人は空を飛べるのか?
ふと話を思いついたから書いた
つまり気分転換なう
短編って伏線とか考えなくていいから素敵
人物表はございません
人は空を飛ぶことが出来るのか?
その疑問は多くの人が挑戦し、そして苦渋を味わってきた難題ともいえる。もちろん何かに乗るという形でならば飛ぶことも出来るけど、それは何か違うと思う。
何でも昔の人は人力で空を飛べたとか何とか聞くけれど、名のある魔術師でもない一般人が空を飛ぼうというのは高望みだろうか。
でも私は断固として言いたい。
人は飛べなくてもいいと!
□ □ □ □
四角い積み木を2つ、三角の積み木を1つ縦に積んだ直線しかない物体が私達の拠点としている我が家で、私の現在位置は三角の積み木の上となっている。そこから見下ろした家庭菜園という名ばかりの場所には紫やピンク何かの怪しい植物が蠢いていて、傍にある池だか沼だかわからない底なしの水溜りは今日も太陽の光を反射させている。視線を少し上げれば倒壊したビルに廃棄された車、そして廃屋の並んでいる街並みが見える。相変わらず動く物は見当たらない。
そんな代わり映えのない光景に飽き飽きして、綿菓子の様な雲が浮いている梅雨時の空を見上げれば、進化に進化を重ねた結果、水中から空中へと移住した色とりどりの魚達が、喰うか喰われるかの生存戦略を繰り広げている。空という人類が手出しできない場所へと飛び立った彼らにとって人類は天敵ではなくなり、今日も今日とて突然変異のための汁を撒き散らしているのでしょう。
「おおぅ…」
空を見上げて呆けていたら強風が吹いたので、慌てて屋根へと四つんばいになる。人の現状も知らずに吹き荒れる風に対して、罵声を浴びせながらぶん殴りたい衝動に駆られたけれど、そんなことをしたら怒り狂った暴風が瞬間最大風速を巻き起こし、人間おむすびころりんとなるのは目に見えているので我慢する。ここにはおじいさんは居ないし、ましてや転がった先にねずみの巣穴もありはしない。あるとしたら地獄の釜くらい。
地に足をつけている人は言うだろう「そんなところに居ないで早く降りて来い」と、その意見には私も大手を振って賛成したい。けれどえっちらほっちらと大黒柱の脛にかじりついている梯子を降りている時に強風が吹いた日には、突然自立させられた子供の様に宙ぶらりんとなって墜落するのは目に見えている。だから私はこう言いたい。
「風さん風さんお願いだから止んでくれない?」
返事は強風だった。
畜生…馬鹿にしやがって…!
心の中で悪態を付いても風が自重することはないし、かっこ悪く這い蹲っている現状が変わる訳でもない。何とかして打開策を考えなければ。
そこでふと、空を見上げるように寝転がれば風の脅威も無くなるのではないかと閃いた。早速風が息切れした瞬間を狙って、うわっ私天才!とか思いつつ寝転がってみる。
どうやら私が強風と戦っている間に生存戦略は決着が付いたようで、心なしお腹の膨れた魚が悠々と泳いでいる。そういえばそろそろおやつの時間ね。それまでには何とかして降りなければ。
ぼけーっと宙に浮く綿菓子に想いを寄せること数十秒、再び息を吹き返した強風が吹いた。おそらく本日の瞬間最大風速を迎えたであろう強風は、寝転がっている私に直撃し、路上に落ちたゴミの様に回転させた。雨が落ちる様にと設計された傾斜は、ご丁寧にも私の回転も加速させるだけで止めることは無く屋根から落とそうとしてくる。回る視界の中、一瞬だけ半身が宙に浮いたのを感じた。
ただ反射と直感だけに身を任せて手を伸ばし、触れた物体を全力で掴む。何とか屋根の縁へと出会うことに成功した私の手は振り子の糸の代わりを見事に勤め、私を家の壁へと叩き付けた。
痛みで悶えたいけれど、悶えた瞬間に落下してしまうのは目に見えているので声も出さずに痛みの波が落ち着くのを耐える。痛みが引くのと引き換えに痺れていく私の腕。ここには神も仏も居ないのか!
