第95話 胎動
没ネタ集
オルテア「知らないのかい? オーガ族ってのは生肉でもホイホイ食っちまう種族なんだぜ」
最近噂の占い屋さん。恋愛相談から失せ物探しまで的確なアドバイスをくれると評判です。
路地を曲がったその先に。ぽつんと建った小さなテント。そこにその人はいらっしゃいます。
「今日はどうされましたか?」
「わ、私の思い人へ恋が実るにはどうしたらいいでしょうか?」
そんな相談を占い師さんに持ちかける。薄暗いテントの中で男性とも女性とも分かり難いその人は水晶玉に触れるとなにか小さな声で呟いています。すると水晶玉が淡い光を放ちうっすらと輝きだしました。なぜでしょう、私はそれから目を離せません。
「あなたの思い人への恋はこの首飾りをつけてこの宝玉をかの人が愛用するなにかに添えつければ叶うでしょう」
「は、はい! すぐにでも! これはお代です」
手持ちの有り金全てを渡し意気揚々とテントからでます。うふふふ、これであの人は私のものに、うふふうふふふふふ。
◇◇◇
のぶさださ~ん、のぶさださ~ん♪ お腰につけた月猫で~♪
二つに魔物を割りたいな、ハイ♪
割りましょう割りましょう♪ お子様連れで的確に~♪
ストンと二つに割りましょう、ヘイ♪
さ、ただ今お子様4人を連れてダンジョン2Fへと来ておりますよー。
当初は三連娘だけのはずでしたがなぜかティノちゃんもご一緒です。血なまぐさいことをさせたくはないものの自衛の力は持ってもらいたいのも確か。本人がやりたいって言うもんだからディリットさんを説き伏せてことここに及んでおる次第なのですよ。あ、お目付け役のタマちゃんは俺の頭の上に鎮座しております。
とりあえず犬型や人型と違ってキノコ相手なら嫌悪感も薄いだろうと選んだ狩場。
あまり人の来ない魔物スポットで静かな場所だったのですよ。
それが今や……。
「ほーっほっほっほっほ、愚物は大人しく消え去るが良いのですわぁ」
「おらおらおらおらおら、もっと強いやつはいないのか。わたしを満足させるほどのさ!」
「くかーーー、おおぅ。目の前に急に来るのは卑怯なのですよー、ウィンドアロー、ウィンドアロー、ていてい」
「精霊さん、精霊さん、ぱぱっとやっちゃって~」
鞭打たれ殴りつけられ貫かれ跳ね上げられるキノコ達。ピ○ミンもびっくりだ。
まさにお子様無双状態……どうしてこうなった!! 現実逃避にあんな歌を歌ってしまうのも仕方がないのである。
時は遡る。
「ちわー、おやっさんいますかー」
いつもの如く軽ーい感じで入る店内。
「おう、今日はどうした? ダンジョンに行くには随分と遅い時間……だ……が、また増やしたのか!? 今度は年端も行かない子供か!?」
なんて人聞きの悪い。増えたっちゃあ増えたんですけどもね。
「いやいやいや、どんな想像されているかはあえて突っ込みませんけどこの子達はうちの従業員ですよ。物騒な世の中ですから自衛力を高める為に人の少ない時間を見計らって鍛えるんです」
「そ、そうか。お前に関しては随分と色々なうわさが流れているからな。もしや、と思ってしまったよ。今度は『魔獣』とか呼ばれているらしいな」
何それ! 聞いてないんだけど!
また変わったのか、というかどんどん人から離れてないか? もう諦めてるからいいよ。それより本題に入らないとな。
「そこら辺についてはもう諦めました。今日はこの子達に合う武器防具を選ぼうかと思いまして。武技などの適性もありますし色々と持っていこうかとね」
え? と怪訝な顔をするおやっさん。あれ? なんかおかしい事言った??
「ノブサダよ。お前もしかして『武魂石』を使わなかったのか?」
はえ? なんですかその初耳アイテムは。
「ええ、それってなんでしょう?」
あちゃあと言わんばかりに頭を掻きながら渋面をつくるおやっさん。
「そうか、お前と初めて会ったとき随分と武具を買い込んだからもしやとも思ったんだがあまりに自信満々に買っていくから知っているとばかりな。『武魂石』ってのは魂石を加工したものでな。こいつを使えばその人に適性のある武器が分かるんだよ」
ΩΩΩ<ナ、ナンダッテーーーー
武技使えないとか宣告があったりその後模索したりとかの俺の苦労って一体……。
「……とりあえずその『武魂石』っていうのを5人前お願いします……」
「壊れるわけじゃないから一人ずつな。ほれ嬢ちゃんたち順番にこいつに手を乗せな」
そう言っておやっさんが取り出したのは力士の手形みたいなそこそこの大きさの石版もどき。
まずガーナが手を乗せれば『武魂石』からもやあっと文字が浮かび上がる。
『細剣、片手剣、小型盾、鞭』
鞭!? 確かに某吸血鬼ハンターの得意武器ではありますがそれにやられる側じゃ。それに女性が使うのも……いやいいのか? いいのかなあ。
オルテアだと『拳、球、岩、棒』。
突っ込みどころ満載ではあるがどう突っ込んでいいのかも考えさせられる。
マーシュは『片手棍、両手棍、杖』。
普通だ。だがこれほど嬉しいのは何故だろう。
ティノちゃんが『短剣、弓』。
うん、これも普通。普通が素敵。
そして最後に俺なんだが。
『両手刀、片手刀、片手棍、両手棍、杖、銃、暗器、爆弾』
……杖まではいいんだが。この世界もう銃あったりするんかね?
