第4話
結果として俺は何処のギルドにも入らなかった。
まぁ、条件付きで……だけどね。
『ギルドに入らない間は一緒に行動する』
思えばこの条件はほとんどギルドに入っているようなものではないだろうか?
「面倒になっちゃたかな~」
俺は外をフラフラとあてもなく歩いている。どうしよう……俺、どうすればいいの!?
「玲、どうしたんだ? そんな浮かない顔で歩いていて」
「ああ、漣さんこんにちは。まぁ急にこんな出来事があったんで……滅入っちゃったかもしれませんね」
「ははっ! 全くお前が滅入るなんてそんな出来事があったのか」
漣の言葉に俺は小さい声で貴方達のせいですけどね……と呟く。その声が聞こえていない漣はまだ密かに笑っている、本当に自分のせいだと分かっていないようだ。
「ところで玲、お前はいま暇か?」
「そうですね……暇と言ったら暇、ですかね」
「そうか! なら丁度いいんだが少しモンスターを倒しに行かないか?」
「モンスターですか?」
漣の顔を見ながら俺は若干思考する。なにせ最強ギルド、サイズなのだ。この人の実力は間違いなくトップクラス、という事は倒すモンスターもボス級だろう。
もしかしたら1度倒したボスをもう1度倒そうとでも思っているかもしれない。
――この人の実力を見れるかもしれない。
「いいですよ。俺は戦いませんけど、漣さんの実力を見てみたいですし」
「君も戦うんだよ。妹が惚れた相手の実力を……いや! このお兄さんを倒さないと妹は渡さんぞ!」
「意味分からないんですけど、まぁいいですよ。回復アイテム買うんで少し待ってください」
軽く挨拶を交わして俺はNPCが経営している雑貨屋へと顔をだす。
そこにはいつも無表情の女性型NPCの姿、俺は彼女を見ながら話しかける。
「HP剤を10個ください」
「かしこまりました。1000リポになります」
俺はHP剤を受け取り、この世界での通貨であるリポを払う。と言っても俺はほとんど訓練所に居た為、ほとんどリポを持っていない。まるっきりの初期金額とボスモンスターであるケルーシュを倒して貰ったリポだけだ。
「漣さん、お待たせしました」
「ああ、じゃあ行こう。付いてきてくれ」
静かに歩き出す漣の後をぴったりくっついて歩く俺、向かっているのは森の方ではなく、むしろ森の反対側、海が存在するエリアだ。なら次の相手は魚とかなのだろうか。
そんな事を考えていると不意に漣は後ろを向いた。つまり俺の方に向いた。
「玲、ゲームをしないか?」
「ゲーム、ですか?」
聞き返すと漣はそうだ、と言って目の前を見る。俺もその視線の先を辿ると何かが居る事に気付いた。そしてそのモンスターを見ながら漣は言った。
「お前は前菜か主食と言ったらどっちがいい?」
「前菜ですね」
「そうかそうか、主食か。じゃあゲームは成立だ」
「……話がかみ合っていないですね」
俺は静かに目を閉じて溜息を吐いた。分かってしまったのだ、どんなゲームなのか。
「玲、今から案内する場所に居るモンスターなんだが。俺がその途中の雑魚モンスターを全て1撃で屠ったら、お前がその最後のモンスターを相手する、ってのはどうだ?」
「大分説明をはしょりましたね……なるほど、それは俺にメリットが存在しますか?」
俺が冷静に答えると逆に笑い出した漣、
「なんだ? 怖いのか、お前は」
漣はニヤリと笑うと挑発的な視線をこちらへ投げかけてくる。俺は静かにその視線を受け流して言う。
「安い挑発です。でもこれで俺がなんと答えようと、やらなければ怖がりの称号が贈呈されると言うわけですか……つまり、俺はやりますと答えます」
「面白い、じゃあその場所まで走ろう。まぁ1撃で俺が屠れたらの話だが……」
「詭弁ですね。出来るから言ったんでしょう?」
この言葉に漣は返答せず、そのかわりに自慢気に背中の大剣を抜き放つ。
見るからに重そうなその剣は日光を浴びて黒く光っている。
漣は目の前に迫るモンスターを見ないまま大剣でなぎ払った。衝突音はなく、綺麗にスッと刀身がモンスターの横腹を通り、横腹を抜けていった。
そしてそれが意味するのは死、モンスターは悲鳴をあげ、砂となり消える。
「玲、ついて来い!」
「……善処しますよ」
漣は言いざまに剣を背中に担ぎ、とても大剣を持っているとは思えないスピードで走っていく。彼が通る所に出現するモンスターは全て1撃、出てきた瞬間に砂となって消える。
強い。これが正直な感想だった。さすがサイズのリーダー、
「遅れないようにしないとな」
俺は走りながら呟き、更に走る速度を加速する。
ことごとく1撃で屠り続けながら走る漣の隣を走っているが漣は一向に疲れた様子を見せ ない。そしてだんだんとその鼻をツンと刺すような匂いが鼻をくすぐる。
――海の匂いだ。砂浜を進んでいく内にとうとう海まで辿り着いた。
そしてその海に着いた、つまりこれでゲームは終わり、漣さんの勝利だった。
「玲、全て1撃で屠ってやったぞ? さて前菜は終わりだ。今度は君が主食をやる番だ。
<ケルーシュ>の2つ前のボス、<クラベリオン>……カニだ。攻撃力は弱いし防御力もそこまで高くは無い。こいつ本当にカニか? って程な。だが俺達はコイツを倒すのに6時間も掛かった。正直言って交代しながらやらないと体力が持たないぞ?」
まだ現れていないがいずれ現れるであろう場所を見ながら笑いながら、本当に楽しそうに笑いながら漣は俺の方を見た。そして続ける。
「コレを君は倒せるかな?」
その言葉を漣が言い終えた時、漣の視線の先が揺れる。地面が膨れ上がり中から出てくる大きなハサミ、赤く堅そうな殻を纏ったモンスター、クラベリオン。
俺はその姿を見て、漣の方に視線を移した。
「これを俺が一人で相手ですか? 冗談でしょ。死んじゃいますね」
「玲、そんな言葉を並べられても困る。なんせ君はケルーシュを倒してしまったんだから。
――それがマグレでないことを証明するのは簡単だろう?」
お前には出来ないのか、という挑発にも聞える漣の言葉に俺の頭は一気に冷えた。
思考が冷静になり、身体の芯がスッと冷えてくる。
クラベリオンはいつの間にか臨戦態勢だがそんなことはお構いナシに目を閉じて息を静かに吐き出す。気持ちが落ち着き穏やかになった所で腰にある外側に沿っている短剣を抜き放つ。
――速攻で終わらせてしまおう。
俺の足が砂浜の粒の細かい砂にズッポリとしずむ瞬間、一気に砂が飛び散る。
一気にクラベリオンの目の前に肉薄した俺に反応が遅れている。
――喰らえ
静かに呟き、短剣を軽く握る。そして次の瞬間、爆発的な加速をした短剣がクラベリオンの身体を次々と通り過ぎていった。