はじまりの音
私が、彼に出会ったのは夕暮れの公園。
一人でブランコに乗って、周りではしゃいでる子供たちの声を聴いて、泣いていた。
なにが哀しい訳じゃない。
なにが、苦しい訳じゃない。
ただ、
涙が溢れて止まらなかった。
(ダレカ、ナミダヲトメテクレナイカ)
声がだせないほどに、眩しい夕陽。
「これ、使って。」
「…、…!?」
そっと、ハンカチを差し出すあなたの手はとても綺麗で、温かくて。
今でも覚えてる。
(音が聞こえる)
とくん、トクン。
きっと、これははじまりの音。
だけど、気付かない私の気持ち。
気付きたくない私の気持ち。
「…、ありがとうござ、います。」
「いえ、それより涙拭いた方がいいですよ。顔がぐしゃぐしゃだ」
そう笑いながら言うその表情は、困ってるみたいに眉毛だけハの字で、彼には不釣り合いに見えた。
夕陽が、温かくて。
次の日、同じブランコに乗って待っていた。
私のしあわせを、あの人に渡さなきゃ。
そう思ったから、ブランコに乗って待ち続けた。
どこの誰かも分からないのに、
「名前、聞かなくちゃ。」
自分の名前も教えていない。
ただ、ハンカチを借りただけ。
ただ、ハンカチを貸しただけ。
それだけの、関係。
なのに、それだけの関係で終わらせたらきっと、ずっと後悔するきがした。
名前を、呼びたかった。
あの人に、名前を呼ばれたかった。
夕陽の温かさにも似た、あの人の笑顔をもう一度見たかった。
「やっぱり居た。」
「…はい。やっぱり居ました。」
にこり、と笑うあなたの笑顔は
私の中で、奏でるはじめての音。
「私の名前は、桜野ほのかです。」
あなたの笑顔は、私のしあわせ。