ファイトー!
などと言っても誰も「いっぱーつ!」等とは返してくれず空しい気分を味わうだけなので、黙ってよじ登る。上半身を屋根の上へと移動させて一息つくと、足をじたばたとして全身を引き上げる。今の私を下から見たら泳ぎの練習をしている人の様に見えるでしょうね。じたばたする度に足が壁に当たって痛い。
匍匐前進の様に全身で生きていることの素晴らしさを感じ、ずりずりと三角形の頂点へと移動していく。風も空気を読んだのか、そよそよと場所が場所なら眠くなるような風に変わっている。もちろん、今寝たら一生目覚めることのない眠りへと落ちる。
頂点に近づき、屋根の反対側が見えると何か黒い毛むくじゃらの物体に遭遇して心臓が止まるかと思った。一見すると猫に見えるシルエットにはあるべき場所にあるべき足が無く、代わりにひらひらとした造形が付いている。まるで未知の生物に遭遇した気分だけど、哀しいことに未知でも新種でも無く身近に居る猫だった。
ナメクジ猫と命名されたそいつは突然現れると宇宙人と遭遇した様な気分になるけれど、よくよく見ると中々愛嬌のある顔をしている。ふっくらとした体にとろんと眠そうな目、そしてたれた耳とさらさらの毛並みは人を魅了して止まない。のそのそとゆっくりもったり動いていて狩りや天敵は大丈夫なのか、いつも気になる。
「ぬぉーん」
ナメクジ猫は私を見つけると一声鳴いて、のそのそとこちらへと寄ってきた。…本当に鳴かなければ可愛いといつも思う。
指を出してチッチッチと呼んでみると、ぺろぺろと舐めてくれた。実際にはじゃりじゃりといった感覚が私の指を襲っている。
そのまま喉元を撫でると、ゴロゴロと音を鳴らしながら私の方へと寄ってくる。風も収まってきたので座ると、膝の上に乗っかってきてゆっくりと目を閉じた。うわぁ、下腹部がぬめぬめしてる。
ぬめぬめさえ我慢すれば後はさわさわと毛並みを堪能するだけで、先ほどまでとは違った穏やかな時間が流れる。
「…猫」
「うひゃお!?」
突然肩越しから声がしたので驚いて転げ落ちる。おむすびころりんをリアルでやってもお爺さんは助けてくれないので、全力で縁へとしがみ付く。二度目となればしがみ付くのもお手の物。けれども、こうも短時間で二度目が来ると私の腕に溜まる乳酸はすさまじいことになっている。ビターンと叩き付けられた足への痛みも先ほどより大きい。というかすごく痛い。
それでも残された時間は少ないので気分だけでも勢いをつけてじたばた這い上がる。
「ファイトォォォ!」
「…」
渾身の叫びは空しく宙に響いた。ここには神も仏も居ないのか!
