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大悪魔サタン誕生伝説~光を求めた反逆者たち~  作者: 月光女神
第一章 光を求める者達の花見
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とある幼女と天使の少年

別作品、悪人話の大悪魔サタンちゃんの過去編です。こちらと悪人話は別の作品として読めます。なので、どうか悪人話を読んでいない読者様もお目を通して頂けると幸いです。


 天界という世界が存在する。

 天使という神の使いが生きる場所であり、彼らが天界の平和と秩序を守っている。天界に生きる全ての人々を第一に守り、治安を正しく維持することを忘れず、悪は即断罪する光の種族なのだ。正義だと誰もが思う。人々を守るために戦い、邪悪を打ち払う姿は、きっと誰がどの視点から見ても善だと認識されることだろう。

 だが。

 この男だけは、少し違った。

「面倒くさい。いや、面倒くさいじゃないな。面倒がくさいというよりは、面倒がうざいから……面倒うざいだな。あー、面倒うざい。あれ? いやでも、俺はうざいというより鬱陶しいと感じてるし……」

 天界軍の中でも上の位に立つ天使、西方軍元帥のダーズ・デビス・クロア。元帥という地位に君臨する彼は、つまり天界軍の一部隊のリーダーを務める偉大な天使の一人だった。

 しかし。

 ちょうどよく伸ばした黒髪に黒瞳を持つ彼は、実際のところ、元帥という称号を背負うことに不満があった。

「本当に面倒くさい。一体、俺はあと何回『こういうこと』をすればいいんだよ」

 彼は草原の上に立っていた。辺り一面を支配する植物の群れは、頭上で輝く晴天とよく似合っていた。この絵を汚すような真似はしたくない。しかし、これほど空気や天気がいい中で、クロアは実に不愉快になる行為を取っていた。

 ゴバッ!! と、轟音が炸裂する。

 足元で転がっていた男の天使が、クロアに背中を蹴られたことで海老反りになって五十メートルは吹き飛んだ音だった。空中で三回は回転して地面に体を打ち付ける彼は、全身を舐めまわすように広がっていく激痛に顔を歪めて血を吐き出す。

「ご、っば……!?」

「悪いな。クソ面倒くさいけど、俺はこれでも隊長なんだよ」

 心底嫌そうな顔をするクロアは、天界軍総本部から下された任務に不満があった。昔も今も不満があったのだ。今回叩きつけられた任務内容は、『幼い天使の子供を誘拐した者の殺害』である。

 殺害。

 そこから、既に天使とは狂っている。悪は滅ぼし善を生かす。そういった考えに従って、自分たち天使は極論にもとづいて行動しているのだ。悪いことをした奴は殺して、良いことをした奴は褒め称える。

 そういった、あまりにも『善に見える悪』に天使とは成り果てている。

 故に、それに気づいている聡明な天使のクロアは、

「……何が天使だ。どう考えても死神じゃねえかよ」

 足元でうずくまっている誘拐犯の男に、指先を向けるクロア。すると徐々に変化が現れる。淡く輝く光の粒子が辺り一体に生まれて、それらは吸い込まれるように指先へ集まっていく。クロアの魔力だ。西方軍元帥、ダーズ・デビス・クロアが操る破壊の一撃が凝縮される。 

 クロアは情けなどかけない。

 ただ、自分のしている行為に嫌悪感を感じながら、

「『絶無消滅アバルガート』」

 魔法名を唱えた、直後のことだ。

 鼓膜を吹き飛ばして、脳を鷲掴みするような轟音が起爆した。

 なぜなら、



 魔力の大爆発が炸裂したのだ。

 ゴバァァッ!! と、クロアの前方に広がる草原の全てが抹消されてしまった。



 災害だった。

 一瞬で全てが焼け野原にされた一撃は、天災としか言いようのない天罰だった。熱と風圧で全てが吹き飛び、火の粉を粉雪のように巻き上げて異臭が充満する。大量の植物が根こそぎ消失したことで、独特の臭いが広がっていくのだ。

絶無消滅アバルダート』。

 クロアの持つ膨大な魔力を使って、空気や大気ごと焼失させる熱破壊現象の魔法だ。

 凄まじく、異常な力。

 だがしかし、クロアは西方軍を束ねる元帥である。これだけの力を鍛え上げなければ、軍の隊長を任せられる資格はない。

 ターゲットの殺害は完了。

 残るは、離れた場所にある馬車だけだ。情報によると、あの誘拐犯は民家の馬車を強奪すると同時に誘拐していた女の子を詰め込み、必死の逃亡を行ったそうだ。くだらない。そんな犯罪に手を染めるだけで、こうしてクロアに殺された人生はくだらなすぎる。

