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第2話

目の前に居る蜘蛛の形をしたモンスター、<スパイダーウィック>を斬り伏せる。

50cmという蜘蛛にしては巨体なモンスターを一撃で斬り伏せてもう1匹の攻撃を剣で防ぐ。

モンスターの強さにはランクという物があり10段階で評価される。1が一番弱く、10が一番強い。ちなみにスパイダーウィックは正真正銘1、つまり弱いという事だ。


「はっ」


一息で呼吸を整えてもう1匹のモンスターに剣を突き刺す。

スパイダーウィックは壊れた機械のような悲鳴を発して砂となり消える。

HPはあまり消費していないが一応HP剤を飲み回復しておく。


「これくらいならいけるな」


辺りを見回していると一際暗そうな森を見つけて興味が沸いてくる。


「……この森、入ってみようかな」


俺は暗い森の中に入り、モンスターと接触してもいいように腰の片手剣を抜いて慎重に歩き出す。

この森に入る前にあった看板を読まずに……この先、ボスモンスター出没という看板を見ないままに





ギルドまたはパーティとも呼ばれている3大勢力の【サイズ】、【ルーンナイト】、【オカマンズ】は一週間に1回、合同狩猟を行う。

私、咲道桜花さきどうおうかもギルド、ルーンナイトのメンバー、というよりリーダーだ。

成り行きでこんなになってしまった男子禁制のギルド、頭の中で本当は男子にも入ってもらいたいと思っている。


「桜花、そろそろ行かないか?」

「あ、うん」


今、話し掛けてきたギルド、サイズのリーダーである咲道漣さきどうれんは私の兄だ。

兄に勧められるまま初めてやったゲームがこのグレイシャスオンラインだった。

初めてのゲームという事でやってみたらログアウト不能という現状、

本当にいい迷惑だった。


「まぁ、少しは気に入ってるからいいけど」

「ん? 何か言ったか?」

「ううん、別に」


漣は不思議そうにこっちを見ていたがやがてもう一人のリーダーに話し始める。


「ノリカ、準備はいいか?」

「うふん、いいわよぉ。私・の・漣・ち・ゃ・ん」

「…………」


ノリカという名前は偽装だ。誰にも本名を教えない。そしてオカマンズのリーダーだ。

そして、オカマだ。気持ち悪いがまぁ悪い人では無い。


「よし、今日は躍動の森のボス、ケルーシュを倒そうと思う! レベルは5とやや強めだがこのボスを倒せば次のボスへの道が開かれる! 武器を取れ! そしていつもどおり言うが戦いたくない奴は此処に残れ! 足手まといはいらない。行きたい奴は俺に付いてこい!」

「「「「おおお~~~~~~~~」」」」


漣の掛け声で皆があわせて咆哮のような声を出す。これはボス戦の前の儀式みたいなものだ。そして今から挑むボス、ケルーシュは薄暗い森に居る人面の木だ。


「続けーー!」


漣の声で皆が皆後を追っていく。幸いケルーシュの棲家はこの近くの森に存在している為、

すぐにつくだろう。

私は気を引き締めて列の最前列である漣とノリカの隣に並び歩く。

一応リーダーの身だ。私の使う両手剣の熟練度は10000を超えようとしている。

間違いなくトッププレイヤーである。漣も大剣の熟練度は10000を超えているし、

ノリカだって大槌ハンマーの熟練度は10000を超えようとしている。

そんな考え事をしているともう森に着いたようだ。本当に近い


「なんだ?」


漣は急に言葉を発する。ノリカや私も怪訝そうに漣の横顔を見ると次第に青ざめていく。


「桜花、何か声がしないか?」

「え、声? そんなの何処からも……」

「走るぞ! サイズのメンバーは此処で待て!」


私の言葉は最後まで続かなかった。漣は私の言葉を最後まで聞かずに一人で森の奥に入っていってしまった。


「んもう、せっかちなんだから。私の・漣・ち・ゃ・ん。おい! お前ら、アタシ一人で行くから此処にいろ? いいな」


途中で口調が男っぽくなったノリカも漣の後に続く。


「もう! ルーンナイトのメンバーは此処で待機!」


2人の後を追い私も走り出した。

森の周りには同じ景色が広がっていて酔いそうになる感覚を堪えながら必死にノリカの後を追ってやっと追いついた先には驚くべき光景が広がっていた。


そこに居たのは人面の木のようなモンスター、ケルーシュ。これは倒すべき敵である事は分かっている。

そして――そのケルーシュに一人で挑んでいる男は一体何者なのだろうか?

その前に一人で敵う相手ではない! 私はすぐさま走り出し応戦しようとするが、

兄に手で制される。私は驚愕の表情で兄を見るが兄はその先、つまり男とケルーシュの方を見たままジッとしている。

見ていろ、という事なのだろう。そんな事出来るわけが無いと思ったが兄に手で止められている為、動けない。そして、


遂にケルーシュが動き出した。





俺は人面の木の攻撃を剣で受け止める。だが予想以上に重い。

いとも簡単に破られてしまう。


「ぐっ」


俺は反動を受けながら地面に転がり、立ち上がる。

ケルーシュは次の攻撃態勢に入ろうとしている。


――これは勝てそうにもないな。


俺は自分の事なのに冷静になる、そして結論を導き出す。


本気を出そう――と、


足の位置を変えて独特の立ち位置を形成する。言うなれば剣を持った右手は力が抜けたようにブラーンとしている。

そして俺は静かにケルーシュの攻撃である木を見据える。


攻撃してくる木は5本、導かれる避け方、


「遅いよ」


俺は全ての木の攻撃を見切り、避け、そして胴体に片手剣を突き刺す。

声にならない悲鳴が森に響く。

胴体での突進攻撃が迫り来るのを俺は後ろに飛んで避ける。

右手の剣を回しながらケルーシュに言う。


「さぁ、反撃開始だ」


俺は舞を踊るように動き、攻撃を全てかわして、懐に剣を突き刺す。

その後の攻撃も飛んで避け、そして頭の天辺に斬り込む。

ケルーシュのHPはわずかしか減らない。

元々俺は訓練所にいたから熟練度はあまり大したことがない。だから攻撃は弱い。


当たったら死に近づくこの世界、だが逆に、“当たらなければいいだろう”

避けて斬り、避けて斬り、避けて斬り、避けて斬り、を繰り返し、着実にHPを減らして行く。

これが俺の本当の戦闘方法、訓練所で覚えた足捌き、身体の体重移動、避けながら斬る訓練、どれもつらかったが、やり遂げた俺に、お前は勝てるのか?


「勝てるかな?」


嘲笑い人面の木を見る。その姿は怯えているようにも見えたし怒り狂っているようにも見えた――

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