本
電車の中で本を拾った。
誰かの忘れ物だろう。
文庫本で、カバーは取られていて、味気のないのかあるのかよくわからない表紙がむき出しにされていた。
その表紙に隠れるように小さくタイトルがある。
本は長年読み込まれたようだった。
表紙は少し型がついており、中のページにはところどころ織り目があった。
ざっと本文を読んでみたが、本文に何かしらの印はない。持ち主の拘りなのだろうか。
私にとってこの本はただの文庫本に過ぎない。
しかし、落とし主にとってはこの本がどれだけ大事なものなのか想像もできない。
手の中の文庫本がやけに重たく感じられた。
これが持ち主の手に帰ることを願いながら、駅員に届けた。