第92話 無双……される
91話、色々とご指摘あった部分を修正しました。
一体何番目なのか!?
というわけで第92話はじまりはじまりー♪
合計数で100話到達していたようです。感想頂いて気付いたし。閑話と登場人物紹介混じっているのでちゃんとした100話にむけて日々ネタを探しつつ邁進しますよ。
「おいおい、随分と面白いことをしているじゃないか弟弟子」
なん……だと!?
識別先生、お願いします!!
びーびー♪ エラーが出ました。いやマジで。
くそう、なんかイラっとする駄女神アナウンスよ。どうやらなにかしらの手段で識別先生が阻害されたようだ。
見た目は30歳半ばってところか。クセのある短い茶髪に時折見せる鋭い瞳、ちょっと三白眼っぽいけど。
怪訝な顔をする俺にちょっと意外そうな顔をしながら話しかけてくる白い鎧の男。
「ん? 師父から聞いていないか。俺はテムロ・リェイ。師父の一番弟子でここグラマダで騎士隊の部隊長を任されている」
なんですと。この人が一番の兄弟子か。なんだろうね、師匠のような戦闘狂にも見えないし随分と落ち着いた物腰だ。
「初めまして。最近弟子になりましたノブサダです。お名前だけは窺っていましたが容姿については聞いてなかったもので」
俺達が挨拶を交わしていると周囲から『ざわ……ざわわ……』とどよめきが上がる。
「お、おい、あれって『流星』か!?」
「ああ、間違いない。あの白い鎧と得物は『流星』だろう」
「なんであいつとにこやかに話してるんだ?」
『流星』ってのはこの人の二つ名だろうか。ちょっと羨ましい気もする。俺のってひどいじゃない?
「はははっ、そう固くなることはないさ。あの人とエレノア君に認められた君に何をするでもない。そんなことをしたらすぐにどやされてしまうよ」
「は、はぁ」
「それにしても随分と面白い戦い方をしているな。流石師父の目に留まるだけはある。うちの息子と年齢は近いようだが桁違いだ」
師匠も言ってたっけ。俺の見た目と同じくらいの年の息子がいると。うーむ、これってフラグたっちゃったっぽい?
「ああ、そういえば君があの情報をアミラル氏に渡したんだったな。今日は公爵様から仰せつかってギルド内人事の一新について話し合いにきたんだ」
これは周りに聞こえないようそっと告げてくれた話だ。そうか、公爵様も巻き込んでしっかりやっててくれたんだね。さすがアミラルさん。仕事のできるギルドマスターです。
「それで話し合いが終わって降りてきてみれば君が6人を圧倒している場面だったというわけだ。いや、俺の若い頃を思い出す戦いぶりだったよ。懐かしいな、9人の刺客を相手に立ち回った時を思い出す」
増えてますやん。9人とかどんだけですか。
テムロさんはふむんとちょっとだけ考え込んだと思ったら何やらいい事を思いついたようでにこやかに爆弾を投下した。
「どうだい? さほど疲れているようにも見えないし俺と一戦やってみるか?」
うお、予想外のお誘いが! 師匠とエレノアさん以外のとんでもない実力者と戦う機会ってなかったからいい経験になるのは間違いないと思う。思うんだけどなぁ……門下同士の模擬戦ってある条件がなぁ。
よしっ! 危険だが経験のほうを優先しようか。最悪死なないようにだけは気をつけて!
「胸を借りるつもりでお相手させていただきます」
「いい返事だ。今じゃ息子も相手をしてくれなくてね」
息子さん、苦労してそう?
「お、おい、『流星』とあいつが模擬戦だとよ」
「すげぇ、あいつって戦拳の門下だったのか」
「女侍らすのだけが自慢とかじゃなかったんだな」
ひでぇ、俺の評価どんだけよ(血涙)。確かに友達少ないけどさあ。
いいもん、ミタマ達にさえ理解されていればそれで! そのミタマ達はものすごく心配そうに見つめてくる。
うん、ごめん、無茶します!
俺は月猫を抜き放ち本気の臨戦態勢を整える。
マトゥダ門下の心得その一。
弟子同士が立ち会う場合、模擬戦とは言え真剣を用いるべし。
師匠、どう考えても実力差があるんで改正してもいいと思うんですよ?
