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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第一章 足軽組頭編

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第二十話 論功の行き着く先

清洲城。

評定の間。


珍しく、空気が重かった。


墨俣――

その名が出るだけで、誰もが結果を知っている。


一夜城。

斎藤を退け、美濃への楔となった城。


「……論功行賞に入る」


信長の一言で、広間が静まり返った。


まず、秀吉が呼び出される。


「木下藤吉郎」


「はっ!」


進み出る秀吉の背は、以前よりも堂々としていた。


「墨俣築城、見事であった」


簡潔な言葉だった。


「敵地に城を築き、斎藤を退け、

 美濃攻略の足場を築いた。

 これは疑いようのない大功である」


ざわり、と空気が動く。


だが――

すぐに、反発が割り込んだ。


「殿!」


柴田勝家が、堪えきれぬ様子で声を張り上げる。


「確かに墨俣は成った。

 だが、あれは奇策!

 正攻法ではありませぬ!」


「奇策で城が立つなら、十分であろう」


信長は、即座に返した。


柴田は言葉に詰まる。


佐久間信盛が、続く。


「殿。

 藤吉郎は百姓出。

 あまりに急な引き立ては、

 軍の規律を乱しかねませぬ」


佐々成政も、硬い声で口を挟む。


「ましてや、譜代が二度も失敗した役目。

 その後始末で昇進とは、

 示しがつきませぬ」


一瞬、場が張り詰める。


信長は、ゆっくりと三人を見回した。


「……ほう」


声は低い。


「では聞く」


信長の視線が、柴田達に向いた。


「権六、右衛門、内蔵助。

 お前達は墨俣で、何を成した?」


「……」


誰も答えられない。


信長は、冷たく言い放った。


「失敗した者が、

 成功した者の昇進を止める理由にはならぬ」


さらに一歩、踏み込む。


「それとも何か。

 城が立ったのが、気に入らぬか?」


沈黙。


「藤吉郎は、結果を出した」


信長は、はっきりと言った。


「よって――」


視線が、秀吉に戻る。


「木下藤吉郎秀吉を、

 足軽大将に任ずる」


秀吉の胸が、大きく上下した。


「兵を率いよ。

 これからは“猿”ではなく、

 “将”として戦え」


「ははっ!!」


深々と頭を下げる。


その背中を、譜代たちは苦々しく見ていた。


だが――

話は、まだ終わらない。


「次だ」


信長の声が、再び場を引き締める。


「芋粥弥八郎秀政」


秀政の名が呼ばれた瞬間、

場の空気が微妙に変わった。


「……はっ」


進み出る秀政を、

柴田も、佐久間も、警戒した目で見る。


(来たな)


秀政は、内心でそう思った。


「墨俣の城は、

 藤吉郎一人で立ったのではない」


信長は、淡々と続ける。


「材。

 段取り。

 水運。

 兵站。

 商い。

 税。

 その全てが噛み合って、

 初めて成った――

 それを整えたのは、誰だ」


一瞬の沈黙。


「弥八郎だ」


その言葉に、譜代がざわつく。


「殿!」


佐久間が声を上げる。


「弥八は足軽組頭!

 武功も目立つものでは――」


「武功だけで国は回らぬ」


信長の一喝が、評定を断ち切った。


「戦は、兵で勝つ。

 だが、国は――

 銭と物流と、治める力で持つ」


信長は、秀政を真っ直ぐに見た。


「弥八郎。

 お前は、墨俣でそれを示した」


「村井吉兵衛も、申しておった」


この名に、場が静まる。


「“此奴は、戦の形を変える男だ”とな」


信長は、決断を告げた。


「芋粥弥八郎秀政を、

 愛知郡郡代に任ずる」


一瞬、理解が追いつかない。


「愛知郡――」


誰かが、息を呑む。


那古野。

熱田。

尾張の経済の心臓部。


「千種屋を含む商家。

 港。

 物流。

 税収。

 すべてを束ねよ」


(は??)


「戦の折は、

 足軽大将格として出陣を許す。

 まつりごとだけではなく、兵も育てよ」


「・・!? はっ!」


「文も武も、共に使え」


完全な――

信長直轄の重任だった。

大抜擢といえる。


譜代の誰も、言葉を発せない。


信長は、最後に言い切った。


「これは、褒美ではない」


一拍。


「使い道だ」


「出来ねば、切る。

 出来れば、国が伸びる」


「それだけの話だ」


「以上だ」


「と、殿。芋は猿めの与力のはずでは?」


「ふん、何を言っておる。

 芋はお前と同格の郡代よ。

 これからは出世争いをせぇ」


秀吉と秀政が目を丸くする。


「先に侍大将、あるいは奉行になった方が

 遅れた方を与力とする」


「そりゃねぇですよ、殿!」


「猿、自信がないのか?」


「あ……いや。おい、芋!

 わしは、負けんぞ」


「はっはっは」


信長の乾いた笑いが、秀政の耳を左から右へと抜けた。


(お、おい。俺は豊臣政権で20万石の大名になる

 ……はずなんだが)


信長は笑い続けていた。


(しかし……

 足軽大将にはしてもらえなかった……

 あ……俺、もしかすると

 武力と統率力は三十台の

 使える地味武将なのでは……)


大抜擢をよそに、

秀政はそんな余計なことを考えていた。

第一章 終幕

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― 新着の感想 ―
墨俣で力尽きる作品が多い中、 まだ続きが読めることに感謝。
戦闘描写見る限り 統率? 武勇低め 知略高め 政治高め みたいな感じがしますね
後半、城を任せる武将が足りなくなって、しれっと後方のでかい城の城主やってるやーつ。
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