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003 出会い 2

 何処とも解らない場所で、目の前には化け物がたむろしている。

 更に化け物は人を犯し殺し、食べている。

 己自身もこの化け物達に殺され食われるかもしれない状況で、助けを求める小さな存在がいたとする。

 しかもその存在は小さな、か弱い少女だったら皆どうする?


 どんなに恐怖にさらされようと、どんなに無様ななりと弱い心を持っていたとしても、あんな小さな少女の哀願を無碍に出来る人間がいるだろうか?

 あ、いるかもしれない…

 でも、俺はそうなりたくない!

 俺が死ぬとしても、少しでも抵抗してあの小さな存在である少女を助けたい!


 俺は決意とともに辺りを見渡す。

 さっきまで絶望に染まっていた心も、少女を助けるという大義名分をもらうと勇気がわいてくる。

 まあどうせ俺も串刺しにされた男達と同じように殺されるとは思うが、それでも何もしないよりは良いと、人間として俺は最後に善でありたいと、そう思い武器を探す。

 

 武器はあっさりと見つかった。

 なにせ辺り一面に武具が散乱しているのだから当然といえば当然だ。

 豚の化け物…もう面倒だ豚でいい。

 豚の武器か殺された人々の武器かは解らないが、とにかく武具から酒から何からがそろっている。

 だからその中でも俺に扱えそうなものを手に取る。

 

