第9話 生活魔法ってなんじゃらほい?
やあ、おはよう、夜が明ける前に眼が覚めたノブサダです。
早すぎた。夜型人間には消灯早いもんだから生活サイクルがうまくまわらないぜ。
折角早く起きたんだし、剣の手入れきっちりやっておこう。ゴブリンを切り払った後、体液はふき取ったが研ぐのをすっかり忘れていたからな。宿の裏の井戸へ向かい砥石を取り出す。
包丁の研ぎ方しか知らんけどやるだけやってみよう。街についたらちゃんとした手入れの仕方を学ばないといけないな。
しゅりしゅりしゅりしゅり
無心で剣を研ぐ。
しゅりしゅりしゅりしゅりしゅりしゅりしゅりしゅり
うむ、てかっているぜ俺の鉄の剣! 今宵の鉄の剣は血に飢えておる、くくく。早朝だけど!
ナイフも研いでぴかぴかだ。
手入れが終わるともういい時間になっている。朝食はなんだろなー。
黒パンにスープ(´・ω・`)
もはやなにもいうまい。
無心で食べ進めていると姉妹二人が降りてきた。
「おはようさん、ノブ君。」
「……おはよう」
「おはよう、二人とも。ミタマは傷のほうはもう平気かい?」
「……大丈夫。ポーションのおかげ、もう走っても問題ない」
「それはよかった]
「そういえばノブ君、昨日隣りで少し騒がしかったけどなにしててん?」
「あー、それは後でのお楽しみってことで。フツノさん、今日の予定を聞いていいかい?」
「今日はこのまま街道沿いに進んでいくだけやね。今晩は野営になるわ」
「ふむふむ、野営の場合は交代で不寝番すればいいのかな?」
「せや、ノブ君慣れてないやろから最初に寝てええよ。うちが最初、ミタマが二番目で最後がノブ君な」
「了解、俺の準備は万端だ。朝飯食べたからいつでも出れるよ」
「それじゃうちらもすぐ食べてまうから待つっといて」
「んじゃ外で待ってる。急がなくてもいいよ、ごゆっくりー」
食器を返して宿を出る。
なんせ俺の荷物はリュックと武器だけだしな。準備なんてあっさり終わるのだよ。
待っている間に今後のことでも考えておくか。
1:街に着いたら寝床の確保。
2:冒険者に登録して依頼などの確認。また、ダンジョンについても調べる。
3:俺のHPとMPは全クラスのレベルで成長したものが全て加算されていることからクラスを色々成長させることが強さへの近道になりそうだ。
4:魔力纏の例もあるとおりいろいろとスキルも応用が利きそうなのでオリジナルの魔法やスキルを開発するのもいいかもしれない。うまくいくかわからないけど。
5:NA☆I☆SE☆Iって手もあるがこれは現時点では不可能だろう。元手と伝手が足りなさすぎる。これは今後の課題だな。
6:手持ちの荷物の中にポーションなどの素材があることだし錬金術師にクラスチェンジできるならそれを作るのもありだ。作業工程を教えてくれる人を探すのが先決だが。
7:武具の手入れを知るために鍛冶屋にも顔を出しておきたい。手入れどころか作成方法知りたいけど。いつか刀を作りたいもんである。一応、作成行程だけは頭の中に入っているけど知ってるだけだから作れるかどうかは別物である。しかし、これは漢のロマンだ。俺の中で使いたい武器ベスト3は日本刀、手裏剣、ビー○サーベルである。え、最後だけおかしいって? 気にしたら負けだ。
「おーい、そんなに考え込んでどしたん?」
む、いつの間にか二人とも準備できている。思ったより考え込んでいたらしい。
「暇だったからグラマダについたらどうやって稼ごうかなーと考えてただけさ」
「ノブ君やったらかなり家事できるんやし働きどころなんて引く手数多ちゃうん?」
「いやぁ、本業にするにはちょっと……。いまのところは冒険者として身を立てようかなと思っているよ」
「あら、ご同業になるんやね。将来有望な新人さんさかい今のうちからつばつけとこうかいな」
「ははは、先輩のお姉さまに甘えさせてもらってるよ」
「くふふ、やっぱり君はおもろいわ。さて、今日も張り切って出発しますか」
「あいよー」
さぁ未来へ向けてれっつうぉーきんぐ!
