表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大悪魔サタン誕生伝説~光を求めた反逆者たち~  作者: 月光女神
第三章 三人の反逆者と怪物
14/21

天界の闇

 その後、抜け道という名の細い地下通路を通り、四人は天界軍総本部へ戻ってきていた。ウリエルは別館に残しているので、いずれは天界軍総本部の天使たちに無事に保護されることだろう。彼女は四大天使の中でも、唯一の希望である。クロアが信頼できる大天使の一人は、彼女しか存在しないのだ。

 これから先。

 反逆を成功させた後、この天界を背負って歩いてくれる背中を持つ者はウリエルしかいない。

 だから、絶対に彼女だけは殺すつもりはなかった。

 口に出したことはないが、彼女との日常的な関わりは正直なところ楽しんでいた。今となっては反逆者となってしまったクロアなため、二度とウリエルと口喧嘩できる日々も戻らないかもしれない。

 だからこそ。

 尚更、この反逆を成功させて再び彼女と顔を合わせてみせる。

「よいしょ、っと」

 ファーリスが細い地下通路の出口、錆びたことで耳障りな音を鳴らすドアを開く。すると視界に入ってきたのは天界軍総本部の地下一階の通路だった。白い清潔感溢れる廊下は、汚い地下通路を踏みしめてきたクロア達にとっては癒しとも言える空気を持つ。

 しかし。

「おい馬鹿、さっさと閉めろ!!」

 足音が廊下の曲がり角から聞こえてきたため、クロアが急いでドアを引き戻す。うっすらと隙間から外の様子を伺うと、大勢の武装した天使たちが城内を慌ただしく走り去っていった。自分達が別館から脱出して三十分はたっているだろう。おそらくは、既に別館に天使達は突入し、もぬけの殻だと知ってここにも警備を張り巡らせているだろう。

 四人はサタンを囲むようにして、あくまで彼女の安全を確保しながら、急いで天使たちが過ぎ去った廊下をかけていく。

「おいファーリス、アテはあるんだろ?」

「はい。地下一階は私の管理する北方軍が警備していました。ここは我が家も同然です。事前に申し上げた通り、この廊下を抜ければ大きな広間に出ます」

「そこを抜けりゃ、四天室に続く階段があるんだよな。あとはミカエルの首を取るために強行突破だ」

「それ以外に、もうこの地獄を切り抜ける方法がありませんもんねー。はは、何だか足が震えてきましたよ」

「恐怖か」

「違います。武者震い、ってやつです」

「そいつは頼もしい」

 クロアはサタンの手をしっかりと握りながら、四人で一斉に廊下を走っていく。案の定、途中で何人かの天使と遭遇したが、こちら反逆者グループは元帥が三人も集まっている。雑兵程度はまったく危険にならないため、予定よりも早く広間へ到着した。頭上には巨大なシャンデリア、円状のその広間には西洋風な置物やカーペット、複数の絵画や銅像が目立つ。

 しかし。

 そのまま広間を突っ切って、一本道となっている前方へ向かおうとしたとき。

「っ!! 止まってください!!」

 突然、ファーリスが大きな声を張り上げた。

 彼女は腕を横に突き出して、後ろにいた三人を制止させる。

 もちろん、クロアたちは驚いて足を止める。すぐそこに四天宝へ繋がる道があるのだが、ファーリスの険しくなっている顔を見ると、どうにも足は動かない。

 アルスメリアが、誰もいない周りを見渡しながら尋ねる。

「どうした……? 敵兵の気配はないぞ」

「音が、聞こえます」

「音?」

「音です。何だか、すごく……生きてるような」

 四人は不安そうに耳を澄ませる。

 しかし、耳に意識をかたむける時間さえも、神は与えてくれなかった。



 ゴバッッ!! と、天井が勢いよく砕け散った。

 真上から何かが落ちてきて、それは足があるのか綺麗に着地する。



 まず最初に、息を飲んだ。

 四人の目の前に現れたのは、言葉にできない異形な存在。形状は人のようだが、その大きさは全長二十メートルは超えているだろう。さらに言えば、あくまで形状は人だということであり、その顔はゾウのように胴体とは不釣り合いな大きなもので、耳まで口が裂けている。

