妻とし良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も共に笑い共に泣き共に想い共に歩んでいくことをここに誓いますか?」
「誓います」
「汝ら、ミタマ、フツノ、セフィロト、カグラ、エレノアは、彼、ノブサダを夫とし良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も共に笑い共に泣き共に想い共に歩んでいくことをここに誓いますか?」
「……誓います」
「勿論や!」
「誓うわよぉ」
「無論じゃ」
「誓います」
「それでは指輪の交換と誓いの接吻をお願いします」
一人一人の左手の薬指に特製の指輪を嵌めた。指輪の裏側には互いの名前が刻み込んである。そして、ヴェールを上げて優しく口付けを交わしていく。
「皆さん、愛を誓いし若人たちの上に神が慈しみ深く見守り助けてくださるよう祝福を願い祈りましょう」
これまたそれらしいセリフを招待状に仕込んでおいた。皆々がそれを手に読み上げる。
『万物の創り主である父よ、我らが世界を見守りし六柱の神々よ。今日この良き日に誓いをかわせし若人たちに満ち溢れる祝福を注いでください。皆が愛に生き、喜びにつけ悲しみにつけ信頼と感謝を忘れず、困難にあっては慰めを見出し多くの友に恵まれ、お互いがもたらす恵みによって成長し実り豊かな生活を送ることができますように』
皆が真摯に願い祈りを捧げた。
そんななかに大きな変化が訪れる。
ベルと俺の間の上空に大きな魔力が集まり始めキラキラと光が舞い散っていた。
と、同時に俺の体からごっそりと魔力が抜け出ていく。
これはもしかして……。
それは神々しい光溢るる姿で空中に降臨した。
しかも4つも!!
『みなの願いは聞き届けられました。私は成長と才能の女神レベリット。我が名において我が使徒たるノブサダとその妻達の行く末に祝福を与えましょう』
いつものちんちくりんな姿ではなく凜とした女神の姿。俺の魔力消費量も尋常じゃない。
異世界人のレベルが上がっていなければ卒倒していたかもしれん。
緑色の髪と豊かなお胸が特徴的な女神。母性を感じさせる慈しみのこもった眼差しが俺達を見つめる。
『私は生と豊穣の女神アメトリス。皆の実りある人生へと祝福を与えましょう』
真っ白な髪と残念なあれが……いえ、スレンダーでとても麗しき女神がこちらを睨みつ……いえ、見つめられておりまする。
『我は死と運命の女神ハディン。我が名において苦難に負けぬよう祝福を授けよう』
銀髪でほどよい大きさのお胸と理知的な瞳が印象的な女神が俺を特に見定める。
『わたくしは精霊と理の女神ルーティア。愛し子たるそなたたちに精霊の祝福を』
色とりどりの光が俺達の周囲を舞い皆々が歓声を上げた。
『『『『かの者達に祝福は成された。そしてこの場に居合わせしかの者らを慈しみ護りし者達よ。汝らにも幸せがあらんことを』』』』
俺達の周りを舞っていた光がみんなの下へと飛んでいく。幻想的なその様子は皆を虜にするには十分だったろう。
やがてその光の数々が消え去る頃には女神たちの姿も薄れ消えていく。
『あ、今回の演出はサービスなのですよー。ただ、料理のおすそ分けは四柱分よろしくなのですよー』
いつもの軽い口調で神託をメールのように使う駄女神。
最後まで綺麗に終わらせてくれないところは流石の駄女神クオリティ。ま、良いもんだったし美味しいところを見繕ってお供えしましょか。使徒のカミングアウトはいらなかったがな!
