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D&T~幻想的な夜~  作者: 頁宴人
1/10

序:

初めての作品です

お読みくだされば幸いです

よろしくお願いいたします


序:

 静寂な夜の住宅街を一人の男が歩いていた。

 目深くかぶった帽子は夜の闇とつばの陰で顔を隠し、男の表情を窺い知ることもかなわない。

 男はすで人間ではなくなりつつある。その暗闇から覗くのは飢えて獲物をねらう猛獣の目だ。早く血を肉をと欲する体の高まりを彼の持つ理性が抑える。

 しかし、その理性でさえ歪んでしまっている。本能との境たる檻はあっても、その檻には鍵がなければ扉すらない。檻の外と内とは本人の意思で行き来する。この男にとって理性など有って無いようなもの、本能で得る快楽を強めるのものでしか考えていない。

 男の狙いは女だ。痛めつけなぶり犯す、その為の道具、それだけに襲う。

 

男の父親もそんな人物だった。ギャンブルにのめり込み、酒に溺れ、溜まったストレスの捌け口となったのは母親だった。泣きわめく母親を醜悪な笑みを浮かべていたぶり続けるその姿が、幼い少年の脳裏に焼き付く。

 他人から見ればそれは非日常だが、彼にとってはそれが日常だった。


 やがて時は経て、そのイビツなユガミを残したまま、男は妻をめとる。

 過去につくった火傷の痕を癒せぬまま。

 そして、とある満月の夜のことである。

 男と妻は些細な出来事により口論となった。いわゆる夫婦ケンカというやつだ。お互いに譲れないところがあるらしく、口論は激化していく。男はここではじめて妻を殴ってしまった。とっさの無意識のことだったので、殴った本人まで驚く。悪気の意思はなかった。すまなかった、と謝罪の言葉を紡げない口は泡を食っていた。

 だが、この行為がきっかけとなった。

 殴った手の痛みに帯びた熱は心地よく、妻が浮かべる怯えた表情に狂喜の鳥肌がたった。

 ああ、そうかと、この時男は悟った。父が母に毎日のように暴力を振るっていたワケを。言葉や態度で威張るハリボテのようなものではなく、堅牢な壁のように圧倒的な力の差で、お前に自由や決定権はない、お前のすべては自分のものと。

 支配欲。それが満たされていった。

 たが、足りない。もっとだ。恐怖で支配されるその顔を見せてくれ。

 過去に刻まれた火傷は呪いとなり、男の姿を変貌させた。

 ケモノが吼える。血肉をと、その味を知ったケモノがその腹を満たし始める。

 この暴行は一晩中続き、あざや腫れで原型が分からなくなった血まみれの顔になり、妻が気を失ったところでその手を止めた。


 翌日、顔面ミイラの妻は離婚届をおいて去っていった。獲物が消えた。男はその程度しか思わなかった。

 やがてケモノは空腹を満たすために、街をさまようようになる。

 一人、また一人と餌食になった女性があとを絶たなくなった。

 そして、今宵も狩りが始まろうとしていた。


 作戦は単純なものだ。

 今回の女はアパート住まい。騒ぎを聞きつけて来られないように、まず他の五部屋の住民には眠ってもらう。扉の郵便受けや窓の隙間から吸引タイプの睡眠ガスを投げ入れる。今時は缶状ではなくアイスホッケーのパック状となっているので、狭い隙までも投げ入れができる。


「ごめんくださーい」


 次にこの扉を開ける。自分で開けてもいいのだが、無理にこじ開けようとして逃げられそうになったことがあった。それに恐怖に変わるその表情を楽しむために確実な方法をとる。


「・・・・・・はい」


 どこか怯えた表情で女が姿をあらわすが、拒まれる。

 やはりチェーンロック。これを開けないことには。


「私、××電気の斎藤と申します。夜分遅く申し訳ありません」

「・・・・・・はぁ」


 実はと、話を進める。このアパートで使われているブレーカーが他のところでトラブルがあり、早急に点検する必要がある、と。もちろんそんなことはない。

 変装のためにツナギを着ているのも話に信憑性をもたせるためである。手に持った工具箱も偽装で、中身はロープやガムテープ、催眠薬が入っている。

 あくまでも爽やかに、明るく最期通告を訊ねる。


「上がってもよろしかったでしょうか」

「・・・・・・」


 女は一度顔を部屋に戻す。整理状況を確認しているのだろうか。そして、


「・・・・・・どうぞ」


 チェーンロックは外され、男と女を隔てていた扉が開かれる。


「ありがとうございます。では早速作業に移らせていただきます」


 男は愛想笑いを浮かべてお礼を述べる。

 しかし、心のなかでは女を嘲笑っていた。

 自身を守る砦、それを彼女自ら牢獄へ変えたのだ。自分から追い詰められ閉じ込められ、あまつさえ自分を捧げている。

 心から溢れる嘲笑は表情に滲み出ているようだった。

 開かれた扉から部屋の中に入れる。扉を閉め、背中の後ろで静かに施錠する。


「・・・・・・ブレーカーは台所のところです」

「分かりました。すぐに終わります」


 獲物がこちらに背を向ける。致命的ともいえる無防備な状態、襲ってくれと言わんばかりの大きな隙。

 男は本能を剥き出しに、その獰猛な笑みを明瞭に光灯の下で晒し、女に手を伸ばー



「そこまでだっ!」



 ーそうとした時、突然女のものではない声が響きわたった。

 あまりの出来事に体が硬直、視界の外から何かが腕に絡み付く。


「うわ、ガァッ」


 そのまま腕を引っ張られたと思ったら、腹から床に倒されていた。何が起こったかよく分からない。ただ、今押さえているのは部屋の隅で自分の体を抱いて震えている今夜の獲物ではないということだ。


「石本芳郎だな」

「あ痛だだた。ちくしょう、誰なんだ!」


 本名を知ってることに焦り無理に体を反そうとも、腕が後ろに捻り上げられ肩に激痛が走る。なんとかくびだけを捻り、相手の顔を見る。

 赦さない。狩りの邪魔をするものは、誰だろうと。そう思った。

 だが、そこにいたのは少女がいた。


「アタシは早乙女桔梗ーー」


 大きな瞳は芯の通った意思の強さが感じられるほど力強く、頭の後ろで一つに結いまとめられたポニーテールからは活発さが感じられる。その顔立ちは凛々しくボーイッシュな印象ではあるが、女の子がもつ可愛らしさも兼ね備えている。

 女性とは弱々しいものばかり考えていた石本芳郎はこれまでの人生で出会ったことのないタイプだった。自信に満ち溢れ、誰にも負けないという気概。それは石本芳郎にはないものだった。

 だからからか、不覚にも思ってしまった。

 美しい、と。



「ーー探偵だ!」

序章は、物語とはまったく無関係な事件からのスタートです。

最後に本作の主人公が登場。そうです、女の子です。

完成次第随時連載したいと思います

感想もどしどし受け付けております。皆さんの感想が私を育ててくれます。

「序」をお読みいただきありがとうございました

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