叔母な登場
二十代前半。叔母さんと言うか、見た目はお姉さんな叔母さん。
いつも通りの明るく、太陽みたいな性格。
そんな叔母さんが入ってきた。
「・・・!」
「おはようございます。叔母さん」
「おはよ~健介君」
俺が驚き、どうしようか悩んでいるうちに、咲はいつもの俺のように、挨拶を終えてしまった。
なお、さすがに良心が痛んだのか、咲は俺の隣に立ち位置を変えている。
「咲ちゃんもおはよ~」
「あ、その・・・!」
俺が入れ替わったという事実を言うか言うまいと悩んでいるのを察したのか、咲は俺の頭に手をのせ、話す。
「・・・どうした?咲」
・・・助け船は助け船でも俺に『咲』を演じろというメッセージだ。
嫌で嫌で仕方がないが、俺はのることにした。
苦い思いを噛み締めながら、手を払わずに『俺』を見上げる。
「何も、ない」
「あれ?咲ちゃん。なんかいつもより、可愛いね」
「──────っ!!?」
台所の椅子に座りながら、なんの前触れもなく言い出す叔母さんの言葉に、俺はたじろぐ。
「珍しいね。咲。赤くなるなんて」
「ひっ・・・!」
俺は叔母さんに聞こえないくらいの悲鳴をあげる。
だって、自分よりでかい奴───自分の体だが───に怖い笑みで見下ろされたんだ。声のひとつも出るさ。
「?どうかしたのなぁ?二人とも」
机にひれ伏しながら、叔母さんは俺たちに訪ねる。
いつもながら、突っ込みたい。
・・・子供か!確かに高校生くらいの見た目だけど。
「何もないですよ」
「全く・・・いつも以上に色男が増してるぞ?」
「・・・っ!」
無駄に察しのいい、机の上で頭をごろごろさせる、叔母さんに俺は思わず息を飲む。
『いつも以上に』ってのはいつも叔母さんがそう言って、俺をからかっているからだ。
断じて、俺は色男ではない。
「そうですか?」
「さ───お、おに・・・」
「うん?なんか変だなぁ。今日の咲ちゃん」
「きっと、動揺してるんですよ」
「っ!?」
「何に?」
俺は驚きの眼差しを咲に向ける。
まさか、ばらすのか?
入れ替わったことを、叔母さんに話すって言うのか?
この、確かにあり得たけれども、あり得ない状況を。
この、説明しきれない状況を。
「こう言うことですよ」
「へ?あ・・・」
咲の出方を窺っていた俺は、咲に肩を掴まれ、引き寄せられたため、咲に支えられるような、咲に身を任すような体勢になった。
「俺、咲と付き合うことになりました」
「────っ!!!??」
な、何を言ってるんだよ!咲!
俺とお前は実の双子の兄妹。付き合うなんて、そんな!
「あ~やっぱりそうなったかぁ。今の日本に救われたなぁこの野郎!」
と、俺とは真逆で全く驚くそぶりを見せず、むしろスマホでゲームを始めた叔母さん。
はい?なんすか。そのリアクション。
俺は全く動けないでいるというのに、なんですかそれ。
「つまり、応援してくれるんですね?」
「まぁね~でもそれは───」
叔母さんは恐らく、ゲームをポーズさせてから俺を見た。
「咲ちゃんの気持ち次第かなぁ?」
「え・・・」
俺は、咲を見上げるが、咲は叔母さんの方を見るだけで、特になにもしようとしない(抱えられてるけど)。
じゃあ、どうすればいいんだ?俺は。よく考えろ・・・。
今、俺が咲───『俺』───を好きと言わなければ、少なくとも戻ったときの俺の立場がなくなる。叔母さんから『シスコンの変態』ときっと言われる。
かと言って、好きと言えば咲の意見を尊重することになる。今の、間違えてる咲を正せなくなる。
・・・。
結局、俺は腹をくくった。
舌を噛みきりたい思いで、俺は口を開いた。
「わ、私も・・・お兄ちゃんが・・・好き」
そして、赤い顔を悟らせないようにするためと、演技のため、俺は叔母さんに背を向けて咲に抱きついた。
恥ずかしい!恥ずかしい!恥ずかしい!