お決まりとなった匍匐前進で先ほどまでいた位置に戻ると、ナメクジ猫も突然現れた誰かも居なくなっていた。
せめてナメクジ猫くらいは帰ってこないかと辺りを見渡すと、すみれ色の髪から生えている猫耳が見えた。猫耳はひょこひょこと何かを探すように動くと、私の方に向かって動かなくなった。暫くの間、思いっきり未知の生物と化しているそれと見詰め合っていると、その猫耳はゆっくりと上へと上っていって無表情の顔が現れた。
じーっと見詰め合うこと数秒、彼女は白いワンピースと長い髪をなびかせて梯子を登りきり、四つんばいになると片手を招き猫の様に曲げた。
「みゃぁ」
彼女は抑揚のない声で一つ鳴くと、じーっと私の方を見つめる。そして私が何もしないで居ると、また「みゃぁ」と鳴いた。宇宙人と突然コンタクトを取れといわれたら、こんな気持ちが巻き起こるのかもしれない。
とりあえずナメクジ猫のときと同じように片手を出してチッチッチと呼んでみると、無表情のまま近づいてきて、ぱくっと指を口に含んだ。チロチロと何か熱いものが指を嘗め回される。
「美味しい?」
「んにゃぅ」
あまりにも熱心に舐めているのでなんとなく聞いてみると、上目遣いの無表情でこちらを見つめ、私の手を自身の頭へと置いた。さらさらと彼女の髪を撫でると「んっ…」と喉を鳴らして先ほどよりも熱心に舐めてくる。
「そういえば、人は空を飛べると思う?」
「…飛ばなくてもいい」
「へぇ…何で?」
私も人なんて飛ばなくてもいいという考えには心底同意なのだけれど、意見が一致して「はいそうですか」と片付けていては天邪鬼の名折れ。意見が一致したからこそ、反抗してみたくなるものである。我ながら難儀な性格だとは思う。
彼女は私の指をもごもごするのをやめると、廃墟と化している街の方を見つめた。風が吹くたびに熱から開放された指先が冷えるのを感じる。
「堕ちたら大変」
「それもそうね」
別に反抗するのが目的なので素直に折れる。ぼけーっと空を見上げると、手に頭を擦り付けてきたのでさらさらと撫でる。ついでに私の指も熱い何かににゅるりと飲み込まれた。ああ…牛タン食べたい。
□ □ □ □
暫く何の儀式かわからない状態が続き、私の指が唾液でべとべとになって来た頃、カンカンと梯子を登る音が聞こえてきた。
「こんなところで何してるんですか?」
セミロングの真紅の髪に緋色の瞳。白衣と中に着ているクリーム色のシャツが涼しげな色を表している。ついでにその視線も冷ややかさを増しながら私と猫耳の少女の方へと向けられている。
「むぐ…」
「…」
「…」
彼女は無言のままカンカンと降りていった。そしてがたがたと不吉な音を鳴らしていくと、梯子が脛齧りから自立して離れていくのが見える。
慌てて、けれどもできる限り安全に梯子のあった場所へと近寄って下を覗き込むと、折り畳まれた梯子を片手に赤髪の娘がにっこりとこちらに微笑んでいるのが見えた。
『ア ホ』
ご丁寧にもゆっくりと、しかも私に見えやすいように口を動かして罵声すると彼女は家の中へと消えていった。何がアホだこの世間知らずめ!と心の中で叫んでおく。心なしか、風がまた強くなってきた。
のそのそと先ほどまでいた場所へと戻ると、猫耳をつけた少女が無表情なまま首をかしげてこちらを見ている。
「どうした?」
「現状を突破する手段を考えないといけなくなった」
「必要?」
「突破しないとおやつの時間が抜きになる」
「…考える」
状況がよくわかってない様子の彼女にも判りやすいように現状の危機を教えると、二人でぼーっと空を見上げて考える。青空を覗かせていた空は何処へいったのか、今では不吉な色をした曇天が上空を支配している。
一雨振りそうと思った瞬間、私の脳内に電流が走る。
この短時間でめきめきと上達していく匍匐前進で雨樋の方へと移動すると、二度三度と力を込めて強度を確認してみる。ぎしぎしと音を立てる頼りない筒は、梯子が無くなった現状で唯一の地上に伸びる通路といえる。どちらかが雨樋を伝って地上へと降り立ち、そして梯子を立てかける…完璧じゃない!
問題はどちらが降りるか…。
降りるなら雨樋に掛かる負荷は軽いほうがいい。そして哀しいことに私よりも彼女の方が軽いのは目に見えている。でも…。
「…?」
ちらりと少女の方を見ると、不思議そうに首をかしげていた。その光景はとても頼もしいといえるものではなく、つまるところ不安しか湧き上がらない。
それでも何とかして地上へと帰還しなければならない!私達に残された時間は残り少ないのだ!
