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社会人【サイズ違い】

「おい、ツトム。ビーツーに池上のA1の図面送って置いてくれ」

設計チーフの津山さんに云われたとき、俺は青焼きの図面をコピー中だった。古いコピー機は中々に音が大きくて、言葉が聞き取りづらい。

「池上の図面にB2の奴なんかありましたっけ? それをA1に拡大すればいいんですか?」

池上フローレンスというありがちな名の単身者向けのワンルームマンションは、津山さんの担当だ。

「何云ってんだ、あそこはビーツーに発注してただろう?」

津山さんのハンサムな顔が、怪訝そうに俺を見る。

そうだっけ? 今時B2で図面作るなんて珍しいな。大体が、パソコンで図面を書くのが主流の昨今。理数系に強い工業系の職場では、図面はほとんどデータでのやり取りで、出力はA3が普通なんだ。

青焼きと呼ばれる昔ながらの青い図面は、現場で使う為に、A1なんだが。

俺が首を捻っていると、横にいた加奈さんが、ぷーっと吹き出した。

「あのさ、違うってツトム。津山ちゃんは、外注の株式会社ビーツーに、A1の青焼き送ってって云ってんのよ」

「へ?」

俺は勘違いに真っ赤になる。

「がんばれ、新人!」

加奈さんはげらげら笑いながら、取りに来たアンカーを手に、自分の箱車を転がして出て行った。

何たる恥。外注さんに、間違いを指摘されるなんて。しかも、完全な勘違い。これじゃ、丸きり馬鹿だ。

見ると、津山さんも肩を震わせて笑っている。

「ま、良くやる間違いだ」

嘘付け! 笑いながら云われても説得力無いぞ!

「そう、頬膨らますな。久しぶりにメシ食いに行くか?」

ちくしょう! 誤魔化しやがったな。と思いつつ、設計チーフで残業代をたっぷり貰っているらしい津山さんのおごりで食う飯は、高卒組の俺らが行くような、安い定食屋じゃない。ファミレスでもちょっとお高めな店だ。

「肉ならいいっす」

俺がむっとしたまま答えるのを、津山さんはニコニコ笑って、頭を撫でる。子供じゃない、と反発するのは簡単だが、子ども扱いしかされないような仕事しか出来ないのが悔しい。

俺は、睨むように津山さんを見ながら、頭を撫でる手には逆らえなかった。



「ツトム。行くぞ」

適当なところで残業を切り上げた津山さんが、倉庫のシャッターを下ろす。

その後ろを付いて行こうと、走り出した俺の襟を後ろから掴まれて、思わず首が絞まる。

げぼげほ云いながら、振り返ると、後ろには耕一さんが立っていた。

「やっと終わりか?」

「うん。今から会社の人とメシ」

やっぱり、耕一さんカッコいいや。年相応の若々しさとは無縁だけど、渋いいかにもなオトナのオトコって感じ。

「メシ? 二人きりで、か?」

耕一さんの冷たい声は、久しぶりの逢瀬に浮かれていた俺を正気に戻した。

俺、また何かやっちゃったかなぁ???

「どうも。ツトムがお世話になっております」

「ツトム、こちらは?」

お互いに相手を探りあうような視線を交わす、二人の大人たちの間で、俺はちょっとびくびくしていた。何となく、火花が散ってるような気がすんのは、俺の気の所為か?

「佐藤さん、俺が高校の頃からお世話になってる人です。あの、それで津山さん、悪いっすけど」

忙しい耕一さんは滅多に会えない。せっかく来てくれたんだ。津山さんには悪いが、耕一さんとデートしたいよ。

「悪いが、ツトムは俺が先約だ」

口ごもる俺の肩を抱きこんだ耕一さんが、津山さんを睨みつける。

あの、嬉しいけど、耕一さん。コレじゃ俺たちの関係、もろバレじゃん。

「行くぞ。功」

津山さんが口を挟む暇も無く、耕一さんは俺を抱き寄せて歩き出す。

「功。アイツ、ゲイだぞ。そんな相手と絶対にメシなんか食いに行くなよ」

「え?」

うっそ? あのオンナにモテモテのハンサムな津山さんが???

「同類だからな。いいか、絶対に許さんぞ」

「は~~~い」

せっかくの美味しい夕飯にありつけないのはもったいないが、それよりも耕一さんを宥める苦労を思うと、諦めも付く。

「こんな時間でもいいんなら、俺がメシ食わせてやる」

「え? ホント?」

飯も魅力的だけど、平日に耕一さんとデート出来るの???

「今までは俺が遅いと思ってたが、お前もこんな時間になるんなら、別に構わないだろう」

「うん!」

俺は勢い良くうなづいた。

社会人ってちょっと美味しいかも。


<おわり>

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