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妹と俺が入れ替わった  作者: どんどこどん
日常の再開
8/10

太陽な彼女

 入れ替わった翌日。

 入れ替わって二日目。

 つまり、六月の四日。月曜日。


「くれぐれも、バレないようにしろよ?」


 と、隣を歩く咲が俺に声をかける。

 咲は今、うちの学校『星燕学園』の制服を着ている。

 校名通り、向き合うように飛んでいる五匹の燕が描かれた、エンブレムを左の襟端につけた、黒いブレザー。

 そのブレザーの下には、指定の水色のワイシャツを着ている。

 下半身は、ベルトと指定の黒いズボン。

 それは、星燕学園の男子制服だった。


「分かってるよ・・・そっちこそ、ボロは出すなよ?」


「生意気な」


「あうっ!」


 額にデコピンをくらい、よろける俺自身も星燕学園の制服を着ている。

 咲と同様に、ブレザーとワイシャツを着ている。

 だが、下は違う。

 チェックのスカートに、ストッキングから妥協してもらった、傷を隠すための長い黒色のソックス。

 完全に、星燕学園の女子制服だった。


「何すんだよ・・・」


 俺は額を擦りながら、咲に訴える。

 力の差を気を付けてほしい。

 気を付けられるのは屈辱だが、少しでいいから気を付けてほしい。


「ほら、自分でボロ」


「・・・うるさい」


「もっと気持ち抑えて」


「う、うるさい?」


「なんで疑問系?」


「もうキャラチェンでよくね?」


 俺は本音を言う。

 勿論、咲の口調はするが多少抑揚ついてもいいだろ。


「駄目だ」


「・・・ケチ」


「それ、したことないぞ?」


「っ───!うるさい!」


 俺は走り、咲より前に行く。

 きっと俺は真っ赤になってると思う。

 だって恥ずかしいんだよ。すごく。いや、ものすごく。そりゃものすごく。

 無意識のうちに女っぽいことするなんて最悪だ。

 やっぱり、心が昨日で結構女っぽくなってしまってる・・・。

 このままじゃダメだ!いや、駄目だ!

 俺は男なんだ!

 元に戻る方法を見つけるまで、諦めるわけにはいかないんだ!


