第98話 闇に潜った悪意
短編が日間36位に入っててびっくりしました。
こちらをブクマしてくれる人が多く読んでくれたと思われるのでこの場を借りてお礼申し上げます。
さ! もうすぐ100話、頑張りますよ!
傷ついて倒れていたブライトン君も意識を取り戻し現在は正座したベルチカを囲んで詰問タイムである。
「それで、なんでこうなったのか教えてもらえるかな?」
本当ならパーティ内の問題であるからして俺には関係なさそうだが『因果応報』なんて使ったもんだから事の顛末は知っておきたいのである。
「えーっとあのどうしてあなたが? たしかノブサダさんですよね? あの視線を向けたら孕まされるとか噂の」
どんだけ噂が一人歩きしているんですかい。悪意しか感じない。帰ったらみんなに慰めてもらうんだ、ぐすん。
「とんだ言いがかりだからね! 俺にはちゃんと愛する人たちがいるんだ。手当たり次第手篭めにしてるとかそんなことないからね! なんか視線をあの子たちに向けているけど彼女たちはうちの従業員だから勘違いしないようにね!!」
まったく。全員してこっちを見やがって。
「失礼しました。でもなんであなたが関わっているのか答えていただいてませんけども」
気の強い子だな。思い込んだら暴走するタイプっぽいけども。
「たまたまアフロ君の暴走を止めたがあんな呪いの魔道具を配るような輩が街の中にいるってだけで問題だからさ。俺は衛兵隊総隊長の師匠に報告する義務がある」
「えっ、あなたはパパンと同門なんですか!?」
アフロ君、パパンって……。ちなみに先達ての大立ち回りはダンジョンに篭ってて知らなかったらしい。
「ああ、マトゥダ師の十番目の弟子だ。話は逸れたけどもあの魔道具はそんじょそこらの占い師が持っているような代物じゃない。俺としても事の大きさを測りかねてはいるけれども単なるパーティの内輪もめで終わりそうな問題じゃないってことだ」
「たしかにそうですね。分かりました。私の覚えているかぎりのお話をします」
ベルチカの話ではこうだ。
彼女はアフロ君に恋心を抱いていた。だが最近どうもチェインとアフロの仲が進展してそうな雰囲気を感じ焦っていたようだ。別な友人から良く当たり適切なアドバイスをしてくれると噂の占い師の話を聞いて早速訊ねてみたらしい。
占ってもらった際に水晶玉からなぜか目が離せなくなり占い師が言うことは全部正しく言うとおりにすればきっとアフロが振り向いてくれるという気になったという。
そして今日、あの宝玉をお守りと称して渡しはぐれたフリをして事の顛末を見届けていたそうだ。
「その占い師の名前とか容姿は覚えている?」
「えーっと、あれ? 思い出せない。それに私に占い師を紹介してくれた友達って……誰?」
これはもう思考誘導というか記憶操作と言ってもいいレベルだな。どこまでが本当だか分からないがとにかくも彼女に接触した誰かがアフロ君を害するように仕向けた。とはいえアフロ君に聞いても特に身に覚えはないようだ。
だとすれば彼に接触する大人物。テムロさんが目的かはたまたその上の公爵様までいくのか。なんにせよ一冒険者が手を出せる範疇を飛び越しているだろう。これはもはや師匠たちに丸投げするしかない次第だ。
「とりあえずだ。全員、この事は他言無用だ。アフロ君、テムロさんにすぐ連絡はとれるかい?」
「すいません、パパン、いえ、父の予定は把握していないです」
「そうか。だったらこのまま衛兵隊本所に向かおう。たしか今日は師匠がいるはずだからね。そこから件の占い師の足取りを追ってもらう。それとベルチカちゃんはしばらく安全な場所で匿ってもらった方がいいかもしれない。どこか当てはある?」
「それなら私と一緒に神殿に参りましょう。常駐の神殿騎士様たちもいらっしゃいますし私の部屋でよければ泊まれますから」
ベルチカへ救いの手を差し伸べたのはチェイン。それを見て目に涙を浮かべながら抱きつくベルチカ。
「ごめんね、ごめんね。私のせいなのに」
「いいの。ベルチカのせいじゃないわ。もしかしたら私が操られていたかもしれませんもの」
そのままベルチカはわんわんと泣き出してしまう。
とりあえず泣き止むまでは彼女に任せておこうか。
んじゃ今度は男衆をどうするかだわな。
「アフロ君とブライトン君はどうする? テムロさんに事情を話して保護してもらうのが一番だとは思うけれども」
「僕は……父を頼るのが苦手なんです。でももしかしたら僕のせいで他の人を巻き込む事になりかねないんですよね?」