 足はクモのように何本もあり、とてもじゃないが人とは絶対に言えない怪物だった。

 吐き気がこみ上げてくる化物を前にして、四人は一歩後ろへ下がる。 

 そこで、真後ろから声がかかった。

「素晴らしいだろう、我々天界軍総本部が作り上げた傑作だ」

 驚いて振り向くと、そこには見覚えのない三十代くらいの男が立っていた。クロアたちが通ってきた道を使ってきたのだろうか。そんなことは思考せず、今はただ重要なことを尋ねる。

 アルスメリアが、動揺を隠しきれていない声で言った。

「あれは、一体なんだ……!? 貴様ら、本当に裏で何をしてきた!! 作った、確かにお前はそう言ったぞ。説明しろ!!」

「アルスメリア元帥、そうカリカリするな。その化物の飼い主に私、ジルクス・ラルーが任命されているから、こうして飼い犬のそばにいる。ペットの自慢くらいするさ」

 ジルクスは声を押し殺して笑うと、嗜虐的な笑みを浮かべて口を動かす。

「過去に、我々天界は天界の人口が増えすぎたのでいらない民を処分することにした。確か……アルスメリア元帥、君の妹さんも含まれているね」

「っ」

 忘れもしない、悪夢の記憶。

 怒りで歯を食いしばったアルスメリアだが、ここは冷静にしなくては相手の思う壺だと己に言い聞かせて殴りかかるような真似はしない。

「で、だ。その処刑された天使たちの死体、捨てるよりリサイクルしたほうがいいと我々は考えた。そこで、作ることにしたんだよ。―――天使たちの血肉を混ぜ合わせて、まだ生きている細胞を組み合わせ、そうして生物兵器を完成させた」

 男は言った。

 容赦なく、禍々しい怪物を指差して、アルスメリアに告げた。



「よかったねぇ、アルスメリア元帥。『最愛の妹』とご対面できたじゃないか」



 血が沸騰する。

 ほとんど話を流すように聞いていたアルスメリアだったが、この男の説明を理解した時には、既に我慢の限界がきていた。

 自分の妹は。

 クロアが死ぬ思いで助けようとして、それでも死んだ妹は。

 死してなお、『化物の構成材料』として利用されていたのだ。

「き、さま……!!」

 アルスメリアが、理性を無くして飛び出そうとした。

 しかしそこで、ジルクスに気を取られていることが判断ミスだと気づく。自分の足元の影が、ふっと消えた。それだけじゃない。周囲全体の影があらたな影に塗りつぶされるように消えて、急いで振り返れば答えがあった。

 全長二十メートルは超える化物が、その巨大な体を使って体当たりしてきたのだ。

 呆然としたアルスメリアだったが、そこでグイっとファーリスに襟首を掴まれて引き寄せられる。さらに彼女はアルスメリアを担いで、横へ大きく跳躍していた。

 クロアもサタンを抱えて回避しているため、奇跡的にけが人はぜろだ。しかし長くは持たない、そうファーリスは確信していた。

(……どうしましょうか)

 彼女は悩む。

 しかし、悩んだかと思えばすぐに笑みを浮かべる。不敵で、腹が読めなくて、作り笑いだとバレバレな、いつもの彼女の仮面が現れた。

 しかし。

 ただ一つ、その笑顔が普段と違うのは……。

「クロアさん」

 アルスメリアを下ろし、近寄ってきたクロアのもとへ軽く突き飛ばす。彼女は妹の成れの果てに戸惑いが残っていたが、ファーリスの考えを理解し我を取り戻す。

 クロアもまた、眉根を寄せて彼女の作り笑顔を見つめていた。

 分かっていた。

 こうなることは、初めから理解していた。

 これから挑む道のりが、犠牲の一つも出ずに乗り越えられるものだとは思っていなかった。

 だからなのか。

 彼女の眩しい笑顔は、とても遠くにあるように感じられてしまった。



「お先にどうぞ。ここは私が処理をします」



 ファーリスは『雪刀』を鞘から少し抜く。

 抜刀術の構えを整えて、その華奢な背中を三人に向けて、異形の化物と向かい合った。




 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