120年後のの地球
『120年後の地球』
西暦20ⅩⅩ年、とある系外惑星が軌道から外れ、地球に向かって進んで行った。その系外惑星は地球よりは質量が軽いものの、大量の放射線を帯びていた。このまま地球に接近すれば、激突はしないものの、大量の放射線が地球に降り注ぐ事となる。そうなれば地球はたちまち死の星となる。人類は滅亡する。各国政府は限られた人員を急ごしらえだが大量の小型の宇宙船を作り。それに彼らを乗せ、地球から脱出させる事を決めた。系外惑星から放出される放射線の半減期は、計算では120年あれば地球に戻って来られるであろうというものだった。そこでまず宇宙船は光速に達し、一年過ごして地球から離れ、そこで更に一年宇宙で過ごし、また一年掛けて光速で帰り、地球時間で120年が経つ頃に帰るという計画だった。
日本、某所。宇宙船に乗り込もうとするとある家族がいた。祖父、堤秀隆、75歳。祖母、幸恵、73歳。父、河西康則55歳。母、幸美。55歳。兄、弘行30歳。そして弟の清隆、20歳。幸美は人数分のチケットを持っていると言って家族を車で乗船場へと連れて行ったが、途中で渋滞に巻き込まれ、歩いていく事になった。幸恵は足腰が悪く、杖を突いて歩いていた。ゆっくりと歩いていくと、やがて乗船場に着いた。幸美はチケットを渡し、清隆を先に乗せるようにとスタッフに頼んだ。しかし清隆は足腰が悪い幸恵からと言った。しかし幸恵は、まず清隆が乗らないと登れない、と言って先に清隆を乗らせた。清隆は荷物を一通り乗せ、いざ幸恵を乗せようと振り返ると、幸美が清隆を強く突き飛ばした。同時に、扉は閉まった。
「おい!これはどういう事だよ!?母さん!?」
「荷物に手紙が入ってるから、それを見て!」
「えっ!?」
「さよなら!」
泣き叫ぶ清隆を他所に、宇宙船は出発し、残された家族は引き返していった。清隆は急いで荷物を解き、手紙を読んだ。その内容は、
「全員が乗れると言ったのが嘘だったのは謝る。だがお前以外の家族皆で決めた事だ。優しいお前の事だ、きっと全員乗れないと知ったらお前も乗らないと言うだろう。だからこう言った形でお前を生かした。許してくれ。お前が家族の中で一番若い。地球の未来を、頼んだぞ」
という趣旨だった。清隆は赤ん坊のように泣き崩れ、見えなくなるまで窓から地球を眺めていた。
宇宙船時間3年後、清隆達は地球に帰ってきた。元、乗船場があった場所に向かおうとすると、そこでは不思議な光景が広がっていた。道路を車が走っており歩道でも人が歩いたり自転車で走ったりしているのだ。船長は、おそらく先に地球に帰ってきた人達が新たに文明を築いているのだろうと話した。清隆もまたそうだろうと思い、乗船場に降り、まずはかつて自分が住んでいた家に向かう事にした。タクシーを使い、何と言ったら良いのか分からず、とりあえずかつての住所を言った。すると運転手はすぐに清隆の住んでいた家に向かった。そして驚く事を目撃した。街が一切変わっていない。3年前、いや、120年前と全く変わっていないのだった。各国でそれだけ元の街に復元したのだろうかと疑問に思ったが、とりあえず今は何も考えず、あの家を目指す事にした。そして家に着く寸前、真実を知るのが怖くなって途中でタクシーを停めてもらった。お金を払おうとすると、あの頃のお金でも良いかと運転手に尋ねると、問題無いとの事だった。運賃を払い、あの家に向かってみる事にした。もう家族はいないのに、何でこんな事をしているんだろうと自問自答していたが、他に行く当てが無い清隆は、とりあえず、とりあえず、と黙々と歩いていった。正直、怖かった。誰もいない。それどころか、無いかもしれない家の場所まで行くのが。しかし、そこで清隆は驚く物を目にした。あの家があったのだ。しかも、表札もあの頃のままで。そんな馬鹿な、と思いながら震える手でインターホンを鳴らすと、幸美が出迎えた。
「清隆!」
「母さん!」
二人は抱締め合った。そして清隆はまたも赤ん坊のように泣きだした。それを幸美は受け止め、ひたすら頭を撫でた。更に奥から秀隆、幸恵、康則、弘行も出てきた。
「じいちゃん!ばあちゃん!父さん!兄貴!」
「清隆!」
5人は皆で清隆を囲み、抱締め合った。
「でも、どうして!?」
康則はとりあえず家に上がるように言った。清隆はリビングのテーブルの席に着き、幸美が持ってきたお茶を飲んだ。そして康則も席に着き、説明を始めた。
「あの系外惑星の放射線はただの放射線じゃなかったんだ。人体に影響を及ぼす事に間違いはなかったんだが、悪影響では無かったんだ」
「どういう事?」
「人体を進化させる放射線だったんだ。人類の寿命が、著しく延びたんだ」
「そんな事が……」
「だから私達は、あれから120年経った年齢になっている。見た目も殆ど変わらず……」
「何か、不気味な話だね……」
「でもだからこうしてもう一度お前と会えたわけだ」
「そうだね……でもデメリットとか無いの?」
「え?」
「ただ寿命が延びただけなんて都合が良過ぎるよ。何かあるでしょ?」
「そうだな……子孫が残せなくなった事だろうか」
「え?」
「寿命が延びた半面、生殖能力が無くなってしまったんだ。だから、あの日以来、人口は増えていない」
「そうなんだ」
「あとはそうだな……強いて言うなら……」
「言うなら……?」
「お前と一緒の時間を歩めないという事だ」
「え?それってどういう……?」
「考えても見ろ。120年も経っているのに私達は全く姿が変わっていない。だがお前は確実に歳を取っている。それは、お前達、宇宙船に乗った人達とは同じ時間を歩めない。つまり、お前達が先に死ぬんだ」
清隆は黙り込んだ。もしかしたらこれは盛大なドッキリなのではないかと。
「信じられないな。もしかして、俺を騙してる?」
「え?」
「俺が宇宙で過ごしたのは3年間。3年程度じゃ、見た目も変わらないのも無理は無い。本当は120年も経ってないんじゃないか?」
「…………」
家族は口を噤んだ。しかし暫くして、康則が席を立ち、自室へと向かった。
「まぁ、いずれ分かる。とりあえず今日はゆっくりと休むと良い」
そう言って康則は自室に入って行った。
それからは前のようにいつもの生活に戻った。以前と変わらず、世界も動いていた。
そして10年の月日が流れた。清隆は33歳になり、そこそこ貫禄がついた。しかし家族の老いは感じられなかった。そして更に10年の月日が流れた。明らかにおかしい。祖父母はともかく、両親と兄の年齢が全く進んでいない。外見では、もう兄の弘行よりも年齢が上になっている。
そして時は進み、50年の月日が流れた。もう自分は93歳だというのに、祖父母は生きている。両親も生きている。兄も生きている。外見年齢も、家族皆より上になっている。やはり、父の言っていた事は本当だったんだ、と思いながら、清隆は死んでいった。そして家族は、清隆の最期を見届け、
「もう一人にはさせないからね」
幸美はそう言うと、家族に目をやった。家族は静かに頷いた。
数十年後、地球から、人類は居なくなった。宇宙船に乗った人達が死んでいくと同時に、その家族や友人、恋人達が謎の自殺が相次いだのだ。
人類は滅んだ。