歩きながら見るこの世界はまったく開発されていないように見える。
街道といっても人が通行するのに最低限な整備(通行があるから雑草が生えない程度)で標識があるわけでもないからちゃんと街へと向かっているのか不安になってくる。正直、一人だったら挫折しそうな勢いです。
よかった、二人がいて。
他愛のない会話でも心細くないよ。
まぁ、こちらから振ることのできる話題はあんまりないんだけどね。迂闊に喋ることのできないことが多すぎる。
それでも積極的に情報収集にあたった。冒険者のこと、街の状況、フツノさんやミタマの好み。おかげで色々と知ることが出来た。
話しながらでも足は止めずに進むのである。しかし、我ながらよく歩けていると思う。こっちに来る前だったら10分でへばっていたと確信をもてるほどだから。
進化適応とはよくいったもんだ。レベルも上がっているから持久力もあがってるんだろうか。
特に何に遭遇するでもなく日は真上に昇っていた。
「フツノさん、ミタマ。休憩がてらそろそろお昼にしないか?」
「せやね。まぁ干し肉と黒パンくらいしかないんやけどな」
「……堅いけどないよりまし」
「あー、お昼は俺が準備するよ。フツノさんたちはお待ちあれってね」
「ぉぉ、マジなん!」
「マジマジ。あの丘あたりで休みますかね」
「あいあい、やーん、楽しみやわぁ。いっつも味気ないもんばっかりやったからねぇ」
二人に周囲の警戒を頼んで俺は準備に入るとしますか。
とはいえ碌に調味料もないからシンプルなもんしかできないけどさ。
昨日の内に準備しておいたのは小麦粉で作ったうどん生地。
久々に気合を入れて打ちました。
俺のこの手が打ち粉で白む! 生地を伸ばせと轟き叫ぶ! 愛情と感謝とけもみみ萌えのぉぉ! 麺! 麺! メェェェェェェン!
こんなことは無いが気合は入っていたのです。
岩魚の干物を細かく砕いたものをきれいな布に一まとめ。それと適当な大きさの石を数十個。うん、結構な重さでした。
石で簡易のかまどを2つ組み上げて鍋と小鍋をセット。
砕いた干物を鍋で煮込んでいく。ある程度煮立ったらアクをとり、その後、別な鍋に布でこしつつダシ汁を移す。砕いたのはダシが出やすくするため、もちろん内蔵部分は抜いてあります。
ダシ汁にうどんを投入し塩で味付けを調整していく。
あの小屋にいた時点でアク抜きしておいた山菜を溶いた小麦粉に通して小鍋の油へぽーん。
からっと揚がった山菜の天ぷらが完成!
うどんが煮えたら器に盛り付けますよ。天ぷらはうどんにのせてよし、揚げたてをそのままいただくもよしなのだ。
あー、醤油や味噌が欲しいなぁ。落ち着く場所ができたら作ろう。うちのばあさん直伝の自家製味噌をこの世界に!
「ほい、できたよー。フォークしかないけどうまいこと食べてね」
無論、俺もフォークだ。ハシで食べたいところだがここらにそんな文化はないっぽいのでやめておきました。街についたらマイ箸を削りだそう。
「こ、これは『うどん』と『天ぷら』やないの! おかんの得意料理やってん」
「ほほう、フツノさんのお母さんほどうまいこと出来たか自信はないが冷めないうちに食べよう」
「それじゃ、早速。っむぐ、おいしーい」
「……ずずず、はむはむ」
ミタマは一心不乱に食べている。もしかしてこの子、食いしんぼ属性ももってるのか!?