「おい!咲!」


「うるさい!」


「スカート捲れる!」


「っ!?」


 俺は急停止して、慌ててスカートを押さえる。

 そして、安堵のため息をつく。

 咲が駆け足で俺の後ろに止まり、俺に声をかける。


「後ろで白いの見えてたよ」


「っ・・・」


 ストッキングが気持ち悪かったから、ソックスに変えた。

 だけど、これは面倒くさい。

 それに、恥ずかしい・・・。


「あんまり間抜けなことするなよ・・・」


 呆れたような顔で、俺を見る咲。

 ・・・。返す言葉もない・・・。

 恥ずかしくて、返せない。


「・・・うるさい・・・」


 なんか入れ替わってから、感情的で、語彙力がなくなった気がする。


「ははは。顔真っ赤だ───ぞ!?」


「う、うるさ・・・い?」


 俺と咲は当然の来訪者───咲のことを後ろから抱きついた、女───に言葉を切られる。

 その女には見覚えがあった。

 今の俺とほとんど───違うのは茶色のセーターを下に着て、ソックスが短い。ところ以外───同じ服を着た、星燕学園の生徒。

 栗色の髪を低いポニーテールにした、平均的身長の少女。

 俺はそいつの名を知っている。


「ひどいよ。健介君!家が隣の私を置いてくなんて!」


 固まる咲に、今だ抱きついたままの、少女。

 俺達と家が隣の、少女。

 テンションの高い、少女。

 学園でトップファイブに入る───ちなみに『咲』も入っている───少女。


「あ、咲ちゃん。おはよう!」


「え、あ・・・おはよう・・・ございます橘さん」


 俺は滑り込みセーフで、咲の口調を真似る。

 そして。

 咲に抱きついたままで、俺に声をかけてくる、そいつの名前を俺は知っている。


 『橘美緒』


「健介君もおはよ!」


「お、おはよう・・・」


 戸惑いながら答える咲から、ようやく美緒は離れた。

 俺と美緒は、同じクラス。

 そして今は隣の席。


「じゃ、学校行こ!健介君!咲ちゃん!」


 そう言って、こっちを見ながら少し小走りで前に進んだ、美緒。

 別に美緒はこんなに男子に対してスキンシップがすごい訳じゃない。女子に対しては知らんが。

 それには、ある理由がある。


 美緒は俺───健介───の彼女なのだ。


 か、完全に忘れていた。

 俺がまず最初に思ったことは、それだった。

 入れ替わってのゴタゴタで、気にしている暇がなかった。


「どうしたの?二人とも?」


 と、何も察してないように、俺たちに聞いてくる美緒。


「み───」


「何もない」


 俺が思わず『美緒』と言ってしまいそうになるのを、咲が遮った。

 いつも咲は、『橘さん』と呼んでいた。

 美緒自身は名前呼びも名字呼びも気にしない奴なんだが・・・。


「ん?ほら、じゃあ行こうよ!」


「え、あ・・・」


「っ・・・」


 上から、美緒、俺、咲の順。

 俺は、美緒の手が思ったよりも大きく、力が強かったので何も出来ず。

 咲は、俺を演じるためか、何も抵抗しなかった。


 結局、二人ともなすがままだった。



 ◇ ◇ ◇



 俺と美緒は、二年二組。咲が二年一組。

 つまり、俺は咲、美緒と別れて二年一組の扉に手を掛けた。

 咲は、クールな性格だ。

 そのせいで、女子いわく友達がいない・・・と言うことらしいので、バレることも無いだろうから、気が楽と言えば楽だ。

 ていうか、風呂やスカートに比べれば全部楽だ。

 ・・・。

 まぁ、今俺が無理矢理友達作っても、元に戻ったら意味がない。

 咲が、咲自身が作らないと意味がない。

 俺はやっぱり、咲を演じ───


「伊藤さん」


「っ!」


 は、話しかけられた?

 俺は思わず、固まってしまう。

 咲は、友達がいない。そう言う話じゃ無かったのか!?

 いや、もちろん妹が幸せなら俺も嬉しい。

 嬉しい・・・筈だ。


「伊藤さん?入れないんだけど・・・」


「あ・・・」


 今、俺は扉の前で突っ立っている。

 ・・・邪魔だな、こりゃ。


「ご、めんなさい・・・」


 俺は話しかけてきた彼女に謝って、扉の前から退いた。

 入りたいと言えば入りたいが、俺が悪かったんだ。


「・・・?ありがとう」


 俺の様子にどこか疑問を覚えた様だが、彼女は教室に入って行った。

 ・・・。

 その後少し時間を開けてから、俺は教室に入った。

 もしかしたら、話しかけられるかもしれない。と、言う不安と期待を持ちながら、一番前の一番左端の咲の席に向かう。

 ・・・。

 ・・・・・・。

 誰にも、話しかけられなかった。

 俺は複雑な気分で席について、机に寝そべる。顔は左に向けて、窓の外が見える様にしてある。

 ・・・。

 ・・・少し、胸のあたりが男の時より窮屈な感じがするが、気のせいだ。雑念退散。


 咲・・・。

 俺は、窓に薄く映った咲を見る。

 その表情は、悩みと悲しみに満ちた顔だった。

 ・・・俺が、咲になって、咲が俺になった。

 どうして、こんな事になったんだろうか・・・。

 咲は変わってしまったし、俺は何もできずにいる。

 本当は、お前も元に戻りたいんだろ・・・?

 窓に映る咲に手を伸ばすが、寝そべっているため、手が届かない。

 俺の手は、咲の前で何度も空振りする。

 俺の手は、咲に届いていない。

 ・・・。

 結局、授業開始まで手は一度も触れることができなかった。

 そもそも、窓に映る咲と体の違いのせいで違和感を覚え、俺は授業に集中できなかった・・・。

 ◇ ◆ ◇



 と、言うわけで!健介君の彼女!橘美緒ちゃんです!


咲「・・・」


美緒「初めまして!橘美緒です。よろしくお願いします」


 ああ、よろしく。


健介「スカウトって・・・」


 そう言うこと。美緒ちゃんだよ。


咲「・・・」


美緒「?どうしたの?健介君」


咲「っ!な、何もない」


 二人がいちゃついてる間に、こっち来て。妹ちゃん。


健介「な、なんだよ・・・」


 よし、二人は着いてきてないね?てことで話すよ。


健介「早くしろよ・・・」


 イラついてるね。彼女をとられたっ。みたいな感覚かな?


健介「っ!」


 わっかりやすーい。ま、それはそれとして、本題に入ろう。


 この、パラレルは実は現実がリンクしてるんだ。


健介「現実が、リンク?」


 そう。あくまで、現実『が』だ。こっちで何をしても現実には何もないが、逆はある。


健介「・・・」


 具体的には、人が消える。


健介「はあっ!?人が、消える・・・?」


 そう。ここはパラレルだ。可能性の世界。だが。


 可能性が『零』になることだってあるよね。


健介「あ、ああ」


 君の未来の選択肢。まぁ、ルートって言うのかな?人が消えることは、それが消えることと同じだ。


健介「ど、どういうことだよ・・・」


 だから、ここの人数の数が君の、この物語のエンディングの候補って訳。


健介「・・・じゃあ、今は三通りあるのか?」


 ・・・そう、だね。そう言うことにしておこう。


 まぁ、その人が消えたらそのルートは消え去ったってことになる。


 つまり、ここに来れない人はその時点では攻略不可能ってことだ。


健介「・・・よくわかんないんだけど」


 ま、その時が来たら分かるさ。きっと解る。


健介「・・・。シリアスなのか?このパラレルは」


 ・・・ラブコメさ。だから、トゥルーエンドを目指せよ?


健介「結局。結論はなんだ?攻略とかって・・・」


 な・・・。ここまでいって理解できないだと・・・?


 めんどい。たったらー『石ころぼーし』!


健介「消えた!?」

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