そして暗器に爆弾って。もはや笑うしかない。俺に暗殺や大量虐殺しろって言ってるのか。
いや、魔物にならもうやってるけれどもだ。まあいい、これでクラスのほうもある程度目星がついたのかもしれない。そう思っておこう。これ以上考えてもドツボに嵌るだけだ。
「あー、それじゃこの結果を踏まえて自分に合いそうな好きな武器を選んでおいで。防具はそのあとだな」
「「「「はーーい」」」」
その様子を見ながらおやっさんがぷくくと笑いを堪えている。
「すっかり父親みたいになっているな。それにしてもお前さんの適性だが二箇所ほど読めないのがあったがありゃなんだ?」
およ、読めないってことはまだここには存在しないかなにかなのかね?
「俺にもわかりませんよ。防具ですが時間そこまでないんで出来合いのやつ見繕ってもらっていいですか? 」
「ああ、構わんよ。最もアイアンアントの防具は素材入荷未定だからないがな。『乱流砂』が終わったらお前さんもいくんだろう? 指名依頼で頼んでおこうか」
「そりゃ構いませんよ。今度の遠征は一気に9Fに取り掛かるつもりですしね。おやっさんには世話になっていますし大量に獲って来ましょう」
「そりゃ助かる。ま、無理だけはするな」
「あ、そう言えばボロボロですがミスリルソード手に入れたんですよ。こいつ鋳潰してこないだ伝えた製法で試してもらえませんかね?」
「ああ、あの東方伝来だとかいう片刃のあれか。ってこいつぁ両手剣か。そこそこの量はとれそうだな。片手用のなら2本分ってところだが」
「ええ、それでお願いします」
「任せておけ。『乱流砂』が治まるまでには仕上げておいてやろう」
きゃいきゃいと武具を眺めるお子様たちを微笑ましく見守りつつそんな会話を交わしていた。
30分後。
この子達はこんな装備になりました。
・ガーナ
メインウェポン:ヴェラの鞭
サブウェポン:アイアンレイピア、バックラー
メインが鞭なの!? ガーナ、君はどんな道を目指すというのか。ちなみにヴェラの鞭はこの店で死蔵していた魔法の鞭。使い手も少ない上、効果も不明。何年もほこりを被っていたと格安で買えました。
『ヴェラの鞭』
人になりたいと願っていた魔族が使用していたとされる魔法の鞭。
使用者の意思によって鞭の軌道をある程度変える事が出来る。
ちょっとしたホーミング効果がでたりするのかね。命中率があがったり相手の予想外の攻撃とかできそうだ。でも闇にまぎれて生きるのは御止めください。
・オルテア
メインウェポン:アイアンメリケン
サブウェポン:鉄球、トレントの棍棒
普通にメリケンサックです。なんでも直に肉を抉る感触がないと戦っている気がしないらしい。どこの戦闘民族ですか。あ、オーガ族だった。鉄球はそのまんま。野球ボールほどの鉄球を3つほどお買い上げしております。トレントの棍棒なんだがなぜか形状がバットなんだ。何回りも大きく太くて長いんだけれども。
・マーシュ
メインウェポン:トレントの杖
サブウェポン:モーニングスター
暇な時間、セフィさんに師事を受けてたようで風魔法を習得していたマーシュ。魔法の補助にトレントの杖っていうのは普通で素敵。でもなんでサブはモーニングスターなんだ。トゲか、トゲ鉄球だからか?
ティノ
メインウェポン:トレントの小型弓
サブウェポン:アイアンカッター
膂力の関係と取り回しの良さからティノちゃんは小型弓を選択。アイアンカッターは片刃のどっちかというと鉈に近い形状の短剣。邪魔な小枝もこれで粉砕とのこと。あれ? エルフって森の守護者とかじゃなかったっけ? 剪定ってことでいいのだろうか。
防具は革の胸当てなど動きを阻害しない重要部位を護る軽めのものを選んだ。さらに付与魔法の『軽化』を使い軽量化を図る。触媒がなくて使えてなかったがおやっさんから弟が使っていたものがあると譲り受け使用可能になった。ジルーイさん、そんな特技があったのね。
とりあえず防御力で足りない分は俺の魔法で補助する。
そんなこんなで代金合計21,240マニー。こいつぁ結構な出費。だが店の防衛力強化のためだから必要経費だ。良かった、化粧品などの売り上げ入ってて。
というわけで新規武具を揃えて意気揚々とダンジョンへと潜ったのである。