「ん、おいし」
そう言ってミタマは物欲しそうにこちらを見つめてくる。心なしか猫耳がふにゃっとたれている。
「ああ、まだおかわりあるから。食器貸して。よそうから」
「ありがと」
照れ笑いしながら食器を差し出してくる。やべぇ、ほれてまうやろ。
和気藹々と食事は進む。そんな中フツノがこんなことを言い出した。
「そういえばノブ君、ちょっと服汚れとるで? クリアの魔法で掃除したりせぇへんの?」
ぬ? しらん魔法だな。
「クリアの魔法ってなに? 聞いたことないのだけど」
一瞬、怪訝そうな顔をするもすぐに合点がいったのか
「せやったね、森の中で生活してたんやったら10歳での洗礼うけてへんのか」
「洗礼??」
「せや、国々で差はいろいろあるねんけど少なくともこの国では10歳になるとまずギルドでクラス鑑定をするんよ。んで、クラスを選択した後にそれぞれのクラスに向いた神殿で洗礼の儀をするのが一般的や」
「ほうほう」
「例えば戦士のクラスに就くなら”武と戦の神 アーレン”の神殿で洗礼を受けるし商人のクラスに就くなら”知識と商いの神 オルディス”の神殿で洗礼を受けるって感じや」
「ちなみに”成長と才能の女神 レベリット”ならどんなクラスが向いているんだ?」
「ぅぇぁ。ああ、あの女神様は。うん、そうやねぇ……」
あれ、めっさ言いよどんでる?
「あれ? なんか聞いちゃいけないことだった?」
「いや、そんなことないんやけど。うーん、言いづらいっちゃ言いづらいかなぁ。あの女神様はあんまり人気がないんよ」
「えっ!? そうなの」
「うん、ほら、他の神様だと方向性がしっかり分かっているし信仰しやすいんよ。成長も才能も生まれたときからのものや、後から修正ってできへんし何よりクラス自体そう簡単には変更できひんからほぼ一生ものやないの?せやからどうしてもクラスによって偏りができてしまうねん」
んー、確かに言われてみればそうともいえるな。成長が早いよりも地力を底上げするもののほうが人気あるのか。まぁ俺みたいにほいほいといろいろ上げれるわけじゃないから偏るのも無理はない。その他の例も聞いてみての感想だが
前衛職なら”武と戦の神 アーレン”
後衛職や商人系なら”知識と商いの神 オルディス”
農業や飲食関係は”生と豊穣の女神 アメトリス”
司法や政治に携わるなら”精霊と理の女神 ルーティア”
医療や葬祭関係なら”死と運命の女神 ハディン”(死に抗うってことからこっち信仰が多いらしい)
うむ、方向性がはっきりしてるな。
”成長と才能の女神 レベリット”はというと恩恵は確実にありそうなんだが間口が広すぎて漠然としている為、決め手に欠けているようだ。役者や詩人とかには一部人気があるらしい。ただ役者など娯楽に携わるものは大都市近辺にいるものがせいぜいで田舎のほうにはとんと訪れることはないそうな。
もしかして信仰少なくて暇だから俺ガン見されちゃったりしてる?
「話はそれたけど洗礼した際に習得できるのが生活魔法なんよ」
生活魔法は生活するうえで便利な魔法セットみたいなもんでこの世界では結構当たり前のものらしい。
さっき言ってたクリアの魔法は服や体の汚れを落とす魔法らしい。その他にも着火や弱い光をともす蛍火の魔法など数種類あるらしい。ちくしょう、火打石で頑張って火をつけてた俺が馬鹿らしいじゃないか。
「誰でも洗礼はうけれるもんなの?」
「せやね、冒険者になるならクラスの設定が必須やしその流れで洗礼を受けるのはええと思うよ。ただ、洗礼受けるには2,000マニーくらい必要だったはずや」
マイガッ、やっぱり有料か!
「うん、それくらいなら蓄えからだせるからなんとかなる。グラマダについたら早めに受けておこう」
「そのほうがええやろねぇ。今はうちがかけたるわ。美味しいお昼ご馳走になったからロハでええんよ?」
八重歯をのぞかせてにんまり微笑む。
「お願いします」
そう言うしかないよね。
「んじゃいくよ。清浄なる流れよ、その身を清めん。クリア!」
おお、なんか淡い光に包まれたと思ったら汚れが無くなっている。なんという洗濯いらず。
すんげぇ便利だな。
「ありがとう、フツノさん」
くぃっ、くぃくぃっ。ん? なんか服のすそが引っ張られてる。
「……私も、かける」
「お、お願いします」
そう言うしかないよね! ね!
「……ゴニョ……ゴニョ……クリア」
うん、見た目はあんまり変わってないがなんかうれしい。
「ありがとう、ミタマ」
俺にできる最上級の笑顔でお礼をいっておく。
なんとなく心がほっこりして疲れも取れた気がする。
さぁ日が暮れる前に目標地点を目指そう! 俺たちは片づけを終え再び歩き始めた。