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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第五章 伊勢惣奉行編

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第六十三話 対立

秀政が桑名に入ると、

滝川の家臣が出迎えた。


それを受けて南條が報告する。


「殿、滝川様より仮住まいを

 拝領しております。

 城下の北、神館町にございます。」


案内された屋敷は、

二百坪ほどの敷地に庭付きの母屋。

古いが兵を二十人ほどおける、

十分なほど立派な武家屋敷だった。


今や秀政は中級侍大将格、職位としては、いわゆる部将である。

伊勢惣奉行という役目を思えば、当然とも言えた。


「……驚いた。

 ここまでの屋敷を滝川殿はご用意下さったか」


秀政の驚きに、松親が平然と答えた。


「多少古いですが、今の伊勢の現状では、

 これは格別のご配慮でしょうな」


家財は最低限。

畳は擦り切れ、箪笥は古い。

村瀬が鼻を鳴らす。


「贅沢は言えんか。

 まともに寝られりゃ、

 それでいいだろう」


「……静かで良い。策を練るには十分だ」


秀政は満足そうに呟いた。


その後、南條は遠慮がちに口を開く。


「私と荒木は、

 任地に郡代武家屋敷が、

 用意されているようです」


一拍おいて、続ける。


「松親様、村瀬殿、

 そして連れてきた家来どもの住まいも、

 用意されておるようです。

 ただし、質素な長屋でございますが……」


秀政は頷く。


「贅沢は言うな。

 今は伊勢を立て直す方が先だ」


「義兄上、私は長屋は勘弁です。

 千種屋の桑名支店に商家屋敷を用意させています。

 そこに住みます」


村瀬が松親に吼えた。


「おい、お前だけ贅沢するな!」


「あ?なんなら村瀬殿にも屋敷をご用意しますよ?

 家賃は月に三貫で良いです」


「……俺は別に長屋で良い」


「ははは、そう膨れるな、村瀬。

 松親が長屋を避けたのは別の意味もある」


「あや、ばれましたか」


「この武家屋敷や長屋周りは、

 滝川殿の手が入り込んでいる。

 知略を用いる松親には、

 商家屋敷に居てもらった方が良い。

 今後、密談や商人との連携が必要だからな」


状況を理解できない、村瀬が問い返した。


「ん……?

 滝川殿は織田方ではないか?」


「長島戦は、誰が敵になるかはわからん」


「そういうものか?」


(……俺がやろうとしていることは、

 伊勢を変えることだ。

 滝川殿と必ずぶつかるだろう)


「義兄上、姉上から頼まれております。

 身の回りの世話をする信頼おける侍女どもを、

 千種屋から屋敷に向かわせますね」


「……世話をする者はほしいが。

 その信頼という言葉が引っ掛かる。

 お悠はそんなに俺の浮気を気にしておるのか?」


「さぁ?」


(ま、間違いが起きないように、

 気を付けよう。)


「義兄上の身の回りの警護は於菟が、

 住み込みで行うことになっています」


「それは助かる。

 毒殺や闇討ちはされたくはないからな」


「鬼備前の寝所に闇討ちする者などいませんよ」


松親が笑いながら呟く。

そして笑顔で続けた。


「皆さま、必要な物は言ってくだされ。

 千種屋で手配します」


「もちろん金は取らぬな?」


村瀬が念を押した。


「それは分かりません。

 兄の松之助はしっかりしているので、

 割り引いてはくれるでしょうが、

 金は取るやもしれませんな」


「なら、いらん!」



「さてと、屋敷の礼を言いに行くか」


松親が真剣な顔になる。


「滝川殿ですな?

 ……義兄上お一人で?」


「あぁ、その方が腹を割って話せそうだ。

 松親、俺がちゃんと住めるようにしておいてくれ。

 金は払う」


「はい、後でお聞かせください」


「あぁ」


(おっかないなぁ……。

 せっかく滝川殿と仲良くなれそうだったのに)



桑名城本丸・大広間


滝川の家臣がずらりと並ぶ中、

上段に滝川が座り、

その一段下に秀政が座っている。


これは公の会見。

格式を好む滝川にとっては、

秀政を伊勢惣奉行として招き、

軍政一致団結する必要があった。


それが、伊勢方面における、

織田の威信を示すことに繋がる。


「久しいな、備前殿。

 遠路ご苦労であった。


 朝明川の働き、今も忘れておらぬ。

 あの時の貴殿の采配、真に見事であった。


 此度も共に、伊勢の難事にあたろうぞ」


「は、伊勢の地、必ずや立て直してみせます」


「……この伊勢は荒れておる。

 その再建は容易ではない」


「承知しております。

 ですが、やらねばなりますまい」


「うむ。

 その気概、殿もお喜びになろう。

 今後も頼むぞ」


その後、事務的な諸事を認識合わせして、

この会見はお開きとなった。


皆が退出する中、滝川が秀政を呼び止めた。


「備前殿、少し話がある。

 奥の間に来てはもらえぬか?」


「承知しました」


二人は本丸奥の小座敷に移動し、

そこで向かい合って座った。


滝川の表情から、公の仮面がすっと消えた。


「さて、備前殿。


 この伊勢の――

 本当の問題について、語り合いたい」


(来たか……)