不安要素は尽きるどころか増えていくけれど、すべてを見なかったことにして彼女へと計画を伝える。こくこくと無言のままで頷いた彼女はわかっているのかいないのか…どちらにしても私にはこの子を信じるしかない。
彼女は地面へと続く雨樋へと無造作に手を掛けると、機械的に降り始めた。ひょこひょこと動く猫耳がだんだん見えなくなってくる。アレはどういう原理なんだろうか?
今度借りてみようかと悩んでいる間に、少女は屋根裏部分を通過して2階の辺りまで辿り着いた。雨風に晒されてぼろぼろとなっている壁には亀裂が走っていて、一体何処に彼女を支える力があるのか不思議になってくる。
「…嫌な予感がする」
ポツリと呟くのと、パキンという軽い音がするのと、少女が雨樋から片手を離すのはほぼ同時だった。パキパキと音を立てて壁から剥がれていく雨樋。雨樋が完全に剥がれて宙へと放り出される直前、彼女は話していた手で壁を思いっきり殴りつけた。
ドンッと今度はえらく重い音が響いて吹っ飛ぶ少女。ついでにぱらぱらと壁の欠片が地面へと落ちていく。穴が開いてないことを切に願う。
数秒後、底なしの水溜りへと着水した音がした。
辺りの草へとワイルドな水遣りを済ませた後、ずぶ濡れとなった少女が水溜りから上がってきた。二度三度と首を振って髪の水を飛ばしている辺り、怪我はない様子。
少女はそのままぼたほだと水を流しながら私の方を見上げ、そして家の中へと入っていった。よし、後は梯子を掛けてもらうだけ!ミッションコンプリート!という七色に光る文字が私の脳内で点滅する。
そのままワクワクしながら脱出への梯子が掛けられる瞬間を待つ。
上空で小魚が芸術的な群になって飛行を始めた。
その小魚を狙った魚が何度も突撃を繰り返し、芸術をばらばらにし始める。
捕食された魚の頭が遠い場所で落ちていくのが見えた。
「…」
認めたくない…気づきたくない現実がちらちらと脳内に現れては消えていく。
コレは…もしかして見捨てられたのでは?
□ □ □ □
どれだけの時間が過ぎたのか、彼女は帰ってこなかった。
待てど回路の日和なし。
こうなったら自力で地面へと生還するしかない。
けれど、どうやって?
三人そろえば文殊の知恵とはよく言ったものだが、三人そろわなかったときはどうすればいいんだろうか。仕方ないので脳内住人三人を集めてみるも、出てくるのは打つ手なしの3文字だけ。役にたたねぇ三人だ。
空は黒い雲に覆われてきていて、私の心の中を写しているかの様子。せめてあそこに光があれば何か名案でも浮かぶのでは?と思い、晴れよ空!と念じてみる。
私の祈りが届いたのか、下の方でがたがたと音がしているのが聞こえた。そうなれば役立たずの三人なんぞどうでもいい!私は帰るんだ!地上へ!
