ヤンデレ攻め【逃がさない】
「やっと捕まえた」
怯えた表情のお前の視線は、呆然と空を見つめたままだ。
俺の名前すら呼ぼうとしないのに焦れて、さっさとベッドルームへと連れ込んだ。
何が何処にあるか、何処の誰とどういう付き合いがあるのかなんて、すでに調べはついている。
単純なお前の考えなど既にお見通しだ。
お前が俺の前から姿を消したとき、俺は考えた。
行方など簡単に突き止められる。幸い、親の遺産で食っている俺には、金も時間も充分にあった。
だが、どうすれば逃がさすに済む?
お綺麗でお堅いお前が俺との関係に悩んでいることなど、とうに知っている。
このまま捕まえても、またお前は逃げ出すだけだ。
「い、やだ」
「そんな戯言は聞かない」
抵抗してくる身体を封じ込め、体重を掛けた。
嫌だと云うお前。そんな嘘を俺が見抜いていないと思ってるのか?
怖いのは、俺か。それとも俺から離れられなくなることか。
はじめて出会ったときから、俺はお前だけ見てきた。
追いかけて、捕まえて、俺のモノにしたとき、泣きながらしがみついてきたお前。
それを諦められるとでも?
姿を消したお前を、俺はすぐには追わなかった。
まずは檻を作り上げてからだ。
お前の親友面したあのすかした野郎に、悩んでいるフリでお前との関係を告げる。
最初はびっくりしていた奴だが、俺が切々と訴えると、お前と話し合えと云って、実家の住所を漏らした。
次は実家に手を回す。
そこでは、親友の身を案じる誠実な男を演じた。
女たちは馬鹿だ。
俺の容姿に簡単に騙されてくれる。
誰にも云うなと云った、お前の願いを簡単に裏切って、俺へお前の居所を教えてくれた。
この部屋を突き止め、借りるフリをして、不動産屋へと出向く。
ちょっと突っ込めば部屋の造りも簡単に判った。
三階の奥。窓も少なく、ベランダは無い。入り口は一箇所。
近くのスーパーでバイトをしていて、大学は休学中。
親しい友人は無く、家とスーパーを往復するだけの毎日。
口の軽い近所の連中や、スーパーの同僚は、ちょっと水を向けるだけで、ぺらぺらとしゃべりだす。
俺は愛想を振りまきながら、情報を集め、外堀を埋めていく。
二度と逃がさない為の。
そして、周囲に張り巡らせた俺の檻の中へと、お前を閉じ込める。
お前が頼る先は、全て俺の手の内。
遠い花火の音が響く。
最後にお前と出掛けた思い出の夜の花。
「いや、だ。お願い」
すがりつくように俺を見る。嘘吐きめ。本当のお前の気持ちを聞かせてもらう。
今日は、絶対に。
「駄目だ。逃がさない、もう二度と逃がすつもりはない」
お前は俺の一部だ。
切り離されては、お前も俺も生きてはいけない。
抱き締める躯は、やっとひとつになった安堵で震えている。
「俺のものだ」
可愛い小鳥、帰っておいで。俺の胸に。
二度と飛ばないように羽をもぎ取ってあげるから。
<おわり>