俺は、俺は、俺はぁぁぁ・・・!
立場の変わりに、俺はあらゆるものを失った。
さっきから失ってばかりだ・・・。
「よし。応援するよ?でも付き合うと変わるもんだねぇ・・・。いつもより、健介君カッコいいし、咲ちゃん可愛いし」
「あはは。ありがとうございます」
「~~~~~~っっ」
俺は、恥ずかしさと自己嫌悪に、顔を沈めることしかできなかった。
◇ ◇ ◇
「咲!どういうつもりだ!」
「まだ真っ赤だよ。咲?」
叔母さんに遅い遅い朝御飯を食べさせ、俺は咲をつれて『俺』の部屋に入った。
そして、咲に向かい合って怒鳴る。
音漏れは大丈夫。けっこう壁厚い。
「勝手に付き合うなんて言って!今のお前、変だぞ!」
もう、我慢できない。
咲が傷ついても、言うしかない。
今のお前は、おかしいんだって。言うしかない。
これ以上は、見過ごせない。
「兄と妹は、付き合えないんだよ」
「・・・」
「それくらいお前だって分かってるんだろ?」
俺は、咲の両腕を掴み、体を揺する。
「確かに、お前が俺に好意を抱いてくれてるのは嬉しい」
俺はお前のためなら死ねる。うん。叔母さんのためだと、どうか分からないが、お前のためなら絶対に死ねる。
喜んで死ねる。
「だったら!」
「だけどな。俺たちは兄妹だ。その一線を越えちゃダメなんだよ」
俺は、揺するのを止めて腕を下ろし、咲に笑顔を向ける。
「その代わりと言ったらなんだけど、お前に好きな奴ができた時、精一杯応援する。俺は絶対お前の味方だ」
俺の言葉を聞いた咲は、下を向いていた。
そして、震える声で呟いた。
「それを・・・」
「咲?」
「それを・・・言うなら、今味方になってよ!私と、付き合ってよ!」
咲の激昂に、自分より大きな男の激昂に、俺は怯んでしまう。
そして、それを見逃さない咲じゃなかった。
「・・・っ!?」
ここまで、されるとは思ってなかった。
ここまで思われるてるとは、思ってなかった。
なぜなら。
俺は、咲に押し倒されていた。
両腕を掴まれ、すぐ近くにあったベッドに俺は、押し倒された。
「止めろ!咲!」
俺は必死に手足を動かそうとするが、上に乗る咲に押さえられ、どうにもならない。
どころか、咲は俺の両腕を片手で持って、俺のジャージのファスナーに手を掛けた。
くそっ!どうしてこんなに力が通じないんだよ!
どうして!俺はなにも出来ないんだよ!
「・・・無駄だよ・・・咲・・・」
意識したのか、無意識なのか、口調を切り替え、咲はジャージのファスナーをゆっくりと下ろしくいく。
まるで楽しんでるように、ゆっくりと下ろしていく。
「俺の時よりずっと、綺麗だよ。咲」
ファスナーを下ろし終わると俺のジャージが捲られ、可愛そうだが大きいとも普通とも言えない、下着に包まれた俺の胸が出てくる。
別に、下着は自分でつけてない。元々ついてた。
いや、そんなことは今となってはどうでもいい。
ふと気づいた。いつの間にか、俺は抵抗を止めていた?