 素人の俺が剣など扱えるわけが無い。

 鞭?そんなもの到底無理だし、槍など全然取り扱えそうに無い。

 長ものは有利だと聞くが取り回しに自信が無い。

 ど素人に合いそうな棍棒でもあればよかったが、生憎とそんなものは無く手頃なものと言えば手にした斧が妥当だった。


 両刃の斧で刃渡りは90cmはある大斧だ。

 柄も太いが握るとしっくりくる。

 こんなもの持てるとも思わなかったが、意外にも持ち上がるし軽く感じる。

 何時の間にやら力持ちになったのか、この斧が実はとんでもなく軽いのかはサッパリだが、叩き付けるだけに特化して言えば妥当なものに思える。


 ぎゅっと右手で斧を握り締め、俺の横を過ぎ去ったあの豚を探す。

 目当ての豚は、1人の少女に縄を打ち身動き取れないよいうにして、もう1人の少女の服を今まさに裂こうとしているところだった。

 豚に襲われ青ざめているだろうその表情は、相変わらず何も表さずにただ諦めと虚脱感に虚空を見つめている。


 白い女の子だった。

 薄汚れてはいるが金色のふわふわした髪に、愛らしい容姿。

 まだ発育途中の体は細く少し肉がないように思われる。

 裂かれた服の隙間からは、白い肌があらわになり膨らみかけの胸には淡く透き通るようなピンクの突起が見て取れる。

 その可愛らしい膨らみに、無造作とも言えるような荒々しい手つきで豚の無骨な汚い手が触れると、少女はピクリと体を震わせ涙した。


 途端、俺は激情に任せて斧を振りながら豚にめがけて突進する。

 狙うは豚の頭だ。

 豚と少女の側面から突進しているので、少女を傷つけることなく豚を仕留めるには上段から力任せに頭を狙うのが良いと思ったからだ。


 走る速度は速くは無いが、斧を振りかぶり迫る俺に気づいた豚がビックリして顔を向けてももう遅い。

 振りかぶった斧を下ろせば、豚の頭部をかち割れる。

 勢いと力に任せてど素人なりに目いっぱい振り下ろす斧は、多少の抵抗を感じただけであっさりと豚の頭をかち割り地面まで到達した。


「え?…ほえ?」


 豚を両断したことに驚き、怒気に支配されていた俺は情けない声を漏らす。

 怒りを忘れるほどに驚きの手ごたえだったからだ。


 血を噴出しながら真っ二つに分かれて崩れる豚。

 助けた少女も縄打たれた少女も唖然として俺を見ている。


「あ、あ~とにかくこっちだ」


 そういって、白い少女を抱きかかえ縄打たれた少女にもとに駆け寄る。


「大丈夫か?心配するな、君も助けるから」


 縄打たれた少女に声をかけ安心するように言う。

 言葉が通じるかは解らないが、何も言わないよりはマシだろうと思ってのことだ。


 豚を殺した俺は、すぐさま他の豚に襲われるだろう。

 その為にも2人の少女を背に庇い、食い止める覚悟で挑むつもりでいる。

 もちろんこの隙に逃げてほしいとは思うから、急いで縄を打たれた少女の縄を斧で切る。

 こうしている間にも豚どもが迫っているかもしれない、けれど縄を解くことが優先だ。

 逃げてほしいのに逃げられなければ意味が無い。


 縄を打たれた少女は見れば黒かった。

 まんまだな。


 まあ黒いといっても褐色であり健康的な日焼け程度のものだ。

 髪の色は銀色にしてくすんでいる。

 たぶん垢とか汚れだとは思うが、褐色に良く映える綺麗なものだ。


 縄を切り終え、二人を背中のほうに押しやり壁になるよう斧を構え襲撃に身構えるも辺りの変化は何も無かった。

 豚が殺されたというのに、騒ぎにもならず何のアクションも無い。

 不審に思い他の豚を良く見れば、殺された豚を蔑む様に笑っている。

 中には興味なさそうに犯し食らうことに集中しているものもいる。


「なんだ、この異様さは…」


 仲間が殺されても何の感慨も無く己の欲望に興じる豚に嫌悪と忌避が生まれる。

 なんなんだなんなんだなんなんだ!

 

 俺は叫びたい衝動を抑え、斧をその場に置き2人を両小脇に抱えて、即座に檻の裏側までダッシュする。

 このまま逃げても良いだろうが、それだと又襲われるかもしれない。

 彼女達を逃がしつつ、やつらを全滅させればいい。

 全滅などと大層な事を言っているが、ようは混乱を作り出すのが目的で、実際にはもう行き当たりばったりの自暴自棄にも等しいことをしている。

 どうせ、助からないなら2人だけでもと焼けになっているのかもしれない。


 今の俺の所為は、豚どもには興味が無いように思える。

 1対1なら何とかなるかもしれない。


「俺はこのまま奴らと戦う、だから逃げなさい」


 檻の裏側で身を潜めさせ、縮こまる二人の少女の頭を撫でながら俺は言い聞かせようとする。

 優しく怖がらないようゆっくりと頭に手を載せ、羽毛でも扱うように優しく撫で続ける。

 ぎゅっと身を寄せ合う2人の少女。

 それを撫で続ける俺。

 ちょっとシュールかもしれないな~と思いながら目を細めていると、白い少女が俺を見返してきた。


「ん?大丈夫。絶対逃げれるようにするから」


 白い少女の目を見ながら語りかける。

 答えは無い。

 その代わりにじっと見つめ返され、何かを探るように目の奥まで見ようとするかのように見つめてくる。


「て、照れるな…」


 気恥ずかしくなって目を逸らし、撫でるのをやめて立ち上がる。

 

「さあ、逃げるんだよ」


 最後に言い聞かせて俺は豚と対自するために焚き火のほうへと歩き出した。

 もちろん、ここから無事に小さな女の子が逃げおおせる保証は無い。

 森の中で遭難して野垂れ死ぬかもしれない。

 それでも!