意気揚々と下を覗き込むと、猫耳を外してすみれ色の髪だけとなった少女が見えた。服が違うのは着替えたからかな。
彼女は不思議なものを持っていた。どう見ても梯子には見えないそれは長い棒で、先っちょには刃の無いはさみの様な物がついている。少女はその先を見つめて何か操作すると、はさみがカシャカシャと閉じたり開いたりする。
彼女はその様子を見てうなずくと、何故かお皿を鋏に噛ませている。そしてそのまま私の居る場所へと棒を向けると、プルプルと棒が伸び始めた。私の目がおかしくなってなければ、お皿の上にはケーキが乗っている。それもチョコレートとクリームがたっぷりの。
手が届く距離まで来たので受け取ると、先ほどとは違う速さで棒は戻っていく。
とりあえずお皿を屋根の上に置いて意味を考えていると、先ほどと同じ要領で水筒が昇ってきた。受け取ると水筒の脇にフォークが付いていて、表面はほんのり暖かい。
奇怪すぎる。
コレ何?という思いを込めて下に視線を向けると、彼女はのそのそと家の中へと戻っていった。
もしかしたらこの水筒が脱出のヒントか!と思いコップ代わりとなっている蓋を開けてみると、一枚の紙が出てくる。その時確かに、ただの紙が絶望の大地に差し込んで来る一筋の希望の光に見えた。
『お茶の時間』
コレが全文である。前文ではない、全文である。間違ってはいけない。差し込まれた希望は実は懐中電灯で、スイッチ一つで簡単に消し去り、辺りを絶望の闇が支配する光景が見えた。
ちなみに水筒の中身は紅茶だった。
まさかこれらを使ってサバイバルしろという意味では無いだろうから、あの子はホントにお茶を届けただけらしい。
湧き上がる悲しみから目をそらすため、フォークでケーキの一角を崩し、口へと運ぶ。そして程よい甘さのそれを味わいながら紅茶を飲めば、いくらか落ち着いた。
大体何を焦ることがあるのだ。彼女達も私がここで餓死するまで放置するということはしないだろう。ならば今私に課せられた使命はこのケーキと紅茶で優雅なティータイムを楽しむだけではないか。現にこの瞬間、私の気分は曇天で足を踏み外せば地獄一直線の屋根の上ではなく、晴天でそよ風の吹く草原で行う優雅なティータイムの真っ最中である。そういえば、あれほど強かった風もそよ風に変わっている。
「ふぅ…」
息を一つ吐くと、ぽつ…と聞きたくない音が私の真横でした。絶対にそちらを見るものか、と思いながら紅茶を口に運ぶ。なぜなら私の気分は晴天でそよ風の吹く草原で行う優雅な…。
ぽつぽつは段々と多くなっていき、数秒もしたらザーザーへと変化した。しかも最悪なことに雨の色が赤い。雨は神様の涙とは言うけれど、今現在その涙を私は全力で殴って止めたい。赤い雨が降ると良くないことが起きる。誰かが言った迷信は迷信の枠を超えて、皆さんに絶望を降りまいているのでしょう。
こうなっては優雅も何も言ってられない。可能な限りの速度で水分を吸ってべとべとになったケーキを口へと運ぶと、赤い雨水が混入して鉄分の味が混ざった紅茶を飲み干した。
優雅なティータイムが嵐の如く過ぎ去っても雨は止まることが無い。そして私には身を隠すべき場所が無く、ただ雨水に打たれる。
不幸中の幸いとして通り雨だった様で数分も過ぎると雨は止んだ。たとえ通り雨だとしても、私をずぶ濡れにするには十分すぎる時間。
そしてさらに殴りたいことに雨が過ぎたら晴天が現れた。現れてくれるのは非常に嬉しいけれど、現れるのがいささか遅すぎる。
けれども今までの流れで全て悟った。
助けは来ない。
何とかして現状を打破するしかない。
この絶望的な状況ならば何らかの能力が開放されてもおかしくない!具体的には空を飛べるとか!そもそも私は飛べるんじゃないだろうか?試しても居ないのに結論を出し、自らの可能性を潰しているのでは無いだろうか!そうと決まればすることは一つ!
