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004 出会い 3

 気が付けば随分と放心していたと思う。

 最後の豚を仕留めてから一気に力が抜け、その場にへたり込みそのまま何もせずじっと座っていた。

 虚脱感とはこのことかもしれない。

 思いっきり感情に任せ変なテンションで暴れ周り、豚を人を殺し俺は麻痺していたと思う。

 だから、力が抜け感情が落ち着けばそこには唯の日本人である俺がいるだけだ。

 罪悪感や興奮後の震えやなにやら、惨い事になっていたのだろう。

 その声に気づかされるまで、ずっと座っていたんだから。


「●△○…◆○□…アアアア…」


 苦痛の言葉と歓喜の言葉が相互に聞こえる。

 どうやら襲われていた女性の声だと思われるのだが、見に行って聞く余裕は無かった。

 力なく振り返り、声のするほうを見るだけで俺は精一杯なんだ。


 暫くすると、その女性と同じような声が複数聞こえだし、次第に苦痛の声が多くなってきた。

 俺には言葉の意味がわからないが、音質からそう判断できるとしかいいようがない程に苦しそうな悲鳴だから解ってしまう。

 まああの惨状では仕方がないだろう。

 食われていた女性を思い出せば、必然その声が漏れて当たり前だと思う。


 その苦痛と悲鳴の声が大きくなるにつれ、俺は当初の目的であった少女のことを思い出す。


「ああ!、あの子達は!」


 一転して力を取り戻し、2人の安否を確認すべく檻の裏に走り出す。

 無事だろうか?

 それよりもちゃんと逃げただろうか??

 心配が先に来て、思わず走り出す。

 ドタドタと情けない程に慌てふためき檻の裏まで駆けつけると、2人の少女が身を寄せ合い膝を抱えて震えているのを見つける。


「逃げなかったのか…」


 何で逃げなかったのかとも思ったが、逆に姿が見れて安心したと思えても来る。


「全部終わったよ?大丈夫。怪我はない?そういや逃げないとね~ほら、おいで俺がちゃんと送るからね」


 そういって2人に近づき、膝を折り目線を合わせる。

 それでも俺の方が上から覗き込む形になるが、まあ問題ないだろう要は怖くないとわかってもらえればいいのだから。

 ここに匿った時と同じように、ゆっくりと手を伸ばし優しく頭を撫でる。

 すると、白い少女が堰を切ったように泣きながら俺の胸めがけて突進してくるではないか。


「おっと、大丈夫かい?」


 ぶつかってくる衝撃は感じることがない程に弱いものだったが、勢い良く突っ込んできたので少女の身が痛くないかと心配しながら、優しく撫でていた右手で飛び込んで来た白い少女を包み込み、背を撫でてあげる。

 抱き込むと、すぐに腕の中で小さな嗚咽が漏れ出す。

 今までの恐怖を我慢していたのだろう、嗚咽を漏らすも大声では泣かない姿に俺は白い少女の苦しさを感じ、少し強く力を込めて抱き寄せ宥め続けた。

 暫く白い少女の好きな様にさせていると、黒い少女がアウアウと口を開いてモジモジとしているのが見える、なんせ左手ではまだ黒い少女を撫でているのだからちゃんと黒い少女の様子も見ていたのだ。


 どうしたのかと目線で伺うと、黒い少女は俯いて震えだした。

 もしかして同じようにしてほしいのかな?っと俺なりに解釈して黒い少女をちょっと、ほんのちょっとだけ強引に抱き寄せて、白い少女と同じように優しく抱きしめてあげる。

 すると、安堵したのか黒い少女まで、目から大粒の涙をポロポロと零しながら嗚咽しだす。

 黒い少女まで大声を上げないところを見ると、なにやら俺の胸が苦しくなる。

 子供は大声で泣いてもいいのにと…

 結局2人の少女が腕の中でエグエグと泣き続け、それを優しくあやし続けることになった。


 随分と泣き続けていたが、多少落ち着いたのか2人の少女は俺の顔を見ながら何かを訴えるようにしだした。

 