呆気にとられていた面々だがどこからともなく再度歓声があがった。それは伝播し皆が拍手喝采をあげる。
今この場はグラマダで一番の盛り上がりをみせているだろう。
「予想外の出来事もありましたが今日は忙しい中俺達の新たな門出に立ち会っていただき真にありがとうございます。あとは堅苦しいのはなし! 無礼講で騒ぎましょう! かんぱーーーーい!!」
『かんぱーい!』
俺の言葉と共にキィンキィンとグラスをぶつける音が会場内に鳴り響く。
そこからはもうどんちゃん騒ぎに移行した。
その間に俺と5人は着替えを済ませてみんなと騒ぎの輪に加わる。
「あっはっはっは、めでたいめでたい。ようやっとエレノアも身を固めたわな。これであとは孫を見るだけじゃわい」
「おいおい、最初から飛ばすんじゃないぞ。あとで面倒を見るエレノア君とノブサダ君のことも考えておけ」
師匠とアミラルさんが酒を酌み交わしている。片や豪快に片や静かに。性格が良く現れているな。師匠にこれからは義父さんって呼んだ方がいいですかって訊ねたら拳骨をいただきました。照れてるっぽいが結局今までどおりですわ。
「くうう、ノブサダのやつにあっさり先を越されちまった。まだ見ぬ俺のハニーはどこにいるんだ、ちくしょう」
「なんでぇ、時化た顔してねぇで飲めよ、らっしゃい。おめぇくらい顔がよけりゃすぐにいい子がつかまらぁ」
自棄酒するカイルになんでかくまはっつぁんが慰めをかけている。俺もいい子がいたらあいつに紹介してやろう。なんか不憫だ。何気にカイルとは飲み友達になっていたりする。俺はノンアルコールだが。
「あいつがこの街へ来た時はまだまだひよっこだと思っていたんだがいつのまにやら随分と大きくなったもんだ。そういや初めて会ったときだったな、お前と道が別れたのも」
「そうだね。だがそれで良かったんじゃないかな。そうでなければ兄者とこうしてゆっくり酒を酌み交わす余裕もなかったと思うよ」
「うむ、これくらいの距離が丁度良かったのかもしれん」
久しぶりに兄弟で酒を酌み交わす。じつに何年かぶりだそうな。俺もあの二人は今くらいの距離が一番言いと思う。実際、お互いがお互いを思いやっていたものの近すぎてよけい息苦しくなっていたんじゃないかな。
「んーーー、もう。二人がこうして幸せになる姿をこの子たちのお母さんにも見せたかったわよぅ」
「あああ、姐やん。ほら衣装に鼻水が落ちるで。ほら、ちーんして、はい、ちーん」
ずびぃぃぃ
フツノさんから差し出されたハンカチへ涙と鼻水を噴出すキリシュナさん。普段の女豹的な商売人の姿は無くただただ姪っ子の門出に喜ぶ叔母の姿がそこにあった。
ムキィムキキ
いつも以上にキレのいいポージングで祝福するマッスルブラザーズとマニワ兄弟。チョーカーと白いズボンを身にまとっている。まあ、いつもより露出が少ないのでよしとしよう、うん。
あ、そういえばモリコさんがあの時知り合った冒険者をとっ捕まえて近々結ばれるらしい。たしかカツとか言ったっけ。よく知らない人だがまあ彼ならどうでもいいやって気になってしまうのはなぜだろうか。
「それにしてもノブサダさんがレベリット様の使徒だなんてびっくりですよ」
「うむ、確かにな。だがそれなど関係なしにあいつはあいつだ。人のいいお調子者。それで十分だろう」
「そうですね。あの人がいなきゃ私も今頃どうなっていたことか。いつかはこの借りを返せればいいんですけども」
「あまり思いつめないほうがいいと思いますよ。彼はきっとそんなの気にしていないでしょう。私のときも『美味しい料理をだしてくれているからそれでいいです』でしたからね」
ベル、ドヌールさん、ラコッグさんが食事を片手に話しこんでいる。ベルとあの二人ってのは珍しい組み合わせだがなんでも懐事情が厳しいときに揚げ物の切れ端なんかを貰っていたらしい。ベル……。
俺は使徒だと大々的にばらされてビックリだけどな。まあ、あの女神だしそげな深刻に考えている人は誰もいないっぽい。
「はあああ、お姉様たちお美しいですわ。ご主人様もご立派で。いつかわたくしも、ははあああん」
「もきゅもきゅもきゅもきゅ。いつも以上に美味いよー。ノブ兄さんまた料理の腕上がったんじゃないのか?」
「ごっごっごっ、ぷはぁ。んふう、これは美味しいお酒れすにゃー。おっとっととお、こぼれるこぼれる勿体無いのです」