「そうだね。単に君が狙いかもしれないし他になにかあるのかもしれない。情報がまったくないから判断できないのが現状だけどね」
「判断は父のお師様にお会いしてからでもいいでしょうか? ブライトンもいい?」
「(コクコク)」
アフロの言葉に頷くブライトン。ずっと一言も発しないと思っていたらお前は無口キャラか。
ちなみに彼が気付いた当初アフロ君が土下座して謝っていた。気にすんなとばかりに肩をぽんと叩いていい笑顔していたんだがそうか単に喋らないだけか。
「それじゃ一旦ダンジョンを出よう」
全員頷きその場をあとにした。
◇◇◇
パキィィィィィィィィン
台座に備え付けてあった水晶玉が甲高い音をあげて脆くも砕け散る。
その様に深くローブのフードを被った男は怪訝な顔を向けた。
「呪詛返しだと? あの小娘どもにそんな芸当ができるとは思えなかったんだがな。ちぃ、記憶操作の遺物が台無しだぜ。貴重なもんだってのによ」
男は考える。
念のために術をかけるときは水晶玉を経由して魔力の質を変えていたのが功を奏したようだ。
しかしこうなるとここもやばいか。呪詛返しをかけられるほどの術者が傍にいる。下手したらここを割り出してくるかもしれん。
「ったく厄介なことだぜ。まあいい、御大将に言われたことの9割は終わってるからな。あとは時期を見てあっちの仕掛けを発動させるだけだ。こっちの手駒が育つのも待たないといけねぇしな。厄介な『流星』やら『戦拳』を始末できたらと思ったんだがちょいと欲張りすぎたか」
男が何やらぶつぶつと呟くと占い師のナリとそのテントは瞬く間に消え去っていた。
闇の中残されたのは猛禽類のような鋭い目をした赤衣の男だけ。
「さーて、グラマダの皆さん。しばらく先のことだがショータイムの際には楽しんでくれよな。俺は安全なところでそいつを眺めさせてもらうからよ。それじゃ暫しのお別れだ」
スタンと軽やかなステップを踏みながら男は闇の中に姿を溶け込ませた。
◆◆◆
衛兵隊の本所はダンジョンの入り口からさほど遠くないところにある。俺は彼らを本所に連れて行った後、一旦うちの子達を自宅へ送り届ける。そしてもう一度本所へと舞い戻った。
「ふうむ、そんなことがのぉ」
顎髭をさすりながら師匠はしかめ面をしていた。
横にいるユキトーさんの顔も冴えない。
アフロ君たちは別室で休んでもらっている。
この部屋にいるのは俺達三人だけだ。
「そうなってくるとこの件はあれと繋がっていると見たほうがよいかの、ユキトー」
「十中八九はそうでしょうね。ノブサダ君が一度戻っている間に数名占い師がいたと思われる場所に派遣しましたが恐らくすでに失せたあとかと」
「じゃろうな」
「えーっと、事情が飲み込めてないんですが何か繋がるような事件でも?」
「うむ、儂らが今まさに頭を悩ませていた案件があってな。それなりに実力のある冒険者や街のものなど多種にわたる者数十名に一定期間の記憶がない、もしくはありえない記憶が存在しているものが出ておる」
「やり口などまったく不明だったのですがノブサダ君の予想が正しいのかもしれません」
「すいません、証拠の品になりそうな首飾りを壊してしまって……」
「いえいえ仕方ありませんよ。そうでなければ彼女に事情を聞くこともできなかったでしょうし。それにしても解呪や鑑定までできるとは多才ですね。いえ、この人の弟子ですから規格外なのはいつものことなんですけども」
いつものことですか。ユキトーさんはちょっと胃のあたりを押さえているよ。すいません、そのうち胃薬作れたら一番にお持ちします。
「取りあえずテムロのやつには伝令を送っておいた。今頃はすでに伝っておるじゃろう。あの娘っこたちは衛兵隊が責任もってハディン神殿に送り届けるわい」
「アフロ君たちは?」
「テムロ次第じゃがな。この有様ではダンジョンに潜るなんぞできんだろうし儂がいっちょ稽古でもつけてやろうかの」
ああ、ご愁傷様。俺とユキトーさんは思わず互いの顔をみて苦笑いした。
それから訓練所から悲鳴が断続的に聞こえたとか聞こえないとか。あとで改めてお礼を言いに来たアフロ君の顔が蚯蚓腫れだらけだったのは仕様ですわな。一応、ヒールはかけておいたので頑張れ若人。
後日知ったことだが帰ってきた衛兵達の報告では案の定その場所はもぬけの殻だったという。
かなり大きな事件なのだが手がかりが完全に失われてしまったらしく師匠たちも御手上げらしい。とりあえず見回りを強化して対策するそうだ。