普通は意識せずとも、無意識に、抵抗はするはずだ。
なのに、俺は抵抗を止めていた。
「始めようか?」
その、咲の一言で俺は我に返る。
そして、思わず目を瞑り、懇願を思って叫ぶ。
「咲っ!止めてくれ!」
え・・・?一向に咲は俺の体に触れてこない。
俺は恐る恐る目を開けた。
「俺を好きになるまでは我慢してあげるよ」
咲は俺の腕の拘束を解いて「恐怖症とかになってほしくないし」と言う。
「じゃあ、なんでこんなことを・・・」
「自覚させるためさ。肉体的優位。そして、その体が誰のものかを」
その言葉に、俺は自分の心がよみがえる。
『俺の両腕』『俺のジャージ』『俺の胸』『俺の体に』『俺の腕』
確かに、無意識に自覚してしまった。
思い込んでしまった。
この体を、自分のものだと錯覚してしまった。
「もしこの入れ替わりを誰かに言ったら───」
「っ!」
咲が、俺の・・・『咲』の体の胸の間にスーッと指を通した。そのせいで、俺は変な感触を覚えた。
瞬間、咲は俺の顔・・・『咲』の顔に顔を近づけた。
そして、面白そうに言う。
「───本当に、するから」
そして。
「んむ!───────、─────っ!はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
「分かった?」
俺は、咲の本日二度目のキス。生まれて初めての、ディープキスをされたためか、頭の中がボーッとする。
口内の強さも男女で違うんだな・・・まぁ、俺が・・・『咲』の体が弱いのかもしれないが、押し返そうとしても逆に絡められる・・・。
「その顔、誘ってる?」
「っ!ち、違う!」
いつの間にか、俺からどいてベッドの隣に立っていた咲の顔を見ずに、俺は慌てて起き上がり、ジャージを着直す。
やばい・・・本気で余韻に浸ってた・・・。
少し、女になってた・・・。
「ま、自覚してくれたようでお兄ちゃんも嬉しいぞ?」
「・・・」
俺は、何も言えなかった。
なぜなら、本当に自覚してしまったからだ。
今、元に戻るまでの仮だとしても、俺は女で、男には勝てないんだと自覚してしまった。
拘束されたとき、何もできなかった。
そして、俺の体は、無意識に咲を好いている、いや。違う。『咲』の体は、無意識に『俺』のを好いている、だ。
咲が何かするたびに体が勝手に、ときめいたり、喜んだり、無抵抗だったりした。
俺が、咲のことを好きなはずがないんだから。
「そ、それなら、咲だって。俺と付き合うのが変だって自覚しろよ」
「例えばだけど。それじゃ、男と付き合うのか?」
「あぁ。そうだ」
「この体で?」
この体・・・。咲は今『俺』の体。
『俺』は男。
男が『俺』と付き合う。
男と男が付き合う。
男と男が・・・。
うわああああああああっっ!!
俺の顔がまた、赤くなる。
「分かっただろ?誰にも話せないこの状況。付き合うとしたら当事者同士以外あり得ない」
「だったら、他の人に言えば───」
「そんなに、やりたいの?」
「・・・ご、ごめんなさい・・・」
俺は、謝ることしかできなかった。
結局、叔母さんが「遅い!」と言いに来るまで、俺はことごとく言い負かされた。
◇ ◇ ◇
よく踏み留まったね。妹ちゃん。
咲「お兄ちゃん傷つけるのは論外」
健介「・・・」
なんだい?その顔は。なにか不安でも?それとも不満かい?
健介「両方だ」
くっくっく。そう言うと思ったぜ。
咲「出た、パクり」
大丈夫。ここはパラレル。削除可能だ。
と、妹ちゃんに脅されるのもなんなので、いきなりプロフィールどん!
■伊藤咲■
いとうさき
身長◇144㎝
体重◇29㎏
髪◇紫がかった黒の腰まで
好きなもの◇健介・餅
嫌いなもの◇犬・調理前の魚介類
詳細◇クール。成績は学年トップ。運動、料理が出来ない。静かな美少女。父親から幼い頃に虐待を受けていた。それに気づいた健介(小学三年)が叔母の所に逃げるのを提案し、それが成功して今の家庭となった。体には無数の傷があり、それを隠すためにか、露出のない服しか着ない。ロリ体形と言える。
さすがに、バストは書かないでおくよ?
咲「書いたら、殺す!」
いやいや、大丈夫。設定はあるけど書かない書かない。
ていうか、気にしてるんだ。