「師父から名乗りについては聞いているかい?」
「ええ、大丈夫です」
ギャラリーからは真剣でやることに驚きの声があがる。俺がそっち側だったらまったく同じ反応をするだろう。
「ならば始めようか。我が名はテムロ。戦拳が一番弟子なり」
「我が名はノブサダ。戦拳が十番弟子なり」
「「いざ、尋常に、勝負っ!!」」
テムロさんは背中からゆっくりと片手で取り回すジャベリンを構える。他の得物はお腰につけたきびだんご、じゃないモーニングスター。取っ手が直結しており長さが把握できない。こちらは前情報でそんな得物だと分かっている。そうでなきゃメイスにしか見えないもんだ。
対して俺は月猫を返しの型で構えつつフルプロテクションを使用。どうにも待っててくれてる感じですな。
「来ないならこっちからいくぞ、ふっ」
半身を傾け独特な構えから鋭くジャベリンを突き出す。俺の左の肩口を狙い繰り出された攻撃を落ち着きながら半歩体をずらしそのままジャベリンの柄を狙い月猫で切り上げる。
フオン
その攻撃はあっさりと空を切り俺は無防備な姿を晒した。なんだ、あの槍を戻す速さは。突きと戻しの速度が尋常じゃない。さながら速射砲のように繰り出される穂先。最初の一撃以外は必死に避けることで手一杯になっていた。これがまだまだ流しているだけってんだから驚きである。
「どうした? こんなものかい??」
落ち着け! 地力じゃどう足掻いても敵わない。それに加えてなんというかこっちの動きを先読みして動いているとしか思えないな。そうであるならば型どおりの動きではジリ貧だろう。
だったら予測の斜め上を飛び越えてやればいい。
ドンとバックステップで距離を取った後、『空気推進』を加えて一気に近づく。
「正面からかい。それは随分と正直すぎやしないか?」
目前で空中を蹴るような仕草で『空気推進』を噴かす。直角に曲がった俺は更に軌道を変えテムロの真横から月猫を振り下ろした。
ガキィ
金属のぶつかり合う音がしんと静まり返った修練場内に響き渡る。初めてジャベリンを使って俺の刀を受け止められた。どうやら柄まで金属のようである。よくもまああれだけ振り回すものだと感心してしまう。軽量かなにかの付与魔法でもかけられた品なんだろうか? 刃がめり込む気配も無くよほどの業物であろうことがうかがい知れる。
「ははっ、面白い。魔法と体術を組み合わせるか。本当に変わった戦い方をする。こちらも少し本気を出すとしようか」
腰に付けられていたモーニングスターを左手にもつテムロさん。そう俺の斬撃は右手一本に止められているんだ。っと、それよりもなにかやばそうな気配がする。一度距離を取るべきだ。
だっと後ろへ下がり出方をうかがうと先ほどまでと同様にジャベリンが繰り出される。落ち着いて半身だけ避け今度こそ反撃をっ!?
ゴスン
ごふっ
息が出来ない。わき腹に鉄球がめり込んでいるんだ。フルプロテクションあってこれかよ。
刀の柄を使って鉄球を跳ね除け空気を吸い込む。痛ぅう、絶対アバラが何本かヒビいってるな。ハイヒールを発動し急いで治療を試みる。
それにしてもジャベリンからほとんどタイムラグなしで鉄球が飛んできた。今では先ほどまで同様メイスのような形に収まっているが。あの半身で突いてくる構えはモーニングスターの出所を分かりづらくするためなんだろうと推測する。
しかし、辛いなこれ。切り傷擦り傷と違って鈍器のダメージは体の中に蓄積する。刃こぼれもないし持久戦にはこれほど向いている武器もないんじゃないかって思う。
なんというかあのモーニングスターも月猫と同様に魔法具、魔道具って呼ばれる類のもんなんだろう。さっきから鎖の距離がとんでもない。さらにどこから出てくるのか分かりゃしない。
「あの感触なら確実にアバラをやっていると思うのだが動きは変わらずか。どうやらヒールかなにかを使いながら戦っているのかな。骨まで繋ぐヒールなんて聞いた事は無いけれどそうじゃないかい?」
なんだろう段々と楽しくなってきているのだろうかテムロさんがにこにこと語りかけてくる。随分と余裕ありますな。そらそうかだって俺は反撃できていないもの。
テムロがモーニングスターを使い出してから俺はまったく接近することができないでいた。モーニングスター自体の射程を測りかねているのもあるが直線のジャベリンと曲線のモーニングスターによって間合いすらうまく取れない。
ここまで翻弄されているとこちらとしても御手上げである。本当は体術と高速機動魔法だけでどうにかしたかったがこれほど実力差があるとはね。
こうなったら兄弟子殿には是非にも驚いてもらわないと気がすまないな。
近づけないなら射程外から釣瓶打ちにしてやればいい。弾幕はパワーなんだぜ。
『空気推進』だけでなく『空気浮揚』も使い滑るように移動し始める。狙いは足元。上体を狙ったら外せばギャラリーに当たってしまう。
「氷結弾!」
横滑りしながら連続で水平撃ち。ガガガガガガと氷の弾丸がテムロに向かって撃ちこまれた。
「む、戦い方を変えてきたか。どうやら本気を出し始めたかな」
体に当たりそうなものだけをジャベリンで器用に打ち落としながら未だ余裕を見せるテムロ。
「魔力量と発動の速さは評価に値するが攻撃が単調すぎるぞ」
それは俺も分かっている。だからこうするんだ。
ゴゴゴゴン
テムロさんの四方から石壁が一気にせり上がる。2メールほどの石壁に阻まれたテムロさんは身動きが取れないはずだ。これで一気に近づく……ってええええ!?
ゴガゴガゴン
万全の魔力でもって作り上げたはずの石壁が脆くも崩れ去っていく。嘘だろ!? 師匠だって一撃では破壊できなかったものにしたはずだぞ。
よく見ればモーニングスターのとげの先端に触れた部分から分解されているように見える。どれだけ多機能なモーニングスターだ!
「今のは良かったがまだまだ魔力の練りと構成力が甘い。だからこの『流星』に軽く解かれただけで魔素と散る」