「そっか、そうだよね。そろそろここから逃げようか」


 2人をあやしている間に俺も随分落ち着いて、今後を考えることが出来ていた。

 まずはここから離れること。

 出来るなら檻にいた3人の大人の女性にも同行してもらおう。

 それから、森を抜けるに必要なものと豚のような化け物に対応するべく武器や防具も持っていこう。

 食料もいるし、結構な量になるが鞄も要りそうだ。

 だから、まず檻の3人の女性に手伝いをお願いしないといけない。


「さ、おいで」


 泣き止んだ2人の少女を片手に1人ずつ抱きかかえる。

 右手に白い少女、左手に黒い少女を。

 ここに着てから感じる俺自身の怪力っぽい違和感は後回しにしても、2人は軽いので全く苦にならないことに驚く。

 よっぽど体重がないのかと思うくらいにだ。


「ん、軽い軽い」


 2人に向かって笑顔を振りまき、ゆっくりと檻の出入り口に向かって歩く。

 その際には出来るだけ凄惨な惨状を見せないよう注意深く進んでいく。


 歩いて檻に向かい中の様子を伺うと、檻の中には相変わらず最初に見たときと同じように、3人の女性がいた。

 

「え~っとちょっといいですか?」


 檻の中の女性達に向かって声を掛けてみる。

 でも、女性達は反応しない。

 もう一度声を掛けても無反応…


 仕方がない、檻に入って傍で声を掛けるとするか。

 俺は檻の格子ドアを開けるために抱えていた2人の少女を地面に下ろそうとしたが、なんか抵抗されてる?俺から離れようとしてくれないのだ。

 ゆっくりと腰を屈め、腕から優しく地面に足が付くように2人を下ろそうとしても降りてくれない。


「ごめんね、この格子ドアを開けたいからちょっとだけ降りてくれる?」


 2人に向かってお願いしてみると、何故か悲しそうな顔をして白い女の子が俺の首に腕を回して引っ付いてくる。


「い?おぉ?」


 突然のことで驚いていると、黒い少女まで同じように首に巻きついてくる。

 

「ちょっと、どゆこと?」


 思わず戸惑いの声を上げるも、2人から伝わる震えに俺は納得してしまった。

 多分降ろされて置いて行かれるとかなにか不安にさせたのだろう。

 2人の少女の震える腕を撫でながら降ろすのを止めて、もう一度抱えなおす。

 ただ、首に巻きつく腕は取って貰えそうにないので若干息苦しいというか、動きにくい。


「あ~大丈夫大丈夫。何か手立て考えるから」


 抱きかかえてもしがみ付き震える2人に向かって声をかけ、あやす様に体を上下にトントンと揺らす。

 何度かトントンと揺らしあやすと、腕の力も抜け2人の振るえもとまった。

 そのことを確認して、俺は格子ドアを開ける為にどうするか考える。

 俺が動かせそうな体は足しかない。

 ここは蹴りで開けるしかなさそうだが、出来るかな?

 そこで、一度試すためにも足でけろうと思うが、その衝撃や音で驚かれるといやなので皆に聞こえるように注意する。


「あ~開けますよ~足蹴けりますよ~ビックリしないでね~」


 通じるか解らないまでも声を掛けてから行動すれば、多少はマシだろう。

 俺は、声を掛けてから一拍おいて格子ドアに向かって蹴りをかます。

 多少力を入れたとはいえ、まさか格子がへしゃげるとは思わなかった。

 唖然とする俺。


 でも、腕の中の2人の少女は音に驚けども、動じることなく成り行きを見てくれていた。

 檻の中にいた女性達も、流石に大きな音で気づいたのか俺のほうを見て固まっている。

 驚く大人達の反応を見て、俺は勝手に2人の少女と同じ反応だと思い、ズンズンと大人の女性達に向かって檻の中に進み傍で声をかける。


「あの~すいませ~ん」


 間近で声をかけた俺を見て、一人の女性が金切り声を上げ身を起こし必死の形相で逃げ出した。


「○×△●!!□◆●△!!」


 頭を自身の両手で抱え、大声を上げ俺から逃げるように檻から抜け出し森の暗闇の中へと消えていった。

 あまりにも突然で予想不可能な動きを見せられた俺は、何も出来ずにただ見送るしか出来なかった。

 唖然として、残った2人の女性に目を向けると、こちらもまた大声をあげ逃げ出した。


「あの!待って!!」


 両手には少女が抱きかかえられている俺には、逃げる大人を制止するなど出来ない。

 手を伸ばそうにも伸ばすと少女を落としてしまう。

 たとえ入り口を塞ぐように移動しても、脇をすり抜ける女性を押さえつけることも出来ない。

 なんせ、手が塞がっているんだから。

 だから声だけをかけるしか出来ないし怖がらせるといけないので大声も出せない。


「あの~もしもし~~…」


 結局、3人の女性達は皆森の中へ消えていき、誰もいなくなってしまった。


「どうすんだよこれ」


 途方にくれた俺の声だけが檻の中に響くだけだった。

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