第91話 無双
作成時のBGM
作業用アニソンメドレー→サトミ○ダシメドレー→メタルマッ○スメドレー
寝ているうちに鼻血を出していたみたいでござる。
起きたら枕が真っ赤になっていて軽くホラー。
冒険者でごった返すギルド内。俺たちは8Fから戻ってすぐにギルドへと足を運んだ。
時間は午前10時ほど。予定は今回の買取と例の乱流砂に対するギルドの対応の確認。
「おかえりなさい、あなた」
エレノアさんのお迎えに思わずデレっとしてしまう。ミタマに抓られつつだらしなく緩んだ顔を引き締めその場で任務完了できる依頼を見てもらった。
エレノアさんが依頼掲示板からいくつかの依頼票を剥がしているとなにやら声を荒げる者がいる。
「ちょ、ちょ、ちょっとエレノアさんよ。いまから俺らが受けるところだったんだぜ」
「申し訳ありません。ですがこの場で依頼完了できる方がいらっしゃいますし依頼者からも急ぎの案件と聞いておりますので」
そう言われるとなぜか俺のほうをキッと睨む冒険者。見た目は普通の戦士風だな。特に目立ったところの無いその風体は言い方は悪いがモブっぽい。
あれ? こっち来た!?
「お前! 前々から気に食わなかったんだ。女の影に隠れて依頼をこなしているのがな」
随分な言われようである。でも、あんな悪意のある二つ名を広げられているのだからそんな事もあるんだろう。それにしても個人的な恨みをむけられているような雰囲気があるのだが気のせいだろうか?
『俺と決闘しろ!』
ん? なんか微妙にはもったように聞こえたんだが。それにしても決闘? やだよ、面倒な。
『ふん、怖気づいたか。こんな奴に靡いてるなんて可哀想な面子だな』
「俺だけならともかく人の大切な女性たちも貶めるのはやめていただきたい。いいでしょう、そんなに戦いたいのならお相手しましょう」
言ってしまった。人のこと言えないよ、沸点が低いったらない。ちょっと待てとか知り合いの連中が言っているがこいつ一人ならきっと余裕だけどね。
『ようし、だったら奥の修練場で勝負だ。我ら六つ子が貴様に天誅を加えてやる。我らが勝ったら大人しくパーティを解散してもらうぞ』
なんだと!? 六つ子? 一人かと思っていたら分身するかのようにぞろっと並び立つ。うっは、なんだこれ。持っている得物以外はみんな同じだ。顔も、背丈も、防具も。
ってことはなにか。6対1ですかい。
さっき後ろの人が言いかけたのこれか。
うぉぉぉぉぉとなんでか後ろのギャラリーも沸いている。
「いよぉぉし、久しぶりの決闘だ。賭けを受け付けるぜ。D級冒険者六つ子のゴットマンズ対D級冒険者『獣欲』のノブサダの対決だ! 勝ち負けだけでなく何分持つかのベットも受け付けるぜぇ」
「ゴットマンズに1,000マニーだ!」
「5分持つに500マニー!」
「1分に300マニー!」
うへえ、もはや一大イベントになりつつある。なんで精算にきたはずなのにこんな目にあうんだ。
「……ノブ」
「ああ、すまん。なんか大事になっちまった」
「……お小遣い全額勝つのに賭けたから負けちゃ駄目」
おおう、わかもとサンを抱きかかえたミタマが心配しているのかと思いきやしっかり賭けておられましたか。聞けばフツノさんとカグラさんも、果てはエレノアさんまで俺の勝ちに賭けてくれている。これは格好悪いところは見せられないな。負け? いや、なんでだか一切負ける気がしない、なんでだろうね。
修練場の周りにはあの時いた冒険者のほとんどが集まっている。おい、職員も集まってるじゃないか、仕事しなさいよ。中央には六つ子と俺、それとなぜか審判にランバーさんが来ている。
準備している間に相手の情報を少し聞けた。
冒険者パーティ『ゴットマンズ』。上から順にイーワソ、リャンワソ、サンワソ、スーワソ、ウーワソ、ローワソの六つ子。戦士、シーフ、修道士、魔術師、狩人、盾術士とバランスの良いパーティだそうだ。盗賊狩りなど対人戦の依頼を多くこなす実力派の若手でD級だが近々C級へと昇進するのではないかと目されているらしい。
「これよりギルド立会いの下、決闘を開催する。冒険者パーティ『ゴットマンズ』対冒険者パーティ『イズミノカミ』代表ノブサダ!」
「ミタマさんを誑かしやがって絶対にシメてやるぜ!」
「そうだ、フツノさんを貴様の毒牙から救い出してみせる!」
「ふはぁ、カグラさんに踏まれたい……」
「エレノアさんの笑顔を俺のものに!」
「前から片思いのあの人のところに居候なんてしやがってなんて羨ましい、恨めしい!」
「ミネルバちゃんはぁはぁ」
若干おかしいのが二名ほど。結局は単なるやっかみかい!! その気持ちは分からんでもない。元々全然女っ気なかったし。だがその為に解散を賭けて卑怯な手を使ってまで決闘なんぞする気はないけどさ。
受けてしまった俺も悪いがきっちりしばきあげちゃる。
「双方、宣誓と要求をここに!」
イーワソが一歩前に出て力強く声をあげる。
「『ゴットマンズ』はここに遺恨を残さず戦い抜くことを誓う。俺達がやつに要求することは一つ。即刻パーティを解散することだ!」
おおおおーーー! となんでかギャラリーも盛り上がる。俺が何をした!
