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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第一章 足軽組頭編

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第九話 壁を直すのは、石ではない

「……三日だ」


秀吉が、震える声で言った。


「殿が、三日で直せと。

 できねば、わしもろとも――お前の首も飛ぶぞ、芋!」


俺は、崩れた清須城の塀の前に立ち、鼻で笑った。


「嘘つけ」


秀吉の顔を見る。


「目が笑っとるわ。

 信長が、出来もせんことを無理強いして、

 使える家来を殺すかよ」


秀吉が舌打ちする。


「……ちっ、勘づいとるか」


肩をすくめて、あっさり白状した。


「ほんまは二十日じゃ。

 だが、それじゃあ面白ぉないやろ?」


にやり、と笑う。


「芋、少しでも早く完成させる策を、一緒に考えろ!」


「そうだな」


俺は頷いた。


「わかった。三日で直すぞ」


「おうおう……三日で……」


秀吉が一歩引く。


「おい芋、おみゃあ、頭おかしいだろ!」


「落ち着け、秀吉。お前が三日と命じたんだろう」


俺は、崩れた塀を指さした。


「壁を直すのに必要なのは、

 職人の数じゃない」


「……なんじゃと?」


俺は、懐から一枚の紙を取り出した。


昨夜、秀吉から塀修繕の話を聞いてから、

土の上で考え続けていたものだ。


墨で書かれた、奇妙な線と区切り。


現代で言うところの――

工程管理表。


引きこもりの俺でも、社会に出ようと努力はしていた。

結局知識だけがついて、活かす場には出れなかったが。


「……なんじゃ、この妙な図は?」


「『時』を切り分けた神術の図だ」


「時を切り分けるじゃと?」


秀吉が顔をしかめる。


「頭に蛆でも湧いたか?」


「大真面目じゃ。

 だから神術と言うたろう」


俺は、現場に集まった足軽たちを見回した。


皆、ぼろぼろだ。

疲れ切っている。

やる気など、欠片もない。


「いいか、お前ら!」


声を張る。


「今からこの工事を、十の班に分ける!」


ざわ、と空気が動く。


「一番早く、

 一番多くの場所を、

 一番綺麗に直した班には――」


俺は、秀吉から預かった袋を、わざとらしく鳴らした。


ジャラリ。


「一人、一貫文の特別褒美を出す!」


「「……いっ、一貫文!?」」


空気が、一変した。


目の色が変わる。


戦国時代、一貫文。

家族が、しばらく食うに困らない額だ。


「ただし!」


俺は、すぐに続ける。


「雑な仕事をした班は、最下位だ」


足軽たちが息を呑む。


「最下位の班は――

 明日から、秀吉の尻拭い担当に任命する」


「それは嫌だぁ!」


「猿のケツを拭くくらいなら、不眠不休で働くぞ!」


「おい!」と秀吉が叫ぶが、無視だ。


俺は地面の枝を拾い、勢いよく足軽どもを指す。

まるで一端の大将だ。


「さらに言うぞ」


枝を立てる。


「早く終わった班は、次の作業を奪っていい。

 やればやるほど、一貫文に近づく」


足軽たちがざわつく。


「だがな」


声を低くする。


「勝手に順序を飛ばしたら、

 それは功ではないぞ。軍法違反だ」


軍法違反……魔法の言葉だ。足軽どもが畏まる。


「物事には順序がある」


「そして――大将の藤吉郎の命をよく聞くことも、

 覚えめでたくなる道じゃ」


秀吉が、目を見開いて俺を見た。


「功争いだ!」


俺は、短く告げる。


「もう始まっておるぞ!」


その瞬間――

足軽たちが、獣のように動き出した。


石を運ぶ。

泥を練る。

柱を立てる。


「やらされていた仕事」が、

「勝てば金、負ければ罰の遊び」に変わった。


しかも――これは戦そのものだ。


俺は、秀吉に近づき、声を落とす。


「秀吉」


「なんや」


「次の仕事場はこの神図を見ればわかる。

 お前にはこの図の見方を教えておく」


「おっおう。」


「だが、その前に……お前は、炊き出しを豪華にしろ」


「……は?」


「腹が減っては、競争は続かん」


俺は淡々と言う。


「肉だ。

 猪でも鹿でもいい。

 美味いもんを食わせろ」


俺はにやりと笑った。


「そして、大将らしく、命じるんじゃ」


秀吉が唸る。


「芋、お前……

 なんちゅう事を考えるんだ。

 金がかかるぞ?」


肩をすくめる。


「天下を取るんだろ?

 金の使い所くらい、覚えろ」


秀吉は、しばらく黙っていた。


そして――笑った。


「……ほんま、腹立つ男や」


三日後。


清洲城の塀は、

信長が足を止めるほどの出来で、修復されていた。


歪みはなく、

石の並びも美しい。


信長は、完成した塀を見上げ、

ただ一言だけ放った。


「……猿」


秀吉の肩が、ぴくりと揺れる。


「これは、おみゃーだけの知恵ではないな?」


秀吉は、冷や汗をかきながら、深く平伏した。


「はっ。

 熱田様の神意により、

 良き家臣を授かりまして……」


「……そうか」


信長は、それ以上、何も言わなかった。


ただ。


列の最後尾で、

欠伸を噛み殺している俺を――


射抜くような鋭い視線で、

一瞬だけ、見た。

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― 新着の感想 ―
誰が聞いてるか分からない場所で信長呼びは 迂闊では済まないのでは??
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