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第1話

2030年、遂に俺が待ち焦がれていたゲームが発売された。そのゲームは2Dなんて古めかしい物じゃない。

これは擬似的に世界を作り出しその中に完全にフルダイブ出来るシステムが搭載されたゲーム、俺はこのゲームを買うために昨日の早朝から店頭に並び、日曜日の今日やっと購入できたのだ……

お金はお年玉を3年分繰り上げて貰ったが全然苦にならない程嬉しい。


完全フルダイブシステム搭載の実力制VRMMORPG、

その名も《グレイシャスオンライン》――!


俺は家に帰ると速攻で準備を始める、早くやりたくて堪らない。

箱を開けると大きくて黒い物体……その物体にコンセントを差込み物体から出ている無数のコードみたいな物を指定された身体の位置に貼り付ける。

そして最後に付属のヘッドホン……というよりマスクを取り付けて準備完了だ。

そのままベットに横になって手探りで黒い物体の赤く光るボタンを押すとヴゥンと音がして目の前に英語の文字が浮かび上がる。

ロードが完了して目の前が白い空間になり何処からか声が聞こえてくる。


「名前を音声で発音してください」


藤堂玲とうどうれい


名前を発音するとまたもロードをしている。やがてロードが終わったようで、


「藤堂玲様、グレイシャスオンラインを開始します」


女の人の機械音が聞こえてくる。かすかに感覚が遠のく感じがして気持ち悪い。思わずめを閉じてしまう。目の前が明るく賑やかになるのを感じ目を開くと現れたのは広場みたいな場所だった。

真ん中に噴水があってその周りには大勢のプレイヤーが固まっていてとても賑やかだった。俺は自分の手を見て軽く動かしてみる。

自分の感覚で動くのが分かる。ボタンやリモコンでは分からないような感覚が俺の気分を高揚させていた。


このゲームで最初にする事は職業選択だ。これは誰にだって言えることである、俺はウインドウを開いて職業を選ぶ。

このゲームの職業と言えば大きく分けて2つしか存在しない。

戦士、魔法使い……なろうと思えば鍛冶職などにもなれるが俺は迷わず戦士を選択した。


このゲームではレベルやステータスは存在しないが、そのかわりに熟練度というものが存在している。

言うなればこの熟練度こそがこのゲームの強さのカギとなっている。

例として、両手剣を強くしたい場合は両手剣を使っていれば自然と両手剣の熟練度が上がり攻撃などが強くなっているのだ。

なお熟練度を上げればスキルというものも使えるようになる。


俺は戦士の片手剣を強くしようと思っている。だが最初からモンスターと戦うのには気が引けるので初心者の訓練所へ行く事にしようと考えていた。


噴水広場の上には電子記号で現在の入場者数が書いてある。見てみると現在の入場者は2万人を超えたり超えなかったりを繰り返し頻繁に数字が変わっている。

その奥に見える少々ぼろい看板に訓練所と赤い字で書かれていた場所を見つける。


そこに入ってみると外の印象とは全然違ったとてつもなく広い場所が広がっていた。

俺は早速、訓練内容から素振りを選択して素振りを開始する。

此処に来ているのは俺の他に数人くらいしか居なかった為なのか、とても静かでただ黙々と俺は素振りをしていた。なお訓練所で訓練をすると熟練度が増える。

だがモンスターを倒して貰う熟練度の量とは比べ物にならないくらい少ない。

だからすぐにモンスターを倒しに行く人がほとんどだろう。


素振りを開始して2時間が経とうとしていた。もうそろそろ切り上げないといけないだろう。俺はふと自分の片手剣の熟練度を見てみると0だった熟練度が2増えていた。

素振り1時間で熟練度が1上がるらしい。弱いモンスターを10体倒した時と同じである為一概にどちらが悪いとも言えないがモンスターは強くなってくると貰える熟練度も増えてくるので最終的にはモンスターを倒した方がいいのだろう。


ログアウトするために俺は手早くシステムを呼び出して一番下にあるログアウトボタンを押そうとして指が止まる。


「おかしいな?」


俺は確認の為もう1度同じ事を繰り返してみるがやっぱり変わらなかった。


「なんでログアウトボタンが無いんだ?」


俺はシステムの一番下にあるログアウトボタンの欄が空白になっている事を確認して原因を考えてみる。


「サーバーの問題か? それとも俺だけがログアウト出来ないとか?」


結果を確かめる為に訓練所を出て広場に移動するともう既に大勢の人達で埋め尽くされていた。プレイヤーの皆は掲示板を見て驚愕している。俺はふとみんなの視線に合わせ入場者数の掲示板を目にして驚愕する。

