第五話
俺は逃げようとしたが、なんかおかしい事に気付いた。ホームレスチックのおっさんは白目になるどころか、俺の名前すりゃ言わない。
なぜなんだ?
俺は小屋内を見渡すと、この小屋にテレビが無い事に気付いた。
そうなのか、テレビで俺の顔を見なければ感染ていうか洗脳されないんか。
「なんだお前、いきなり入って来て」
「あ、すいません」
「どうせ俺みたいな奴を小馬鹿しに来たんだろ?」
「いえ…」
「じゃあ、なんだ」
「ここに住もうと思って」
「あん?借金取りに逃げる為か?」
「いえ…命狙われてるんです…」
「…お前、なんか暇潰しになれそうだ。話聞くよ」
俺は何の気なしに命が狙われてると呟いてしまったから、本当の事を話したが。馬鹿にするところか、まるで映画を見てるみたいに興味ありげに聞いていた。
よほどこの川で孤独を味わっていたのだろう。
「面白いな。電波を利用されて全人類に命を狙われるなんてな。まるで小説みたいだ」
「俺もそんなの小説の中でしか起きないと思ってました。でも、本当にあるのですね」
「…お前、ここに住め。テントは俺がなんとかする」
「え?」
「困ってるのは本当だからな」
「本当ですか?ありがとうございます」
俺は嬉しくて、急いでコンビニで金を降ろし、スーパーで惣菜や酒を買って、二人だけの歓迎会をした。
おじさんの名前は吉野さんという56歳のおじさんで、リストラされ、家を売られた挙げ句、奥さんと娘に全財産を持ち逃げされホームレスという道を選んだおじさんだった。
それから吉野さんは、強盗を捕まえて表彰された事から川に溺れた事まで話して、いつの間にか夜は開けていた。
「もうそろそろ春だなぁ」
吉野さんはここに住んでもう二年だから、この川と共に時を過ごしてるんだな。
「おい織田、お前には他に帰る場所があるんじゃないか?」
「えっ?」
「お前の親だよ。十何年も一緒にいてくれた人がこんな電波で洗脳される訳ないだろ」
「そうですよね…」
「一回、親に顔見せな」
「はい」
俺は、明日帰郷する事にした。