 万に一つの可能性に掛けて、少女達を逃がしたいのだ。


 豚の群れに戻り、置いてきた斧を再度手に取る。

 その姿で辺りを見渡すも、豚達は一向に気にしないでいる。

 何でか理由はわからない。

 でも、反撃を食らうことがなかってほっとするのも事実だ。


 俺は徐に近くにいる豚に眼をつける。

 目の前の獲物を犯し食らうことに夢中の豚だ。

 今度は何も気にせず斧を振り下ろす。

 例え犯されている女性が巻き添えになろうともだ。

 どうせ…

 見るからに助かりそうに無いのだから。


 今回もまたさっきの豚同様真っ二つに切り裂いた。

 噴出す血液は2箇所から上がり、双方の血が混じるように辺りに撒き散らされる。

 豚は化け物だから良い、でも今死んだ女性には申し訳ない気持ちがわく。

 殺人の忌避とかそんなものは感じないが、助けることが出来ない以上惨めな最後を迎えるよりは俺に殺されてよかったと思ってほしい。

 どこまでも自己満足でお仕着せの感情だが、俺の精神の均衡を保つにはこう己に言い聞かせるほかは無い。


 あと、何でど素人の俺がこんなにアッサリと豚を真っ二つに出来るかは今は考えたくない。

 それよりも1匹でも多く豚を刈り取ることで誤魔化したいとおもう。

 現実逃避をしたいのだと思う。

 この異様な世界から。


 2匹目の豚を殺したので、流石に今度こそ豚の反撃が来るだろうと辺りを見ると、やっぱり最初だけが特別だったらしい。

 最初の豚を殺したときには笑っていた他の豚達も、抱えていた獲物を放り投げ臨戦態勢をとろうとしている。

 俺は目に映る近い存在から片っ端に斧を振るいだした。

 とにかく目に付けば振り被り、振り下ろす。

 しかもその振り下ろされる斧は、防御されようが俺の一撃に耐えれること無く防御した姿勢のまま相手を真っ二つにするのだから豚も災難だ。


「エノモ…トリアイ…フタリデ…ユルス、オキテ。デモ…イッパイ、ユルサレナイ!」


 倒しまくっていると残った2匹の豚のうち1匹が叫んでいる。

 どうやら最初の豚のときは獲物の取り合いだと認識され問題なかったようだ。

 つまり、獲物の取り合いなら殺し合いも一種の余興なのだろうか?

 というか、俺は何でこいつらに襲われることなく、オキテが適用される?

 わけが解らないが、今は優先させることがある。


 声を出した豚が近いので、何度も繰り返したように斧を振り下ろす。

 だが、さっきまでと違い剣も盾も装備して体制を整えただけはある。

 殺されていった豚は皆、獲物との余韻で思考が馬鹿になっていたのか、あっけなかったのだが。

 残った2匹は俺の単調な攻撃を見切り、振り下ろす斧を避けていた。


「ック!」


 出来る限り斧を振り回すも、回避され続ける。

 そのうち前後に回られて挟み撃ちの格好だ。

 目の前の豚は盾を前面に押し出し、俺に突進してくる。

 後ろの豚は、鎖を持ち振り回しながら距離をつめてくる。

 多分、鎖で身動きできないようにして仕留めるつもりなのだろう。


「だったら!」


 俺は上段ではなく水平に斧を構え思いっきり振り回す。

 要はグルグルル回転したわけだ。

 これなら左右に避けられずいったん下がると思ったのだ。


 目論見どおり前の豚が数歩下がるのを確認して後ろを見やるとすでに目の前に豚がいた。

 

「おお??」


 斧の勢いが落ちた隙に背後に急接近したのだろう。

 そのまま抱きつかれて羽交い絞めにされる。


「くそ!」


 抵抗するために羽交い絞めされ万歳した右腕をそのまま後ろに回して豚の頭をつかむ。

 掴んだら握力に任せてアイアンクローならぬヘッドクローをかましてやった。

 まあ、ちょっと怯んでくれれば良いと思っただけなのだが…

 掴んで力をこめると、卵を割るような感覚がして手の中のものがクシャリとつぶれる。


「え?」


 力が抜けて背後で崩れ落ちる豚を見ると、頭が無かった。

 どうやら握りつぶしたらしい。

 驚きながらも脅威が去ったことに安堵して、前を振り向くと最後の豚が震えていた。

 ピンクの肌なのに青ざめているのがわかる。

 だって本当に顔が青くなってるのだから。


「じゃあ、これで最後だ」


 俺は上段に斧を構え、逃げることもままならない最後の豚に頭上から一撃をお見舞いする。

 一連の作業?

 そんな言葉がピッタリとくる殺戮を終わらせると、後には獲物とされ犯され食い散らかされた人々の嬌声だけが響いていた。

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