「あーもうクソ面倒くさい。何で俺がガキンチョの保護なんてしなきゃならないんだよ。こりゃ帰って酒だな、うん。シャワーはビールで、湯船はワインで、全身の毛穴にハイボールを流し込むしかないよな」

 クロアの少年のような風貌から、飲酒はしていいのか怪しいものだが、天使としては何百年と生きているため問題はないのだろう。首の関節をコキコキと鳴らして、離れたところに捨てられてあった馬車に近づいていく。

 荷台の方に回って、扉を大きく開けてみた。

 すると、

「……おいおい」

 そこには誘拐された少女がいた。

 しかし予想以上の幼さだ。思わずクロアは目を丸くする。本当に子供同然な風貌を持つ彼女は、ぐったりと倒れて眠っているようだった。誘拐されて眠れる神経に驚いたが、それよりも驚くのは神々しい容姿である。

 足首まで伸びている、凄まじく長いストレートの銀髪。今は閉じられているが、水晶と変わらない銀の瞳も吸い込まれる魅力がある。黒のゴスロリ服を着ている、見た目十歳前後の銀髪幼女は、天使そのものと言っていい白い肌も持っていた。

 人形ではない。

 神様のために作られた人形のようだった。

「ん」

 そこで彼女は目を覚ます。

 のそりと起き上がって、陽の光を背に立つクロアに顔を向ける。

「……だれ、だ?」

「おまわりさんだよ。ガキンチョを一人保護しに来たんだ」

「ほ、ご?」

「ちっ。ここじゃ面倒くさいな」

 首を傾げる幼女に、ひとまず天界軍総本部へ連れ帰るほうがいいと判断したクロア。

 彼は寝ぼけている幼女を抱き起こし、荷台から外に移動させた。

「まったく。どうしてこう、ガキンチョってのは大人に迷惑をかけるのかね。あ、俺は大人だからな!? テメェが思っている以上に人生経験積んでるぞ!? 見た目が少年でも心はダンディだから!! いいな分かったな理解したな!?」

「……」

「? おい、何か言えガキンチョ」

「……」 

 腕の中にいる彼女は、ぼーっとした顔でクロアの顔を見上げていた。

 しかし、それも束の間。ゆっくりとした動作で、彼女はクロアの瞳を間近で覗き込んだ。彼の顔を包むように引き寄せ、さらに自分の銀目を急接近させたのだ。

 そして、



「……宝石みたいな、瞳だな……」



 心の底から、クロアの黒瞳を評価した。

 一方、意味のわからない発言に呆然とするクロアだったが、すぐに彼は声を上げる。

 なぜなら。

「あ」

 グサ、と。

 よほど綺麗だったのか、まじまじと観賞していた幼女の指が、ついにクロアの右目にえぐり込んだ。欲しかったのか、手に取って眺めたかったのかは知らないが、とにかくクロアからしたら激痛以外のなにものでもない。

 その結果、

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!?!?!?」

 綺麗な黒瞳と黒髪を持つ少年天使から、甲高い悲鳴が巻き上がった。幼女を手放してうずくまるが、軽い身のこなしで落ちた彼女は着地する。

 無駄に身体能力が高い。 

 それが、地味に怒りを倍増させる。

「な、なにすんだガキンチョォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!! て、テメェ潰すからな!! 絶対テメェ潰して叩いてこねくり回すっ!!」

「? もちでも作るのか?」

「何でそうな……あ、ごめん確かにもちの作業工程だな」

「気にするな。誰にだって間違いはあるからな、でも、次からはメッだぞ?」

「はは、いやいや悪かったよ。―――じゃねえんだよガキ!! 人の目玉ガッツリ触ったよな!? 何かもう目玉焼き崩す勢いで突き刺してきたよな!?」

「してないよ」

「しましたよ!? テメェ尊敬するレベルの嘘つきだな!!」

 天界軍の西方軍を率いる元帥・ダーズ・デビス・クロアは、こうして一人の天使と出会った。いろいろとぶっ飛んだ出会いだったが、これがきっかけで、いずれ天界が驚異の荒波に飲み込まれるとは誰も知らない。 

 天使ではない種族。

 すなわち『悪魔』が誕生することを、この時は誰もが知る由もない。



 

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