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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第二章 郡代編

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第二十一話 異なる道

職務を終え、城下を離れるころには、

空はすでに夕闇に沈みかけていた。


提灯の灯りが、ところどころで揺れている。

人の声もまばらだ。


無言のまま、秀吉が前を歩く。

その背を、秀政は少し距離を取って追っていた。


――嫌な沈黙ではない。

だが、軽くもない。


足音だけが、二人の間を埋めていた。


不意に、秀吉が立ち止まった。


「……なんじゃい!」


振り返り、いきなり怒鳴る。


「この裏切者め!」


「は?」


秀政は、思わず間の抜けた声を出した。


「裏切者、とはまた大きく出たな」


「そうじゃろうが!」


秀吉は腕を振り上げる。


「お前はわしの家来じゃろ!

 あの場で――

 殿の前で、わしの与力になると言うべきだったんじゃ!」


「……おい、秀吉」


秀政は、ため息をついた。


「逆の立場で考えてみろ。

 お前が俺の立場の場合、あの状況で殿に向かって、

 “猿の与力にしてくれ”と言えたか?」


「……」


秀吉は一瞬、言葉に詰まる。


だが、すぐに顔をしかめた。


「ふん!

 話をそらそうとするな!

 姑息なやつめ!」


「面倒くさいな……」


秀政は頭を掻いた。


「分かった。

 はっきり言う」


一歩、秀吉に近づく。


「俺は、今でもお前の与力のつもりでおる」


「あぁ!?」


秀吉の目が吊り上がる。


「そうやって油断させようとする気やな!?

 この策士めが!」


「……あー、もういい」


秀政は手を振った。


「やめたやめた。

 ちょうど今さっき決めた。

 お前の与力、やめる」


「……」


秀吉の顔色が、微妙に変わった。


「……芋」


声の調子が落ちる。


「お前、本当に……

 まだわしの与力のつもりでおったんか?」


「さっきから、そう言っとるだろうが」


秀政は呆れたように言う。


「まったく……」


少し間を置いてから、言葉を変えた。


「秀吉」


「なんじゃ?」


「めでたいな。

 ようやっと、のし上がれた」


「……ん」


秀吉は、照れたように鼻を鳴らした。


「あぁ、苦労したな。

 芋も一緒じゃ」


「あぁ、本当に苦労した」


秀政は、はっきり言った。


「だがな、これからは――

 違う」


秀吉が、こちらを見る。


「秀吉。

 困ったことがあったら、

 遠慮せずに俺の所に来い」


「策でも、金でも――

 お前のためにいくらでも用意してやる」


「……芋」


秀吉は、少し真剣な顔になった。


「何故じゃ。

 何故、与力のままでええんじゃ?」


秀政は、少し考えたふりをしてから答える。


「他の奴の下につくのは、癪だ。

 だが――」


視線を逸らし、続ける。


「お前の下なら、仕方ない。

 そう思えるのよ」


「芋……」


秀吉の声が、少しだけ柔らいだ。


「それに」


秀政は、口元を歪める。


「お前は俺に、

 東海道四十万石をくれるんだろ?」


「あぁ……」


秀吉は頷きかけ――


「ん?

 ……おい、石高が倍に増えとらんか?」


「細かいことを気にするな」


「抜け目ない奴じゃな……

 まぁいい」


秀吉は、にやりと笑った。


「やるぞ。

 わしが偉くなったらな。

 四十万石でも八十万石でもじゃ!」


「だからいいんだ」


秀政は、静かに言った。


「お前は、俺の一歩先を歩け。

 どこまでも、ついていく」


(信長に邪魔されなければ、だが)


その言葉は、心の中にだけ留めた。


「……芋」


秀吉が、少し気まずそうに言う。


「さっきは、すまん。

 裏切者などと言ってしもうた」


「あぁ、構わん」


秀政は肩をすくめる。


「だがな」


一拍。


「俺は先を譲ると言っただけだ。

 勝ちを譲るとまでは言ってない」


「……ん?」


「俺はこれからも、本気でのし上がる」


秀政は、真っ直ぐ秀吉を見る。


「お前もだ」


「もし、お前が足踏みして、

 俺がそれを待ちきれんくなったら――」


「お前を、俺の与力にするまでだ」


「なんじゃい!」


秀吉が叫んだ。


「やはり裏切者やないか!」


「お前がしっかりすればいい話だ」


「そりゃ、そうじゃが」


「まぁ……頑張れ」


「他人事みたいに言うな!」


二人は、思わず笑った。


だが、秀政はふっと真顔に戻る。


「秀吉」


「なんじゃ」


「俺は、今みたいに

 四六時中お前に策を与えることはできなくなる」


「……まぁ、そうだな」


「だから」


秀政は、少しだけ声を低くした。


「俺を超える軍師を配下につけろ」


「お前を超える奴がおるんか?」


「美濃の――

 竹中半兵衛を推す。

 半兵衛には勝てる気がしない」


「竹中半兵衛……」


秀吉は、顎に手を当てる。


「聞いたことはあるな」


「これから美濃攻めが始まる」


秀政は断言した。


「お前は、何よりも優先して

 竹中半兵衛を手に入れろ」


秀吉の肩に手を置く。


「いいな?絶対だ。

 三顧の礼の気持ちで当たれ」


「……分かった」


秀吉は、頷いた。


「芋、お前もはよ奉行になれよ」


「お前がのろのろしておったら、

 四十万石の約束はなしにするからな!」


「あぁ」


秀政は、軽く笑った。


「これからは――

 競い合いだ」


二人は、再び歩き出す。


並んでではない。

だが、背を向けることもなく。


同じ道を、

異なる立場で進むために。


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