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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第三章 城代編(足軽大将格)

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第三十三話 帰還と爆弾

尾張への道を急ぐ二騎。

秀政と村瀬だった。


城代ではあるが、那古野城を預かった。

尾張の中心でおよそ二十万石に相当する

大名級な領土の内政権をだ。


その軍権ともなると、

徴収百姓兵を加えれば二万弱の兵を

動員することもできる。


(さすがにそれは切り離されて当然だな……。

 だが一千の兵は残した。

 これは下位から中位への侍大将級の軍権だ)


「殿は俺を侍大将と認めたわけか……」


「何か申されましたか?」


村瀬が独り言に対して、

問いかけるが、無言で首を横に振った。


(あえて、信長が足軽大将格と口にしたのは

 侍大将待遇を自覚した上で、

 方便上、足軽大将に据え置いたというわけだ)


頭をひと掻きする。


(俺を侍大将にしてしまうと、

 あの口約束で秀吉を俺の与力に

 する必要が出てくるからな。


 両名を直臣にしたいなら――

 おそらく出世時期は揃えてくるだろう。

 信長もずる賢い)


「となると……」


(俺の予想では、秀吉が侍大将になるのは……

 永禄十三年の金ヶ崎の退き口か、

 元亀元年の姉川だな)


「村瀬」


「はい」


「永禄十三年の春までに五十人の

 剣豪隊を鍛え上げろ」


「三年で?」


「そうだ。今ある兵の中から五十人、

 筋のいいものを選び、徹底的に鍛え上げろ」


「できなくはありませんが、急ぎますな?」


「あぁ。平地での戦では槍や矢が主力となるが

 小規模の退き戦の連続だと、剣豪隊は無敵だろう。

 鉄砲隊と剣豪隊が居れば……」


「退き戦?」


「いや、気にするな。

 新陰流は戦でも役に立つということだ」


「まぁ、やってみます」


「頼んだぞ」


(剣豪隊を秀吉に貸し出せば、

 あいつは金ヶ崎の退き口で

 見事な殿しんがりを果たすだろう。

 そこで俺達は侍大将に揃って昇格だ)


「村瀬、皆が心配している。急ぐぞ!」


「は!」



屋敷が見えてきた。


――異様だった。


門は閉じられ、

見張りの数が増え、

庭に人影はほとんどない。


灯りはある。

だが、

「生きている屋敷」特有の気配がない。


(……張り詰めているな)


門を開いて、中へ進む。


「弥八様っ!!」


最初に飛び出してきたのは、お悠だった。


その後ろから、

明と蘭が転ぶ勢いで駆けてくる。


「父上!」

「おかえりなさい!!」


秀政は、思わず駆け寄り、

二人を抱きあげた。


「……ただいま」


その一言で、

屋敷全体の空気が、

わずかにほどけた。


浅野清隆が、静かに答えた。


「……あれ以降、

 異変はございませぬ」


耀が一歩前に出る。


「侵入の兆候はありません。

 ただ……」


「ただ?」


「皆、

 いつ来るかと……」


それ以上は言わなかった。


忍びの名が出た夜から、

屋敷は“戦時”のままだったのだ。


「もう警戒を解いてよい。

 話はつけてきた。」


「なんと!?詳しくお聞きしても?」


「あぁ、どうせなら皆に一度に話す。

 他の者は?」


「千種殿、代官衆は、中におります」


秀政は頷くと二人の娘を抱き上げたまま、

屋敷の中へと進んだ。



座敷。


千種政成をはじめ、

新たに取り立てた代官たち、

家人、

忍び――


全員が揃っていた。


だが、

誰一人として落ち着いていない。


「弥八様、無事で……!」

「美濃は、どうでした?」

「忍びは?」

「半兵衛は?」

「信長様は?」

「秀吉様はご無事で?」


質問が、

一斉に飛んでくる。


秀政は、

しばらくそれを聞いてから、

ぽつりと、言った。


「那古野城を、任された」


一瞬。


「………………」


全員の思考が、

完全に止まった。


「……はい?」


お悠が、聞き返す。


「那古野城の城代になった。

 付属する三郡の内政権もいただいた」


沈黙。


そして――


「「「はいぃぃぃ!?」」」


見事なまでの大合唱だった。


千種政成が、思わず立ち上がる。


「な、那古野城と申されましたか!?」


浅野が、珍しく声を荒げる。


「城代、ですか!?」


耀が、目を見開いたまま固まっている。


明と蘭は、状況が分からず、

ただ父の顔を見ている。


「……あぁ」


秀政は、

ようやく苦笑した。


「俺も、同じ反応だった」


その場に、

一拍遅れて、ざわめきが広がる。


――忍びの影に怯え、

明日が分からぬ生活を送っていた屋敷に、

とんでもない“爆弾”が落とされた瞬間だった。


「足軽大将格は据え置かれたが、

 一千の軍権も与えられた。

 これは紛れもなく侍大将級の城主と言っても

 差支えはない。

 俸禄だけが据え置かれたようなものだ」


村瀬が、ぽつりと呟く。


「……ならば、

 わしや浅野殿の役目も増えるな」


「増えるどころじゃない」


秀政は、深く息を吐いた。


「ここからが、本番だ」


忍びの恐怖は去った。




だが代わりに、

城と三郡という、

さらに重い責任が、

この屋敷に降りてきたのだった。


「義父殿、お悠。人事の総入れ替えだ。

 またも人が足らん」


「殿、さすがに千種屋にもそうは人が

 残っておりませんぞ」


「分かっている。

 中島・海東郡は丹羽様の息がかかった代官だ。

 そのまま、使える……と信じたい」


「そうですな……」


「お悠、お前は那古野城付の勘定奉行に、

 格上げさせる。

 三郡の勘定奉行を統括せよ」


「は、はい……」


「人事権も渡す。

 愛知郡の勘定奉行として、

 少しは顔も広くなったであろう。

 見どころのある者はいるか?

 その者を三郡の勘定奉行に任命せよ」


「私の判断でよろしいのでしょうか?」


「良い、信じている」


お悠は全面的に信頼されて、

少しだけ照れくさい顔をした。


「義父殿、愛知郡の郡代を頼む。

 そして木曾を中島郡郡代、荒木を郡奉行とする。

 泉川を海東郡郡代、南條を郡奉行だ。


 申し付けた通り、後継は作ってあるな?」


「はぁ、まだ鍛え途中ですが……」


「義父殿、引き継いで愛知郡の代官を鍛えてくれ」


「う、承りました」


「木曾、荒木、泉川、南條。

 中島と海東の代官どもに、

 いち早く芋粥精神を叩きこめ」


「は!」


「他はこれから考える。

 まるで嵐のようだ……」


――嵐は、続く。

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