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005 出会い 4

 大人の女性が全員森の中に消えてしまった後、俺は今後の行動を修正する羽目になる。

 当てにしていた人員が居なくなれば当たり前のことなのだが、考えが甘かったのかもしれない。


「さて、どうしたものか」


 とにかく逃げるために準備をするのが先決だろう。

 考えるよりも行動しろとは、先達せんだつによく言われたものだ。

 とにかく準備を始めるにはまず腕の中の少女をどうにかしないといけない。


「ごめんね、お願いだから降りてくれる?」


 再度お願いして、ゆっくりと屈んで少女達を地面に降ろす。

 精一杯笑顔を向けて、安心するように諭すように言葉をつなげる。


「ここから逃げるためにも必要なものを集めたいんだ。一緒に居ていいから降りてくれるかな?」


 ちゃんと安心できるようにも説明を要れ、少女達が腕から離れるのをじっと待つ。

 こんな場合じゃないとも言えるかもしれないが、それでもこの子達にはまず我侭を聞いてあげないといけないと本能的に感じたから危険を承知でこんなやり取りを悠長にしているわけで…


 じっと俺の目を見る2人は、意を決したかのように俺から降りてくれた。


「ん。じゃあ集めるからね」


 待っていてとは言わなかった。

 この惨状を見せることが情操教育によくないことも解るが、さっきも言った通り、2人の一番したいようにさせ安心させることを優先する。

 俺は、目に付く必要なものを片っ端から集めだした。

 もちろん、2人の少女は俺の後ろに引っ付いて離れることなく行動を共にするのだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 随分と歩いた気がする。

 俺は背中に馬車の幌を風呂敷に利用した袋を背に2個抱えている。

 ただし抱えるといっても手は使ってない。

 腰に巻くベルトに袋を縛る紐を引っ掛け肩にかけているのだ。

 無論腰にかかる負担があり、ベルトが上に引っ張られることで股間がキュッとズボンで締め付けられている。

 まあ、なんというかちょっとマゾい痛みは感じている。


 空いた両手には、大きなタライがある。

 持ったタライを出来るだけ揺らさないように、でも歩調は緩めず大事に持ち運んでいる。

 だって、その桶の中には2人の少女がぐっすりと眠っているのだから。

 正直、荷物を持った状態で、2人をどうやって同行させようか迷っていたが、このタライのおかげで無事解決した。

 タライの中に、かっぱらった毛布やら布やらを敷き詰め、痛くないようにしてこの中に2人を入れれば歩かせて疲れさすこともないし、寝るときも地面に直で寝かすこともない。

 危険があれば、タライごとどこかに隠し置けることも利点だ。

 タライの中でスヤスヤと寝息を立てる2人を見て、頬を緩めながら俺はひたすら歩き続けた。


 あの後、必要なものを揃えて鞄に入れようとしたが入りきる量ではなかったので、急遽初めに見た壊れた馬車を思い出し、何かないかとあの場所へ移動したのだ。

 生憎と馬車のほうにも大きな鞄はなく、諦めかけた時にこのタライを見つける。

 それで、何故かピンと来て馬車の幌を引き剥がし、焚き火の付近に集めた物資をまとめてあの場所を逃げ出したわけだ。


 もちろんその間もずっと2人の少女は傍から離れなかった。

 インプリンティングされた鴨の雛のようにくっ付いて離れない様は、俺から見れば非常に愛らしかった。

 だが、その過程で俺は今まで考えようとしなかったことに気づいてしまった。

 食料を集める時に、改めて気が付くいかつい俺の手。

 馬車の幌を剥がす時に見た太く逞しい俺の腕。

 荷物を持ち上げるときに見える、今までなかった俺の腹回りの肉。

 極めつけは、顔を触ったときに解った大きく膨らみ上向いた豚の鼻らしき俺の鼻…


 多分、いや絶対にソウだろう。

 俺の力が増しているのも頷けるし、身長的に目線が上がっていることも納得いく。

 180cmだった俺の目線よりも遥かに上から望む景色。


 考えたくはなかったが、絶対にソウだとしかいえない変化。

 そうすれば、俺を見て攻撃しなかった豚の行動もわかる。

 オキテを適用したことも、俺を見て逃げ出した女性達のことも、そして言葉が豚にしか理解できず人の姿をした女性と少女には通じてないのも理解できる。


 俺は…

 あの豚の姿をしているのだろう。

 そう肯定すると全てに納得がいく。

 が、納得したくない!!

 ウェアドックとかドラゴンとかカッコイイ種族ならまだしも豚よ豚。

 何の罰ゲームとしか思えない状況だよ、ほんと。


 それに、今タライで眠っている2人の少女の異相も今は目に付く。

 白い少女も黒い少女も2人とも耳が長いのだ。

 耳たぶが長いんじゃないよ?耳の上部がロバのように長く伸びている。

 この特徴だけで、もうこの子達が何者か想像が付く。

 エルフ…


 ファンタジーでは定番の森の妖精たち。

 弓と魔法に優れ、森の中に住み独自の文化を営んでいる種族。

 つまり、目の前にはエルフがいて、俺と同じ豚の化け物がいる。

 多分、豚の化け物はオークだろう、そうとしか考えられない。


「エルフがいてオークがいて、見知らぬ森と俺自身の変化とくれば…異世界なんだろうな~ここは」


 暗闇の中でも目に映る植物は、全然見知ったものと違う。

 遠くの木々を見れば、その隙間から赤い光がいくつも見える。

 この森にいる化け物の一種なんだろう、俺達に付かず離れずついてきているし、もう地球じゃないのは丸解りなんだけど納得できない。


「ふ~」


 溜め息を吐き、現状を認識して陰鬱になってくる。

 崩れ去る常識と、己がオークであるという悲しみ、それらにより自己の精神が崩壊しそうな状況でも何とか食い止まっているのも目の前の2人の少女がいるからこそだ。

 俺が気が狂うのを止めてくれる存在。

 この子達を助けるという名目と、保護するという決意がかろうじて俺を俺たらしめている。


「さて、そろそろ頃合かもな~」


 手近にある木がちょうど良い形をしているので、そっと俺の頭より上の幹にタライを引っ掛ける。


「大丈夫、すぐ終わらせるよ」


 寝ている2人に向かって、返事がないことをわかりながらも声をかける。

 なんというか、形式みたいだけどそれで俺は戦える。


「じゃ、まっててね」


 タライを乗せた木の根元に背負っていた袋を下ろし斧を構え赤い好転のいるほうを目指す。


「囮かもしれないけど、距離さえ見誤らなければいけるっしょ」


 そう独り言を言いながら、俺は赤い目をした化け物と対決する。

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