前振りな定番
「咲ちゃん、咲ちゃん」
俺と向かいの椅子に座る、叔母さんが話しかけてくる。
ちなみに、咲は今料理中だ。
もちろん。昼ごはん。ていうか、何だかんだで朝から何も食べてない・・・。
「な、何・・・?」
俺は叔母さんには敬語を使っていたが、咲はなぜかタメ口だった。
・・・男女の差か?
それはそれとして、俺は咲の口調───タメ口───で返答する。
違和感すごいある・・・。
それは、体も声もだが。
「どうやって、告白したの?」
「え?」
俺が、つまり『咲』が告白した、と思ってるのか?
確かに、俺は兄妹として咲が好きだが、咲は男女として俺が好きだと言った。
まさか。
「解消してよかったよ。聞いてた甲斐があった」
やっぱり、咲は叔母さんに相談してたのか・・・。
「で、どうやったの?」
「そ、それは・・・」
「それは?」
俺は目を泳がせ、考える。
本当は、本当のことを言いたい。
だけど、それはできない。
・・・。
咲がいるから、それはできない。
元に戻るすべが見つかってないのに、今の咲は刺激できない。
もし、刺激してさっきみたいになったら・・・。
「っ!」
「?」
俺は思わず、赤くなる。
まずい、叔母さんに不思議がられる・・・。
「まぁ。それは野暮ってことで聞かないでおこっか」
「・・・ふぅ・・・」
俺は安堵のため息をつく。
叔母さんはやっぱり、察しがいい。
「ところで、さ。どこか行きたいとこない?」
「・・・?どこ、か?」
叔母さんは頷く。
どこか行きたいとこ?
今日行くのか・・・?
「いつ?」
「whereで聞いたのにwhenで返してくるか・・・」
「あ、えっ───」
「まぁ、今日の午後だよ」
今日の午後・・・。今日の午後・・・。
入れ替わったこの状況で、できる限り外に出たくないのが本音なんだが・・・。
うーん。強いて言うなら・・・。
「服屋」
「に、行きたいの?」
頷き、答える。
「最近服が小さくなったから」
「・・・?咲ちゃん、身長変わったっけ?」
「っ───!」
やばい!俺のことを答えてた!
俺は最近買ってなかったし、サイズが小さくなってもしょうがない。
だけど咲はお世辞にも前々身長が伸びてないため、服は小さくならない。
「あ、ごめんね?・・・もしかしてっ!」
「え?」
叔母さんは俺に手招きする。
・・・?
俺は、机に乗り出して叔母さんに耳を貸す。
「・・・もしかして・・・大きくなった?」
「?」
俺は首をかしげる。
大きくなった・・・?
「惚けないでね、胸だよ。胸」
「ぅ、うぇあっ!?」
「咲ちゃん!?」
叔母さんの発言に、俺は驚き椅子から滑り落ちる。
むむむむっ、胸って・・・。
「ど、どうしたのさ?大丈夫?」
俺は叔母さんに頷く。
確かに、今の咲は小さい。小さすぎる。
だからと言って、胸は胸だろ・・・?
俺に話していい話じゃない・・・。
「この前、Aだったから、今回はBいけるかな?」
なんの話ですか。わかってます、わかってますけど。なんの話ですか。
ていうか、妹の情報を握りたくない。
俺は元に戻るんだ。
「なんの話ですか?」
咲が昼食を運びながら、叔母さんに訪ねる。
もう、できたのか・・・。
「今日、出掛けようって話」
しっかりと、胸の話を止めて答える叔母さんを見るに、バレてないようだな。
「服屋にでも行こうかなぁ・・・と」
服屋が採用されている・・・。
「服屋、ですか」
すると、咲は足を止めて俺のことを見る。
なんだ?一体。
「定番。いいですね。」
「定番?」
叔母さんが訪ねたが、確かになんのことだろう・・・。
あんまり、服屋とかには行ったことないが?
「な、なんでもないです」
「?」
「ま、いっか」
叔母さんは相変わらずの適当・・・。
そう言えば、珍しく咲が動揺してたな。
なにかあるのか?
「じゃ、これ食べたら着替えて行きますか」
「はい」
「っ!?」
俺は、叔母さんの言葉で思い出してしまった。
着替え・・・。
この体で、着替え?
