008 遭遇 2
知人にイラスト描いてもらいました
はっつけてちゃいました^^w
「おいおいおいおい、上玉をつれてるじゃねーか」
「おお、いいね~こりゃ高く売れるぜ?」
「それよりもハグレオークとはいいね~倒しがいがある」
「ちょっとーあんな子供まで売るのかい、あんたら?」
「あったりめーよ、ありゃ奴隷だぜ?しかもエルフとくりゃ大金が入り込むってよ」
「ちげーねー」
「ッギャハハハハハハ」
俺たちを見て男と女が笑い出す。
何か下劣なことを話し合っているように思うのだが、良い気分ではない。
『あの~申し訳ないんですが、通ってもいいですか?』
一応声をかけてみる。
言葉は解らなくても、雰囲気で察してほしい。
「ああ?なんか行ってるぜ豚の化けもんが」
「ブヒブヒいって醜いね~」
あ、悪口言ってるぞこいつら。
勘でわかる。
「とにかくその奴隷のエルフを置いてとっとと失せな!」
「売る前に可愛がってやるよ、クヒヒヒ」
「そっちの趣味かよおまえ…」
下卑た笑いだな…
俺は目の前の集団から感じる嫌悪感から、エリルとエリラをタライから降ろし、背に庇うように退治する。
もし何かっても守ってあげなくちゃいけない。
あんな事があったのに、また怖い思いはさせたくない。
「お、やる気か豚が!」
「あれ、もしかしてあの子らオークにやられてんじゃね?」
「ああ?そりゃまずいな~虜になってるかもな~なんせオークの体液は極上の媚薬だって言うからな。痛みすら快楽にするらしいぞ」
「でも売る分には問題ないだろ。調教されてるってことで」
「それもそうだ」
「「「ぎゃははははは」」」
「ったく男ってのはどうしようもないね~」
「お譲ちゃん達、悪いことは言わないから、そんな化け物から離れてこっちにおいで」
紅一点の女性が一歩前に出て手を差し伸べる。
「あ?それで奴隷が離れるなら儲けもんだな」
「茶化さないで!」
更にゲタゲタと男たちは笑い、馬鹿にするような視線が突き刺さる。
俺はどうしたもんかと思案していると、エリルがなにやら怒った顔で叫んだ。
「嫌だもん!マサは優しくしてくれるもん!行かない!マサを化け物って言わないで!!」
「あ~ありゃ相当まいってるようだな。優しくオークにされて離れたくないってか?」
「いっぱい気持ち良い事されて、お譲ちゃんはもうメロメロですか~」
「ち…違うもん!メロメロじゃないもん!頭いっぱい撫でてくれるだけだもん!」
「っけ、頭だってよ?胸の間違いじゃないか?」
「「「ギャハハハハ」」」
『おいおい何言ってるんだエリル』
突然言い合いが始まってしまい戸惑う俺。
このまま口喧嘩がエスカレートすれば拙いように思う。
『エリル、とにかく落ち着いて』
どうどうとエリルを落ち着けようとするも一向にお怒りが収まらない。
『あのね、マサ。お姉ちゃんはマサのこと化け物って笑われて怒ったの』
『そうなのかエリラ』
『うん』
う~ん、怒ってくれるのは有難いが、事態がややこしくなるのは避けたい。
『エリル、もういいから。ほらこっちに来て』
『嫌だ!マサを悪く言うし変な事も言うの!そんなの嫌だ!』
なかなかに激しいようだなエリルは。
「あ、なんか言い合ってるぜあいつら」
「もう、喧嘩になっちゃてお譲ちゃん達が警戒しちゃったじゃない」
「どうでもいいさ~要は魔物を倒す。奴隷を頂く。なんもおかしなことない」
「だな、さっさとオーク退治をして奴隷を頂くか」
空気が変わり、緊張感が漂いだす。
さっきまでの緩んだ空気など微塵も感じさせない殺伐とした空気。
『エリル、エリラ、どこか安全な場所まで下がって隠れなさい』
俺がそう言って2人を促すと、悲しそうな顔をして2人は俺の後方へと走っていく。
「お、いっちょ前に庇おうとしてるのか。だがそれも無駄さ。お前はここで俺達に退治されるんだからよ」
最初に現れた男が剣を抜き構える。
それを合図とばかりに他の面々も戦闘体制に入る。
剣を構えた男が2人と槍が1人。
その3人を前衛にして、後方に杖を構えた男と女が1人づつ。
まさかとは思うが後衛は魔法を使ってくるのかもしれない。
異世界だしエルフもいればオークもいる。
魔法もあると警戒したほうがいいだろう。
