2:変わらない日常というものはあった
加筆修正版2014/10/13
なんの前触れもなく、自然と目蓋が開いた。
目に映る部屋が明るいことに朝を迎えたことを知る。時計を一瞥すれば設定した目覚ましが鳴る五分前だった。そのことに静かに悪態をつく。もう少しくらいは眠っていていられなかったのか、と後悔に似た感情が過ぎる。
時間的にも二度寝ができないことにやきもきするも、寝そべる横から感じてくる温かさが暑苦しさに変わったので、仕方なくベッドから出ると、案の定そこには一匹の黒猫が丸くなって細かく寝息を立てていた。
顔を洗うことで完全に目が覚めて、制服に着替える。本格的な夏になる前なのでそこまで蒸し暑いということはなかったが、さすがに日が高い位置にきてブレザーまで着込んでいるとまた別の意味での暑苦しさがあった。
キッチンで乾いた喉を潤す。
「おはよう」
潤したところで今自身のベッドで寝ているのとは違う家族に声を掛ける。
今いるキッチン、ダイニング、リビングと一体となって続いた壁の隅にある大きな鳥かご。蹲った大人一人は入れそうなその中に、これまた大きな黒い鳥がこちらを見つめていた。あいさつに応えるように両翼をパサパサと羽ばたかせた。
ちなみにこの鳥かごは普段から扉が開きっぱなしなのだ。そんな狭い所に入ってないで、広い所で文字通り羽を伸ばせばいいのにと言っているのだが、律儀というか固いやつというか。
さて、向こうの冷蔵庫には何があったかな。
記憶の棚を漁って朝食の献立を考える。
それより脳裏をよぎったことがあった。
「あいつ、ちゃんとベッドで寝てたかな?」
身支度を整えて、隣の家へ向かった。
隣の家は幼馴染、早乙女桔梗の家だ。
日課、習慣と昇華してもはや生活の一部になってしまった早乙女家の家事。初めこそ面倒などと思っていたが、ここまでくるともう日常サイクルとして何も思わず坦々とこなしてしまっていた。
「……はぁ」
いや予想はできていたことだ。だから呆れて溜息が出てしまったのは事故に近いことだ。そう、分かっていたことだ。
ただ、高校生にもなって、しかもうら若き乙女でこれはどうかと思う。
開けっ放しの玄関の鍵。脱ぎ散らかしたブーツ。明かりが灯っている廊下。そして奥に続くにつれ脱ぎ捨てられたブレザーとサマーセーター。容易に昨夜なにがあったのかがわかる状況だった。
洗濯籠と洗濯機になにも入ってないところから入浴していないことはわかった。軽く休んでから入るつもりだったのか、寝て起きてからのつもりだったのか。結果として力尽きたことは間違いない。
廊下を進んだ部屋の中に入れば寝息が聞こえてきた。リビングのソファは背を向けているが、ひじ掛けから頭と足が二本伸びていた。ちゃんとベッドで寝なさいと口酸っぱく言い聞かせてはいるが、この結果である。朝からお小言を言いたくはないが彼女の為である。
とりあえず起こさぬように仕切り戸を閉めてリビングとダイニングを分ける。昨夜遅かったのだからもう少しくらいは寝かしといてやろう。風呂は時間的にシャワーだけだろうから、朝飯を食べてからでも間に合うな。
二人分の朝食を作りにかかった。
間のお話です