立ち上がると屋根の頂点に立ち、静かに息を吐いて集中をする。風がさわさわと髪を撫でるのを感じる。昔訓練した、短距離で最高速に達する方法を思い出す。アレから何年が経過したっけか…。
ゆっくりと体の重心が前に掛かるのと同時に強く足を踏み出す。
屋根の傾きを利用して速度を加速させていき、あと少しで踏み切る。
「うぃぃぃぃぃぃ!きゃぁぁぁぁん!ふらぁぁぁぁ!え…we!?」
自分の発言に疑問が出来て隣を見ると、そこにはとても素敵な笑顔で併走しているお爺さ…。
結果として私は最期の一歩を踏み外し、加速していた私の身体は勢いよく宙へと放り出される。
回転していく視界で併走していたお爺さんが空へと撃ち出されているのが見えた。
□ □ □ □
目を覚ますと白いベットが見えた。そこにはすやすやと寝ている、すみれ色の髪の少女。アレはいいのか。
「あなたが目を覚ますまで待ってるって言っていたんですが、眠くなっちゃったみたいですね」
ぼーっと彼女の方を眺めていると、声がしたのでそちらの方を見る。まず見えたのは白衣。そこから少しずつ視線を上へと動かすと、赤い髪の少女がこちらを見て微笑んでいた。その頭の上には、見たことある猫耳がひょこひょこ動いている。アレは着脱可能だったのか…。
「ここは?」
「庭で潰れた蛙の様に倒れていたので、病院に運んであげたんですよ」
「へぇ、それはそれはご丁寧にありがとう」
言いながら身体を起こそうとすると、足と腹部、そして胸部に激痛が走ったので思わず悶える。
「足の骨が折れて内臓も少し痛んでるらしいですから、動かないほうがいいですよ」
「…そ、そういうことはもっと早く言って欲しかったわね」
くすくすと笑いを堪えてる様子の彼女の声に答えると、ベットに身体を預けて深く息を吐く。
「ところで、何で猫耳つけてるの?」
「さぁ、何でだと思います?」
聞いてみると彼女の笑い顔が溶ける様に無くなると、真剣な目付きで私の方を見つめてくる。
何となく手を伸ばすと、彼女の頭に乗せる。ぴくっと少しだけ動いたけれど、特に反応しないのでサラサラと撫でる。
「…んぅっ…あっ…ん…」
撫でていると、所々嚙み殺した声が漏れるのが聞こえて耳がぺたんと大人しくなった。そして無意識なのかどうなのか、撫でやすいように私の方に角度を付けてくれる。
「あなたって時々可愛いのね」
「~っ!」
思った事が口から出ると、震えながら耳まで真っ赤になった。
「…あなたはずるい人です」
「それもそうね」
サラサラと撫でていると、やがてぼふんと私の胸に頭を乗せてきた。軽い重さと激痛に声が出そうになる。
「…その、痛いんだけど」
「…知らないです…アホ…」
なぜ私がアホ呼ばわりされないといけないのやら。
さらりさらりと撫でやすくなった頭を撫でて窓の外を見る。そこから見える景色は相変わらず快晴で、空が飛べたらさぞ気持ちいいだろうに。
「そういえば…人は空を飛べると思う?」
「…それは精神的にですか?肉体的にですか?」
「そうだねぇ」
もそりと私を見上げてくる彼女を見てから、また窓の外を見つめる。
「どちらも飛べなかった私には縁の無い話か…」
「なんですかそれ?」
「さぁ、なんだろうね?」
くすりと笑うと、彼女の頭を胸に押し付けて撫でる。彼女は暫くじたばたしていたけれど頭を撫で始めると大人しくなった。
「本当、あなたってこういう時は可愛いのね」
「~っ!このっ…」
彼女は何か言いたさげに手をばたばたさせていたけれど、諦めた様子で頭をこすり付けてくる。撫でるのを止めると耳が講義するように動いたので、今度は黙って髪を梳くように撫でる。
ああ…空飛びたいな。
地上から見上げる空は、憎々しいほど綺麗だ。
ナメクジ猫に出会いたいと思う今日この頃
そんな私ですが、今現在は通り道に居る野良猫と親善を深めようとあの手この手で擦り寄ってます
猫にとっては迷惑なのでしょう
さてさて、一応設定は作ったの!楽しいから!まぁ、ほとんど意味を成していないのですが
それにしても…空飛びたいですよね
ぼけーっと空を見上げているのって素敵
ではでは、少しでも楽しんでいただけたら幸いです