「はい」


「長島の一向一揆、

 忌憚なく意見を申されよ」


(単刀直入だな……

 無駄を好まない滝川殿らしい)


「では忌憚なく申させていただく。

 今はまだ、長島に手を出すべきではないと、

 思います」


滝川の表情が険しくなる。


「その理由は?」


滝川の声が、わずかに低くなった。

初手から意見が相違したようだ。


「伊勢が弱っておりまする。

 ですが、長島は全く弱っておりませぬ」


「異な事を言う。

 長島は弱っている。

 それはわしがそう仕向けたからだ。


 敢えて伊勢を弱らせることで

 ひと頃に比べて長島も弱くなった。


 その辺りをご存知ないようだな」


「いえ、滝川殿。

 滝川殿が伊勢を犠牲にしてまで、

 長島を締め付けているのは承知しています」


「そうだ。

 わしとて伊勢の民を苦しめたいわけではない。

 だが、伊勢が栄えれば、その富は必ず長島に流れる。

 そして、それは織田に牙を剥く」


「……それは分かります。

 ですから今は攻め時ではないと、

 申し上げております。

 一旦、伊勢を富ませ、

 そこから長島を切り離すのです」


「今ではないというたな?

 ならいつだ?

 富ませれば富ませるほど、長島も肥える。

 切り離すと簡単に言うがな。


 甘い。

 そんなに簡単に伊勢と一向宗、

 すなわち長島は切り離せぬ」


「はい、何も完全に切り離すことを

 狙っておりませぬ。

 それは無理です」


「一部を切り離して何になる。

 切り離したところで、富んだ分と

 相殺じゃ。

 ならば始めから徹底して弱らせるのが、

 結果として一番犠牲を減らすのだ」


「相殺にはさせませぬ。

 富ませる以上に、削り取れば良いだけの事」


「机上の空論じゃ。

 ならば力攻めの方がまだましだ。

 切り離せるかどうかもわからん。

 それよりも確実なのは恐怖だ。


 人は恐怖を覚えれば、

 最後は我が身を可愛さに、

 仲間を裏切ってでも生き残ろうとする。


 貴殿は甘い。

 今は、奴らの首を絞め、

 奴らに協力する輩を焼き払うしかないのだ。


 これは避けられぬ犠牲だ。

 恐怖を叩き込むしかない。

 それが、最も早く、最も安い」


(それは知っている。

 切り離すのは極めて難しい。

 滝川殿は正しいことを言っている。

 凡将ではない。

 傷を覚悟して戦うのも一つの道理だ)


秀政がゆっくりと目を瞑る


(だがな、滝川殿。

 貴殿が正しいように、

 俺も正しいことを言っているのだ。

 宗教を舐めてはいけない。

 奴らは恐怖で離散しない。

 恐怖、押さえつけ、それが全て

 反抗心に変わる。力に変わる)


再び目を開けた。


(俺は知っているんだ。


 恐怖で押さえつけた結果、

 逆に力を増し、

 この長島は鎮圧するまでに何年もかかる。


 計り知れない犠牲を払うことになる。

 この先に待つ地獄を、

 俺は知っている)


「この一向一揆は普通の戦とは異なるのです」


「話にならんな。

 殿の命だ。

 わしは奉行である貴殿の内政には口を出さぬ。

 だが、わしはわしのやり方を通す。


 少しでも長島に利するものは、焼く。


 いち早く弱らせ、すぐに蜂起させる。

 そして一網打尽だ。


 長島を放置すれば、殿の東国経略が遅れる。

 時間は我らの味方ではないのだ」


「ですが、急がば回れという言葉もあります。

 滝川殿の力攻めが、

 逆に時間がかかることも考えられます。

 ……俺も俺のやり方を通させていただく」


(犠牲を無くすのは、無理だ。

 十の内、五の犠牲が出るのが仕方ない戦いだ。

 その犠牲を四に、三にするために、

 俺は考えている。


 滝川殿の手法では、五は五のまま。

 少しでも足掻いて四や三にするのが俺の道だ。


 だが、それを伝える術はない。

 俺は一向一揆の恐怖を歴史として知っているだけだ)


「好きにせよ。

 だが、長島を討つのはこの滝川一益だ。

 わしの覚悟だけは忘れるな」


真っ向から正論をぶつけ合った二人の意見は、

平行線のまま交わらない。


(……それでも、俺は俺のやり方で伊勢を救う)


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― 新着の感想 ―
郡奉行は芋さんなので軍事以外は全て芋さんの権限の範疇。税も裁きも。頑張れ芋さん!
投稿ありがとうございます。 ぶつかったように見えますが、まだ噛み合ってないだけに見えますね。 私が思うにこの信長家臣団の中で知略、武略双方で周辺をコントロールできる将なので、今は状況として方針を秀政…
「好きにせよ」の言質が取れたのと方針が割れてる現状の確認は出来たけど、いずれ対立が表面化しそうですねえ… 調略はむしろ長島からこっちに飛んで来そうな状況、今まで仕掛けられる側に回ってない芋殿にはそうい…
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