俺は背負っていた袋から大斧を2個取り出し、残りは手近な場所に放り投げる。
割れ物はないから放っても問題ないだろう。
唯一パンがへこむのが心配だが。
大斧を両手で構え相手の出方を見る。
なんせ力は強いがスピードはそうでない。
一撃を確実に当てる行動をしないと確実にやられるだろう。
じりじりと間合いをつめる双方で、口火は相手方の方から起こしてきた。
想像通り、後方の女性が杖を掲げて火の玉を打ち出してくる。
「偉大なる火の神アリシラの加護を持って彼の敵を討ち滅ぼせ!ファイアボール!」
杖の先からハンドボール大の火の玉が俺めがけて飛んできた。
その後には杖を持った男が何か叫ぶと、前衛に向かって眩い光が降り注ぐ。
「慈悲深き聖母たるライリヤの加護を与えん!プロテクション!」
ったく厄介極まりない。
5人対1匹の構図でこっちは魔法なんて使えない。
しかも火の玉を避けることが出来そうにないので、斧を盾代わりに防いでいる俺目掛けて前衛が動き出している。
剣士2人が左右から攻撃しかかり、前面には槍使いが穂先を真っ直ぐに俺の腹目掛けて突き刺してくる。
ゲームではモンスター相手にPTが襲い掛かる光景は良く見かけるが、襲われているモンスターの立場なんて考えたこともなかった。
こんなにも一方的でやばい状況なんだなと冷静に考察してしまえるほど圧倒的不利な状況だ。
まずは防いだ炎を振り払い右側の剣士に向かって切りかかる。
少なくとも待って3方から攻撃されるよりも、攻撃が直線的になり1方向からになれるよう動くのが妥当に思う。
斧を振り上げ右の剣士に振り下ろす。
「おっと、俺がターゲットになったのか!じゃあ相手してやるよ!」
『何言ってるかわからんが、ただでは死なないぞ!』
「ブヒブヒいってんじぇんー!おらどうだ!」
俺の斧の一撃を避けながら悪態をつきあう。
会話になっていないが会話になっているような言葉の応酬後、剣士が放つ横凪の攻撃をバックステップでかわし、再度踏み込んで斧を振り下ろす。
「っけ、こりゃ楽勝だわ~こいつ攻撃が一直線でこわかねーわ~。おい!手出すなよ?オークを単騎撃破出来るチャンスかも知れねーしな!」
斧を振り回し攻撃を繰り返すも避け続ける剣士。
どういう訳か他の4人からの攻撃気配がなくなり一騎打ちのようになっている。
「ほらほら、どうした!こっちだこっち。グギャハハハハ」
どうやら俺を脅威に感じてないようで、遊んでいるように見える。
チャンスだ!
攻撃するたびに剣士は必ず左側に避けている。
慢心からだろう、避け行動も御ふざけが入りだしている。
俺は隙だらけになった剣士の行動を見て左手の斧を振り被り勢い良く後衛の男女に向かって投げつけた。
「ったく何処見てんだよ!武器があさってに飛んで…っておい!!!」
遊び過ぎた行動はPTメンバーにも波及する。
当然、他の4人も観戦モードになりだらけていた。
そこに俺から突然の投擲、しかも俺の怪力を目いっぱい利かせたものが飛んでいくのだから防御力の低そうな魔法職なんてあっという間にミンチになる。
斧があたり、切り裂かれ肉隗になって後方へ吹き飛ばされる男女の2人。
投擲したことで死んでいく仲間を見る目の前の剣士には、右手の斧を上段より振り下ろす。
もちろん避けられたが折込済みだ。
振り下ろし地面にまで刺さるようにした斧からはすぐに手を離し、勢いに任せて右手を引いている俺。
そう、アッパーを打てる対瀬になっているのだ。
避けた先を予想して繰り出された拳に、事態に取り乱された男は成す術もなく取り込まれ見事なまでに顎をかち割られ頭を粉砕して死に果てた。
「え?え?」
槍使いも残った剣士を侮っていた俺の行動についていけないようだ。
男を殴ったあと、省みることなく斧を掴みなおし、2人に向かって大回転をしながら接近する。
クルクルと回した体から出る斧は、遠心力をたっぷり含み2人の残敵を上下に分断する。
あっという間だった。
遊ばれてた時間の方が長かったように思う。
今回は俺に運が良かった。
もしあのまま5人が連携して攻撃して来ていたらどうなっていたか解らない。
とにもかくにも、俺は今のところ戦闘に関して運が良いだけだ。
少しでも強くなっておくべきだろう。
倒した5人の死体を眺めながら、俺は静かに黙祷する。