「あーー、マーシュちゃんお酒飲んでるっ! ノブお兄ちゃんに駄目って言われてたでしょう」
「あらら~、ガーナちゃんお顔が真っ赤だよ~」
「ですです、でもそんな気持ちも分かりますよね。あんなに綺麗なんですもん」
三連娘にティノ、ミネルバ、フォウのお子様たちは皆幻想的だったあの光景を思い出し語らっていた。まあ、オルテアとマーシュはすぐに目の前の料理と酒に目を奪われていたけれども。
庭が一望できる部屋の窓辺に濃魔力水に浸かりながら光合成をする二つの影。
わかもとサンとタマちゃんはノブサダ達の晴れ姿を遠くから眺めていた。
「さてさて、若ぇのもこれで一人前の一家の主ってやつかねぇ。嬢ちゃんもそう思うだろう?」
ぷかんぷかんとタマちゃんが水槽の中で浮き沈みする。どうやら頷いているらしい。
そしてふるふるふるとなにやら震えていた。
「ん? いつか嬢ちゃんも隣に並び立つだって? 従魔とはいえ魔物の身じゃそいつぁ難しいかもなぁ。人になれればいいかって? まぁ、そうさなあ。だが、若ぇのが嬢ちゃんに何を求めているかによって変わるだろうさ」
わかもとサンの話にふるんと小さく震えるタマちゃん。わかもとサンがそんなタマちゃんに優しく諭すように語り掛ける。
「いいかい嬢ちゃん。若ぇのは今までお前さんの意思を尊重してきたはずだ。だからどうすればいいかってのは若ぇのと納得するまで語らって決めればいい。俺っちも若ぇ頃は一人で無理をしたもんだがそれが良かったのかと思い返せばあながちそうでもないもんさ」
年季を感じるその語りにタマちゃんも聞き入っていた。
だが、わかもとサンは生まれてまだ数ヶ月である。
「失礼、ちょっといいかね」
不意に呼び止められた俺は声の主へと振り向いた。
そこには見覚えの無いサングラスをかけた身なりの良い老境に差し掛かりそうなおじさま。
師匠と同じくらいか少し若く見える。よく見ればこのサングラスってマニワさんのと同じ型だな。
「はい、いかがなさいましたか?」
「私の名前はクアントロ。マトゥダに無理を言って今日はここへ参加させてもらったんだが是非ノブサダ君に話を聞きたかったのだよ。時間は大丈夫だろうか?」
「ええ、今なら手が空いてますし大丈夫ですよ」
「ああ、それとすまないがサングラスはこのままで失礼するよ。目を患っていてね。視力には影響はないんだが太陽の光が強すぎると痛みがでるのでね」
「それは構いませんよ。始めに言ったとおり今日は無礼講ですしね」
「ありがとう。娘達が君たちの売り出している化粧水を愛用していてね。話を聞くに随分と若い創業者が売りに出しているというじゃないか。どんな者が作ったのか純粋に興味があったのだよ」
「それは御贔屓にしていただいてありがとうございます。これからも改良を重ねるつもりですし是非使用者のお嬢様方の使った感想などを聞ければありがたいです」
愛用者の方に会うのは初めてだな。売り出したばかりだし。
「うむ、今度家のものに買いに行かせる際に言付けするように伝えておこう。マトゥダも君を随分と気にかけているようだ。是非このまま頑張ってくれたまえ」
「はい、ありがとうございます」
「時間をとらせて悪かったね。どうやら彼女らが君を探していたようだ。お邪魔にならないように私も食事を楽しませてもらうよ」
「はい、それでは失礼します。存分にお楽しみください」
身なりの良いおじさまはそれではと手を振って師匠たちのほうへと向かっていく。同時に背中にフツノさんたちの呼ぶ声がする。
それが耳に入ってはいたが俺は先ほどのおじ様へと視線を向けていた。見つめる俺の手はじっとりと汗ばんでいる。極度の緊張のせいであった。
だって識別先生の鑑定であの人の名前『クアントロ・アズベル』ってでてたんだものさ。
この街の為政者。アズベル公爵その人である。フットワーク軽すぎるだろう公爵! まあ、師匠やアミラルさん、テムロさんもいるしマッスルさんたちもいる。ここが今現在のグラマダで一番安全だよな。
そんな宴は夜まで続いた。
あまりの騒ぎに駆けつけた野次馬も飲みに加わったりどんだけの人がいたんだか分からないほど。
それでも多くの人に祝福され満ち足りた一日だった。
今までと大きく変わることはないだろう。でも日々様々な変化が俺を襲い楽しませ喜ばせてくれるに違いない。そんな毎日を守りたいし共に歩んでいきたい。
皆も帰った静かな夜。6人でひとつのベッドに眠りながらそう思った。




