001 プロローグ
ずいぶんとご無沙汰してましたが新作です。
今度は心が折れないようにがんばってみたいと思います。
しばらくは感想欄を設けません。
ご了承ください。
亜人国ミュース、そこには多種多様な亜人が住み日々の生活を営んでいる。
人族主導の国家では見ることのできない種族が、身を寄せ合い互いを助け合って大きくなった国である。
そのため、町の中にいる人々は他者の姿形を気にすることなく、誰彼もが自由に大通りを歩いている。
30cm位の小さな体をしたフェアリーが堂々と空を飛び回り、体中に鱗をびっしり生やしたトカゲが2足歩行をするリザードマンが集団で闊歩する。
道端では猫の耳と尻尾を持つケットシーが毛繕いをして日向ぼっこに興じ、犬耳をせわしなく動かすウェアドッグはドワーフの開く武器店の店先で熱心に剣の品定めをしている。
さながら御伽噺の動物が暮らす森の楽園のような風景が広がるミュース。
そんなミュースの一角に、狼の顔にクロスした剣が重なるマークが掲げられている建物がある。
3階建ての大きな建物で、右には馬車が10台は入りそうな倉庫があり左には机と椅子が並べられた食堂が見える。
真ん中の3階建て建物の中央扉を開き、中に入るとホールを挟んで対面にカウンターがある。
カウンターには幾人もの職員が並び、この建物に来る客の対応をしている。
その職員の一人アーミラは、今入って来た客に向かっていつもの挨拶をする。
「ようこそ!冒険者ギルドへ。本日のご用件は何でしょうか?」
正直、この挨拶は目の前の客に必要かどうか疑うのだが規則なので仕方がいない。
特に今、目の前に来た客には絶対に今の言葉は不必要だと思う。
なにせ間違いようのない姿をしているのだから。
職員として働くアーミラとて、馴染みの客は幾人か覚えている。
片目に傷がないのに眼帯をしているケットシー♂、筋肉ムキムキのビキニアーマーを着たドワーフ♂、ピンクのワンピースを着たミノタウルス♀などなど、覚えている客は多い。
変な意味で…
その中でも、目の前の客はアーミラでなくとも職員全員、もしくはここにいる冒険者全てが絶対に間違うことのない特徴を持っているのだから。
2mはある身長に横にも大きく広がる胸板、全身を覆う黒い鎧。
精巧に作り上げられた黒鎧は、重厚でありながら細かく分けられた装甲が動きを阻害することなく絶えず可動しているため、客の動きは生身と変わらないスムーズな動作を可能にしている。
頭に被っているヘルムには大きな角が左右に生え、顔を覆う面には何かの頭蓋骨から作られた髑髏で覆われているのだが、その兜の角を持つ小さな存在が彼をして見間違うことのない特徴として皆に知られているのだ。
「マサ!今日はハンバーグ食べる~」
「ずるーい!今日はホットケーキのはずだよ!」
無邪気に会話する黒と白の小さな存在。
アーミラから見て客の左肩に乗っているのはフリフリのリボンを随所にあしらった清楚なワンピースに包まれた可愛らしく天使を思わすようなエルフの少女。
反対の右肩に乗せられているのは、これまたリボンやレースで飾られた黒いドレスを着た闇に照らされた可憐な花を思わせる美しいダークエルフの少女。
その2人が、黒い鎧を着込んだ異形の客の両肩に陣取り、肩から落ちないように兜の角を握って笑顔を振りまいているのだから間違えようがないのだ。
「え~ハンバーグ~~……」
しょんぼりしながらダークエルフの少女はエルフの少女を上目遣いに覗き込む。
その所為に周りはほっこりとした雰囲気になり、温かい目を向けている。
かくいうアーミラもその一人だ。
「マサ~…」
ダークエルフの少女を見るエルフの少女も、自分の意思を貫くのは忍びないのか、とうとう黒い鎧の客に助けを求める。
周りもアーミラも、その2人の気持ちに感化されたように黒い鎧の客を『どうにかして2人を笑顔にしろ!』と視線を向けじっと見つめている。
普通に考えれば、アーミラや冒険者達がこんな異形の客に視線で何かを訴えるようなことはない。
大概は喧嘩になったりして揉め事が起こるからだ。
でも、この黒い鎧の客に限ってそれはなかった。
何故なら…
「う、うう~~ん。そのね、お昼はホットケーキで夜はハンバーグにしようか?」
「「やった~♪」」
「ほ、ほら皆さんも安心してください。2人は喜んでいますから」
といって肩の2人を落とさない程度に腰を折り頭を下げる。
そう、黒い鎧の客はものすごく優しく腰が低いのだ。
アーミラも周りの冒険者たちもほっとした顔で少女たちを見つめ安堵したかと思うと、自分たちの仕事に戻っていく。
黒い鎧の客は安心したのか姿勢を正し、肩の2人を労わる様に撫でながらアーミラに向かって木の札を差し出す。
「あ、今日はこれを換金してください。よろしくお願いします」
そういって差し出されたのは冒険者ギルドで発行される買取整理札だ。
討伐された魔物の素材や肉などを建物の右にある買取所に持ち込むとこの札が渡されるのである。
「はい承りました。お名前をお呼びするまで少々お待ちください。それとギルドタグを一緒にお預かりいたします」
アーミラが告げると黒い鎧の客は彼のギルドタグを渡し、ホールにある待合用のテーブルに向かい腰掛ける。
もちろん肩に乗っていた2人は、ゆっくりと丁寧に肩から下ろされて椅子に座らされている。
黒い鎧の客は、2人を座らせるといそいそと食堂に行き、果物ジュースを手に戻る。
2人の少女に果物ジュースを与えると、受け取った2人は大喜びで飲みだす。
椅子に座るも地に着かない足をブラブラと揺らして上機嫌である。
3人のほのぼのとした様子を見届けると、アーミラは受け取った木札を元に買取所に赴く。
たぶん今日も買取所は衝撃を受けているであろう。
今日の支払い金額は如何ほどになるのだろうか?
そんな興味を持ちながら、そっと受け取ったギルドタグに目をやる。
そこには簡単な情報が、タグに記載されていた。
名 マサキ・ニイサカ
位 D
マサキ…
アーミラは買取所に入る前に、振り向いて3人の姿を見る。
異形でありながら腰が低くやさしい彼と、彼に寄り添う無邪気な2人の少女を見て心に湧き上がる暖かいものを確認して。
急に頬が熱くなり、ハッとして頭を振る。
「いけない、仕事仕事」
湧き上がる情熱を押さえ込み、買取所に駆け込むアーミラ。
マサキがこの世界に来て1年目。
日常は恙無く過ぎていくのであった。




