第99話 門出の前
なんか童謡もあの暴虐機関に登録されてるらしいので出だしを修正しました。
簀巻きにされたわたくしが。
ひょいっと担いだエレノアさんに。
ひょいっとお持ち帰りされてマウントポジション。
嗚呼、無常。
おはようございます、太陽が黄色く眩しいノブサダです。
先達ての件で色々と首を突っ込んだわけですがあのあとエレノアさんより肉体言語でのお説教をくらいました。わたくし野獣だの魔獣だの呼ばれておりましたがそんなことはございませんよ。チワワのように小さく丸くなっておりますのよ。
俺は……あの人に勝ちたい!
ま、そんなこんなで一週間ほど経過しました。
先達ての件は衛兵隊のほうでもまったく足取りがつかめず現在にいたっておるとです。俺のほうでも合間を見つけてはアフロ君達の様子は気にしていたんですがそっちにも接触はなし。なんだかもやもやしますがとりあえずは収束したんじゃろか?
暗いこと続きでしたが現在わてくしはとあることの準備に走り回っております。
「う~ん、か・ん・ぺ・き! 最終的な手直しも終わったわよう。久々に血沸き筋肉踊りまくる良~い仕事だったわ!」
満足げな顔でマニワさんが俺に依頼の品を渡してくれる。さっと確認したがすげぇ代物が出来上がったと思う。日本の品と比べても遜色がないほどだ。
「ありがとうございます。これ招待状です。ミネイアさんやマッスルブラザーズさんの分もあるんですけども居場所が分からないのでもしここに寄られたら渡してもらえますか?」
「あらあら、いいわよ。ワタシもこれ着た晴れ姿を楽しみにしているわ。やっぱり着てもらった姿を見るのが一番楽しみなのよね、このお仕事」
サングラスの奥に隠れてはいるがすごくいい笑顔をしていらっしゃるであろうマニワさんに再度お礼をいいつつ招待状配りにもどる。
そう、身内を集めて結婚式もどきをあげちゃうのだ。ここいらでは貴族でもない限り現代のような大掛かりな結婚式を行うものではないらしい。神殿で誓いをたてる位だとか。ま、俺が皆を一生面倒見ますよ大宴会みたいなもんである。それでも娘の行く末にもやもやしていた師匠や二人の保護者みたいなキリシュナさんたちに対して安心をお届けすることはできるだろう。
それはそれとしてパっと明るい話題を振りまきたかっただけもあるしね。だから今回はドヌールさんやドルヌコさん、カイルにくまはっつぁんなどお世話になった人たちにも招待状を配っている。
「ちわー、おやっさんいますかー?」
奥からのっそりといつもの赤い服を着たおやっさんが眠たげに現れた。
「ふあぁあぁ、おう、今日はどうした? すまんがまだあの武器は仕上がってないぞ」
「ああ、今日はそれとは別件です。これを渡しに来たんですよ」
懐から招待状を取り出しおやっさんに渡す。
「ん? おおお、ついに身を固めるか。俺の半分にもならない年なのになあ」
実際は同じくらいではあるんだけれどもね。それと金属加工の専門家たるおやっさんには聞きたいことがあったんだよ。
「それでですね。こう、貴金属なんかを魔力使って加工する術なんかご存知ではないですか? そんな技があると小耳に挟んだんですが」
「ああ、魔工の技か。俺はあれが苦手でなあ。だが得意なやつは知っているぞ。お前も会った事がある」
「へ?」
「ジルーイのやつがそういったの得意だったのさ。付与魔法や彫金術、魔工とな。今頃なら丁度起きているだろうし訊ねてみたらどうだ?」
なんと! まさに剛の兄に柔の弟。是非とも教わらねば。
「ありがとうございます。当日は是非来てくださいね。いいお酒も用意しておきますから」
「おう、そんときまでにしっかりこいつも仕上げておく」
高らかに宣言するおやっさん。そこまで急ぎでないからいいんだが夢中になってアレを作成しているのだろう。目の下にがっつりクマをつくっていた。無理だけはせんといてください。
それから『ジルーイの酒場』を訊ねると起き立てのジルーイさんに接触。いいおっさんが緑のハート柄のパジャマだったことに多少ひきつつも事情を説明し師事を得ることには成功した。代わりに好評だった氷塊を定期的に納めることになったがなんぼでも作り出せるので俺にとってはタダ同然である。
ジルーイさんは教え方が丁寧かつ分かりやすく俺のほうでも魔力がなんぼでもあるものだから息切れすることなく練習をすればしただけ技能を高めることができた。お蔭様で本番の三日前にはキラキラと輝く銀の指輪が6つ完成する。これには『耐呪』『耐毒』『耐魅了』の付与がされており今出来る技のすべてが込められていた。
「できた!」
「これはこれは教えた私も思わず息を呑むほどの品に仕上がりましたな。もう私が伝えることができるのは全て教えました。あとはあなたが修練を重ねるだけです」
「ありがとうございました。ジルーイさんのおかげでここまでこれたことに感謝の気持ちで一杯です」
「私としてもこの技術を埋もれさせることに抵抗があったようです。こうして技を伝えるものが出来たことに充実感と喜びを感じていますからね」
そう言いながらパイプを噴かすジルーイさんはともすればほうれん草を食べてパワーアップする人にも見えかねなかったがそれは言わぬがお約束。
お礼にと氷塊が大量に入ったマジックリュック(俺作、自重した性能ではある)と試作品の日本酒を渡せばにっこり微笑みながら受け取ってくれた。ちなみに試作品の日本酒はうちの飲兵衛三人組が『お米からできるのよねぇ、ノブちゃん作れないかしらぁ?』という無理難題を吹っかけられたことから実験が始まってしまったものだ。サタンニシキにも余裕があったので試してみるかと作り始めたらなんだかんだではまってしまった。アルコール吸い込みすぎてぶっ倒れたりしたけども……。
さて本番まであと少し。準備も大詰めなのである。
無論、俺以外にも動いてくれている。
ミタマ、フツノさん、カグラさんの三人とタマちゃんは今頃、当日の食材調達のためにダンジョン内を走り回っていることだろう。
エレノアさんにはギルドやそこの依頼でお世話になった人へ招待状を配ってもらっている。
セフィさんは……またもや注文の数字を勘違いしたせいで商品の作成に必死になっている。他の面子もそれに振り回されてる感じだ。安定の駄目っぷりである。
わかもとサンはきっと光合成をしているはずだ。彼は守護神として佇んでいるだけで平和だと思えるからそれでいい。
そしてついにその日を迎えた。
俺の目の前には純白のドレスに身を包んだ五人が立っている。
それぞれの胸元にはドルヌコさんへ加工を依頼したペンダントが輝いていた。
ミタマにはダイヤモンド。
フツノさんにはルビー。
セフィさんにはサファイア。
カグラさんにはアレキサンドライト。
エレノアさんにはエメラルド。
ドレスと相まって今までにないほど目を奪われる。
そんな言葉も出ない俺は頬を染めた5人に手を引かれ扉を開ける。
太陽の陽射しが入り込み一瞬目を閉じるも俺の目の前には俺達を祝福してくれる為にたくさんの人が集まってくれていた。




