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妄想癖の彼女

作者: 環永環

 私の学校には王子様がいる。

 甘いルックスに腰砕けしそうなテノールの声、スラリと程よく引き締まった肉体。柔らかな色素の薄い茶色の髪に宝石のように綺麗な蒼い瞳。

 女の子なら小さい頃に一度は憧れるおとぎ話の王子様のような容姿の彼、高間冬馬は私の恋人である。

 …多分そうなのである。

 付き合い始めてまだ間もないけれど、彼氏彼女の関係なのは間違いない。

 どこをとっても取り柄のない平々凡々な私が何故、と自分でも思わないではないが一応そうなのである。

 でも最近こう考えることがある。


 罰ゲーム説

 これは告白があちらからだったから言えることで、何かの勝負事に負けたから私みたいな冴えない女と付き合っているのではないかと。

 だって甘い言葉は吐き出すのに絶対に触ってこないし?

 でもそれだったらその時点で普通言うだろう。

 だから私は沢山の仮説を頭の中で組み立てる。


 どーせーあいしゃ説

 王子様のような彼はもちろんモテる。

 本当にいろんな方面から。

 でも今まで彼は彼女というものを作ったことがなかったらしい。

 だからホモだという噂がまことしやかに囁かれている。

 つまり私はそれのカモフラージュなのではないだろうか。

 だが、彼が私に黙ってこそこそと人(この場合男女問わず)とあっている様子はない。

 私が鈍いだけだろうか?


 ほかにも妹さん(彼に妹がいるかは不明)との禁断の愛だから私を隠れ蓑にとか好きな子に振り向いて欲しくて手頃な私を利用とか。

 自分で考えててよく思いつくなってくらいネガティブな内容ばかりだ。


 それはきっと彼の言葉を信じられないでいるからだろう。

 そして私の心がそんな妄想だけで傷つくのは彼を愛してしまったからなのだろう。

 でも私は真実を彼に問えない。

 彼の言葉で傷つくのも彼の言葉を信じられない自分も突きつけられる現実が怖いからだ。

 弱虫な私…




「とう、ま、」


とんでもないものを見てしまった。

私は駆け出した。

向かう場所は学校の屋上。

そこには彼と知らない女がいた。

女は私に気がついた様ですぐに振り向いた。

彼もそれにつられたように振り向く。

目の前がカッと赤く染まった。

彼の唇は女と同じ色をしていた。


「だぁれ?」

「彼女」

「えっ?あんな子が冬馬の彼女なの?やだぁ!」


クスクスと笑う女を無視して冬馬に近づく。


パァーン!


「冬馬の馬鹿ヤロー!!」


頬を押さえて呆然とする彼に捨て台詞を吐いてまた駆け出した。

こんどは保健室へ。





「武島せんせぇー!」

「うぉっ!どうした中森」

「冷やすもの用意してください」

「あー、はいはい。また泣きに来たのか」

「うー、そうですよぉー」


ここへはよく泣きに訪れることが多い。

妄想で泣きそうになった時に来る。

軽く涙を落とすだけでもあまりひとにそういうところを見られたくない私にとってここは最高の場所なのだ。

武島先生の顔が厳ついから生徒が寄りつかないのだ。


「で?今日はどんな妄想したんだ?」

「今日は妄想じゃないもん。冬馬が屋上で知らない女とキスしてたんだもん」

「あーうんうん。そうなんだ(笑)」

「だから今日は妄想じゃないの!」

「へぇ」

「うぅー。うっひっく。たけじませんせぇ」

「え?マジで?」


ガチ泣きし始めた私に武島先生は目に見えて動揺している。

だけど私もそんなのに構っていられないほどに動揺している。


「冬馬のほっぺひっぱたいてきちゃったよー!もう絶対嫌われちゃった」

「ぶふっ!おまっ、あの高間の顔叩いてきたのか?」

「そうなんです!手加減なしに、めちゃくちゃいい音しました…」


武島先生は何かがツボにはまったのかお腹を抱えて爆笑し始めた。


彼はあの女を好きなのかとか叩いたことで嫌われたのではないかとかいろいろ考えて涙が止まらなくなる。


「ほら、泣き止め」


いつの間にか復活していた武島先生に涙を拭われる。

私が思考の海へ旅立っている間に用意したらしい布をあてがわれる。


「ありがとうございます…」

「お前には妄想して落ち込むよりも先に高間にちゃんと聞かなきゃいけないことがいっぱいあるんじゃないか?」

「…」

「もし、もしもその答えがお前にとって都合の悪いもので泣きたくなったならまたここに来ればいい。だから安心して行ってこい!」


武島先生の言葉に頷いて立ち上がった。

こんなに素直に人の言葉を信じられたのはいつ以来だろうか。


「中森。やる気なのはいいが目は冷やしてからの方がいいと思うぞ」


そんな武島先生の言葉にまた頷いて今度は座った。

そして目を冷やしながら久しぶりにポジティブな妄想をしてみた。





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