「どうした?咲」
『咲』を強調して言う咲。
俺に、普通に着替えろと言うことだろう。
だけど・・・それは・・・。
「な、何もない・・・」
「じゃ、食べよっか」
咲の作った料理は、いつもの俺が作ったものより美味しかった気がした。
◇ ◇ ◇
「・・・」
俺は、咲の部屋の鏡と対峙する。
その鏡には、もちろんジャージを着た『咲』が写っている。
顔を少しひきつらせ、顔を少し赤らめた『咲』。
それが、今の俺・・・。
「よ、よし。着替えるか」
俺はジャージのファスナーを降ろす。
そして、ジャージを脱いでベッドの上に畳んで置く。
それにより、鏡には上が下着姿の『咲』が写っていた。
俺と鏡の中の『咲』が目をあわせた瞬間、俺と鏡の中の『咲』。両方がさらに赤くなる。
「こ、これは咲だ。咲だから、何もない・・・」
俺は、『咲』の体にあの言葉から妙に意識するようになってしまった。
『自覚させるためさ。肉体的優位。そして、その体が誰のものかを』
『本当に、するから』
他にも、咲から何度も放たれる催眠的な言葉に、俺は抗うため、咲の体と自分の心を過剰に意識してしまい、今まで何ともなかった咲の体に、俺は無意識に意識してしまっていた。
「・・・俺は、俺、なんだよな・・・」
鏡に手を伸ばし、触れる。
俺は鏡の中の咲と手を合わせる。
「俺は、健介なんだよな・・・」
確かに、俺はこの体に意識してしまうようになった。
だが、どこかでこの体にしっくりきているところもあった。
俺が、咲のように抗おうとしなければ、こんな風になんの違和感も感じない。
だけど。
「俺は、健介───」
「咲?」
「ひゃっ!わわわわっ!?」
俺は、予期せぬ声に、思わず足を滑らせ、尻餅をついてしまった。
音もなく開かれた扉に、『俺』───咲───が立っていた。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫」
俺は咲に差し出された手を取り、立ち上がる。
「・・・」
「?」
俺は一点で止まった咲の視線を辿る。
その先は、俺の胸だった。
「っ・・・!」
「あ、その・・・」
俺は、声にならない声をあげ、咲は俺に背を向ける。
気まずい空気が、辺りを支配した。
不覚にもまた、恥ずかしいと思ってしまった俺は、咲に出ていってもらった。
◇ ◇ ◇
健介「・・・」
咲「?」
健介「作者がいない?」
咲「静か」
健介「これじゃ俺たちがどういう状況なのか分からないよな」
咲「!」
健介「ま、普通に座りながら話してるんだけど」
咲「何を、しても原作とは関係なく、作者がいないから他の人には知られない・・・」
健介「さ、咲?なんか怖───!」
咲「これ、前はお兄ちゃんのだったんだよ?」
健介「さ、咲?早くそれをしまってくれないか?」
咲「もうこんな大きくなっちゃったよ」
健介「咲・・・?冗談だよな?」
咲「冗談じゃないよ。はやく、しゃ───」
健介「咲っ!」
咲「・・・。なに?はやくして」
健介「いやそれを、ちらつかせないでくれ・・・。それより、なんだ?それ」
咲「だから、元お兄ちゃんのち───」
健介「違う!お前の後ろだ!」
咲「?紙」
健介「貸してくれ・・・・・・なになに?『もし、これを君たちが読んでいるのなら、きっと妹ちゃんがグロと別の意味のR18の世界に行こうとしていたんだろうね』」
咲「・・・」
健介「『ま、それはさておき。ある人のスカウトに行ってくるぜ(笑)』だと。ってよかった・・・冗談だったんだな?やっぱり」
咲「え、あう・・・う、うん。そ、それより、裏」
健介「ん?えっと・・・『この手紙は読み終わると同時に』?これで途切れてる」
咲「ちょっとライター」
健介「炙り出しか。あ、出てきた。えっと『妹ちゃんはR18を諦めるだろう』?だとしたらハズレだな。冗談だったんだから」
咲「・・・うん。そうだね」
健介「?」