「ノブサダはここに遺恨を残さず戦い抜くことを誓う。俺が要求するのは財産の没収及び以後定期的な奉仕依頼の受注でお願いします」
俺一人だし勝手な解散要求するくらいだからこれくらい要求してもいいだろうとランバーさんに確認はしてある。奴隷化って声もあったんだが流石にC級間際の冒険者を奴隷落ちさせてここグラマダの戦力を落とすのは得策じゃないと思うんだよね。武具は回収するけどもな!
今回、俺は月猫は使わない。まだまだ加減するほど余裕がないから。いつも全力だったしね。
「では……始め!!」
ランバーが開始の合図をあげ後ろへ下がる。
「「「「「「見よ! これが我ら六つ子の奥義! 六身合体攻撃ゴットマんぶげらぁ」」」」」」
合図とともに瞬時に動き『空気推進』で加速したとび蹴りをお見舞いするノブサダ。ライ○ーキックばりのその威力は正面に陣取っていたローピソ(盾術士)を吹き飛ばし背後にいたスーピソ(魔術師)を巻き込んで転がっていく。壁に衝突した二人はぴーよぴよとひよこが頭の上を飛ぶような感じで気を失っている。
辛うじて横に転がりかわした四人だが体勢を立て直す前にノブサダの猛攻は続いた。
よろめきながら起き上がろうとしているサンワソ(修道士)の体に肘が打ち込まれる。そのまま肘で抉り裏拳で喉を打ち、さらに拳で顎を跳ね上げた。跳ね上げられた体は後ろからどさりと倒れひくひくと痙攣している。
体勢を立て直したウーワソ(狩人)が立て続けに矢を放つ。だがその矢がノブサダに届く直前、ガゴンという音とともに競りあがった石の壁に阻まれた。
「無詠唱だと!?」
ギャラリーから信じられないものを見たような声があがる。それもそのはずこの世界の魔法で詠唱破棄ならまだしも無詠唱をするということはまず無い。制御もおぼつかなくなるし魔力の消費量も跳ね上がるからである。ノブサダ自身も何度か挑戦していたがなかなか思うようにいかないでいた。だが石器の作成や拠点作成にストーンウォールを使い続けているうちにこれだけは出来るようになったのだ。魔法ごとに熟練度のようなものがあるんだろう。
ウーワソとリャンワソ(シーフ)が壁の裏側へと矢を雨のように降らす。
そしてイーワソ(戦士)はたまらず壁の影から出てくるであろうノブサダを待ち構えていた。だが内心はかなり焦燥に駆られている。あまりにも予想外だった。開始から大して経っていないのにも関わらずすでに三人も戦闘不能になっている。六身一体の攻撃は今までどんな盗賊団でさえ翻弄してきたというのに。
しかし、全然出てこない。もしかしたら矢でもう倒れてたりするんじゃないか? そう思って一度矢を放つのを止めようとしたときドサドサっとなにやら音がした。イーワソが振り向けば二人の兄弟は倒れそこにはノブサダが立っている。いつの間に!?
石壁を張った後、すぐさまノブサダは動いていた。空間迷彩を発動し彼らの背後に回っていたのだ。
「くそっ、何がどうなってやがる!」
慌てて向きを変えノブサダへと向き直る。一体なにがどうなっているのか分からないがこのままおめおめとやられてたまるっ!?
ノブサダがなにか呟いたように見えた瞬間、強烈な浮遊感に襲われる。
そう、イーワソは宙を舞っていた。真下にノブサダが迫っているのを理解しているが空中ではどうすることも出来ない。そしてノブサダから淡い光を放つ拳が胴へと突き上げられると彼は地獄の苦しみに悶絶することになる。
「烈空ぅぅぅぅぅぅ戦拳突きぃぃぃぃぃぃぃぃい!」
ゴスンと鈍い音が修練場内に響き渡る。
拳がめり込んだイーワソは絶え間なく断続的に襲い来る激痛に失神すらさせてもらえない。淡い光の正体はなんとヒール。致命傷を避けるために敢えてヒールをまとわり付かせておいたのだがそれによる回復と衝撃が繰り返されるというもはや拷問に近いものとなっている事にノブサダは気付いていない。
ドサリとイーワソの体が地に降ろされた。泡を吹き白目をむいてひくひくと痙攣していた。そしてランバーから決着が宣言される。
「勝者、ノブサダ!!」
おおおおおおおおおおおおおおおお
しんと静まり返っていた修練場内が大きな歓声に包まれる。
中には膝を付いてがっくりしているものもいるが恐らく賭けに負けたのだろう。
ふう、なんとかなったか。初見殺しな俺独自の魔法のおかげだな。対多数戦はあの時経験したからそれが少しは活かせたと思う。すぐさま数を減らさないととかけた速攻がうまく決まったのも大きい。グラビトンなんかも使えばもっと確実性は上がったんだろうけれどそこらへんの手札は隠しておくにこしたことはないからね。
気絶した六人は救護室に運び込まれ後ほどギルド立会いの下に宣言どおり財産の没収が行われるようだ。
さてと、何とかなったことだしさっさと買取を済ませたいな。
そんな事を思い振り向けばそこには見慣れぬ白い鎧を来た男が立っていた。気配すら感じなかったんだけど!?
思わず飛びのいた俺に男はにぃっと笑みを浮かべながらこう言い放った。
「おいおい、随分と面白いことをしているじゃないか弟弟子」