第二話
長いですけど飽きなぃでね(´・ω・`)
アパートの住人が帰って来たのか、鉄の階段を登る音が聞こえる。その音でさえも、恐怖を感じる。
もしかしたら窓を開ければ、俺の命を狙っている奴がアパートを囲んでいるんじゃねえか…?
もしかしたら剛も俺を殺すために優しく振る舞っているのか?
命が狙われてるとなると、全ての人物が信じられなくなる。
早く…剛…来てくれ…。
剛だけは信じられる。剛はどんな状況でも信じてくれた。
あの…ときも…。
ドンドン!
「おい和也!俺だ!」
剛が来た。ドアがドンドンと唸る。インターホンが無いアパートだから、剛独特のノックだって分かる。
「おい…」
ノックの音が途絶えた。あれ…?
急な沈黙が訪れた。シーンと静まり返る俺の部屋。何か起きたのか?
俺はやや早足で玄関に向かう。
外に出れば殺されるかもしれない。でも、剛の命の方が大事だ。
だって、あの時も…。
高校時代、剛と一緒に帰ってる時。
「おい、和也、見てみろよ」
剛がはしゃぎながら駆け足で急ぐ。この時は夏真っ盛りだから暑くて頭が壊れたのかと思ったが、剛の目的はバイクだった。
高校生にとって、バイクは憧れの存在で、バイクの改造をする為にバイトする奴らもたくさんいた。
俺らがいた高校はバイトもバイクも禁止だったからめちゃめちゃつまらなかった。
別に許可証を提出すればバイクもバイトも出来るけど、バイクを使う程家も遠くないし、バイトをしなきゃならない程家計が苦しい訳でもない。
だから許可も貰えず、つまらない青春だった。
「すげーかっこいい。雑誌に載ってた新車だぜ」
「うわ、マジだ。かっこよすぎじゃねーか」
ハンドルからタイヤ、とにかく全てがかっこよくて、すげー欲しくなった。
「あれ?」
よく見ると、このバイクに鍵が付いている。すぐ済む用事なのかもしれない。
それにしても不用心だなぁ。盗難されたらどうするんだよ。まぁ、わからせてやるのもいいかもな。
「剛、これ乗って帰るべ」
「はぁ?何考えてるんだよ?この前もバイク盗んだ高校生がリンチされて死んだだろ?」
「大丈夫だべ?そこに置いておけばバレねぇし」
「いいじゃん、いいじゃん。俺こんな事してみたかったし」
「おい!マジで」
俺は鍵を回した。キュルルと、エンジンの起動音が耳を貫く。
やがて、エンジンが点くと、一瞬やっぱりいけないかもしれない。と思ったけど、新車の気持ち良さを感じたいのか、すぐ消し去った。
俺はバイクに跨り、ハンドルを優しく握ると、今まで乗ったバイクの中で最高のランクだと察した。
「ほら、早く乗れよ」
「…知らねーぞ」
剛は仕方なくバイクに跨った。
俺はアクセルを握ると、まるでジェットコースターに乗っているようなめちゃくちゃ気持ち良い風が、頭、顔、腕、胴、脚、体中で感じる。
「すっげー!!!!気持ちぃい!!なぁ!!」
「おう!!」
最初は仕方なく乗った剛も、あまりの気持ち良さに叫ぶ。
「盗んだバイクで走り出すぅ。行く先もわからぬままぁ」
「17の午後四時半だな」
そんな風にふざけていたのも束の間、急にバイクのスピードが衰え、ジワジワとエンジン音も静かになり、しばらくして停止した。
「おい、これってまさか…」
「ガソリン切れだぁ!!!!!」
「何ぃ!?」
「押すか、オスカー?」
「こんな状況でギャグなんか使うなよ。押してる間にバレたらどうするんだよ」
「…」
「…」
「逃げよう」
「そりゃそうだ」
ガソリン切れたんだもの、しょうがねえ。
俺と剛は逃げ続けた。
翌日、学校に来た剛は顔中傷だらけだった。制服も土が着いていた。
「おい剛…その傷、どぅしたんだょ…」
「これ?バイクのご主人にボコボコにされたんだよ」
「はぁ?」
「俺の学生証がバイクが停めてあった場所に落ちててね」
おい…なんだよそれ…?
俺は後悔よりも先に、納得行かない気持ちが強くなった。
「バカじゃねーのか?本当の事を言えばお前はこんな傷にならなくて済んだんだぜ…」
俺は多少怒鳴り声になっていたのかもしれない。
剛は優しく俺に微笑みをかけた。
「ああ、でもな、俺はボコられるボコられないよりも、お前がまたバカな考えをしないようになってくれればそれでいいんだよ」
俺はその言葉がズシンと心の奥に突き刺さり、胸が熱くなった。
剛は、俺を信じて痛みに耐えてた。
それが分かるだけで、なんて友達はいいもんだと思う。
だから、全人類に命を狙われているとしても、剛を信じる。
剛に殺されてもいい。
俺らはダチだから…。
俺はドアをバン!と開けた。
だが、廊下には剛どころか誰もいない。あるのは、おにぎりやお茶、サンドイッチが入っているコンビニの袋だけだった。
剛はどこだ…?
「おーい剛ぃ!!」
俺は辺りをぐるぐる見渡すけど、誰もいない。
すると、何か音が耳に入った。
ドサッ!!バキ!!
何かを叩いているような音…。
アパートの下でそれは聞こえた。
俺が下を見ると、数人で誰かを叩いている。
よく見ると、頭を押さえている手の甲に、独特の傷跡があった。
あれは…。高校生の時に付けられた剛の傷…。
「剛!!」
全人類に命を狙われたって構わない。俺は剛の親友だ。