そのおびただしい程の速度で数字が変わる掲示板は20012でストップしていたのだ。


「全員ログアウトする事ができない……」


俺は少し焦りつつも周りを見渡す。見ると中には焦っている人も居るがほとんどの人がその内ログアウト出来るだろうと思っているのか余裕の表情をしている者が多かった。

それだけではない。ログアウト出来ないのをいい事に4人のプレイヤーがモンスターを倒しに行ったのだ。


ログアウトが出来ない間、暇な俺は地面に座り、現在入場者の掲示板を眺めていた。すると――


「えっ?」


いきなり20012だった数字が20010に変わっていたのだ。

俺はすぐにログアウトボタンを確認する、他にも気付いた人が居たようで確認している人がちらほら見える。


「無い……?」


俺が指していた所はやはり空白の欄だった。頭が混乱し始める。

俺はなんとか今の出来事を整理しようとしていると先程狩りへ出掛けた4人のプレイヤーの内2人が帰ってきたのだ。

2人はなにやら顔が青ざめていた、そして片方の男が大きな声で喋り始める。


「皆! 聞いてくれ、さっき俺達と居た2人は戻ってきていないか?」


俺は首を傾げる、何故そんな事を聞くのだろう。此処に来るとすればHPが0になり戦闘不能になった時くらいしか……


「実はその2人は戦闘不能になって変な消え方をしたんだ! モンスターのように砂になってサラサラって……」


そこで男の口が止まる。周りにも気が付いた人が居る様で静かになる。


「じゃあ、あいつ等は何処へ消えたんだ?」


男はもう顔面蒼白でへたり込んでしまう。俺も疑問に思った、戦闘不能になったのなら何故此処に戻ってこない?


結局、その2人の行方は全く分からないままだった。

そしてこのゲームからログアウトが出来なくなってから10日が経とうとしていた。

本当の事を言うとログアウトが出来なくなったあの日、プレイヤー全員に変なメールが届いてきたのだ。


内容としてはこうだ、先刻2人のプレイヤーが命を落とした。悲しいことだ、もうこのような事にはならないで欲しいと願う。

そして現在全プレイヤーにクエストを送っておいた。内容はボスを全て倒すというクエストだ。その報酬は此方の世界への帰省権という事になっている。

頑張ってくれたまえ、諸君


なんともふざけていて簡単なメールに思えたが2人のプレイヤーが命を落とした、という文面は少々疑問を覚えた。

なんで命なんて書いたんだ? という疑問が……

それとクエストの内容だ。ボスを全て倒すというクエスト……

そして報酬が此方の世界への帰省権、まるで現実に帰る方法はこれしかないと言っている様な物だ。

最初は皆、混乱していたが10日経ってやっと落ち着いてきたというべきだろう。

だが本当の事、俺は叫びたくて堪らなかった。


そのようなメールが送られてきた時、プレイヤーが取った行動はそれぞれに分かれた。

大半の人達はそのクエストを達成する為に訓練所、またはモンスターを狩りに行った。

もう半分の人達は広場で助けを待つ人達、俺は訓練所で素振りをしていたが……


今日も俺は訓練所に向かっていた。最初の5日間とかはプレイヤーで埋め尽くされていた訓練所もだんだんと人数が減って来たように見える。

ほとんどの人が訓練所を出てモンスターを狩りに行ったのだ。

そして毎日減っていく入場者の人数、10日経った俺にはある仮説めいたものが出来始めていた。なんで出来たのかは全く分からない、いつの間にか決定していた。


この世界で死んでしまってはならない――というおかしな仮説が……


戦闘不能になれば何処に行くかが分からない、今頃戦闘不能になったプレイヤーは平然な顔をして現実の世界を歩いているかもしれない。

だが俺の頭の中では戦闘不能になると死んでしまう、というイメージしかなかったのだ。

そして俺は今日も訓練所で訓練をしている。

今日している訓練はスキルの使い方だ、スキルというのは自分の身体の反射神経の速さで発動速度や攻撃速度が変わるらしい、その反射神経の速さを元にして高速の攻撃が出来るようになる、それがスキルだ。

俺は今、片手剣の基本スキルである【ロード】の使い方を訓練している。

ロードは基本中の基本でただ1回だけ相手を斬るというスキルだが速度が異常な程早い。

この速度こそが俺の反射神経の速度という事だ。ただ気を付けないといけないのはスキルを発動した後に隙が出来るという事だ。

スキルというのは当たれば大ダメージだが当たらなければ此方が大ダメージといういわば賭けのような技なのだ。

俺は目の前にある人形に向かってロードを放つ、刹那自分の右腕が残像を残すように動いて目の前の人形を両断する。


「速い……」


これが俺の正直な感想だった。

この後、俺は夜になるまでスキルの練習をしていた。

現在の入場者数は19702人、10日間で約300人減った計算だ。

出来ればその減っている中にいつか自分が入る事がないように祈りたい。


◆◇◆◇◆◇


そして、ログアウトが出来なくなってから1年という長い月日が経った。


俺はというと今日がはじめてのモンスター戦だ。

1年の間寝る間も惜しんで訓練をしていた俺の熟練度はとてつもない数字になっていた。

片手剣熟練度5200、他は零だが一つの熟練度を上げた方がいいに決まっている。

実質ほとんどの人が熟練度を一つに絞ってやっているのだから……

現在のボス攻略率は30%、とてつもなく低い数字だった。

現在で俺みたいに一人、つまりソロでモンスターを倒している人は果たしてどれくらい居るだろうか?

ほとんどの人はチームという大人数で集まるグループを作っている。


現在有力なチームと言えば一番チームの数が多い【サイズ】というチームだ。

その次に女子だけで集まったと言われているチーム【ルーンナイト】、

その次におかまばっかりが集まったと言われているチーム【オカマンズ】、

上位三位はこれくらいだろう。

他にもたくさんのチームが存在している。


「行くか」


俺は訓練所で貰った特別な片手剣を2本、腰と背中に刺して始めてモンスターの居る狩場へと向かう。

今ある感情は恐怖や心配などではない、あるのは1年間もの間訓練所で訓練したという自信のみ――

俺はゆっくりと死ぬ確立が一番高い場所へと入っていった。

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