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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十一章 伊勢太守編(長政飛躍編)

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脇巻之四 鈴鹿城築城

天正四年一月に遡る。


信長から与えられた鉄砲調達任務。

久々の戦からの解放。


一年という猶予は短い。

だが内政においては、

国を一段押し上げるには十分な時間でもある。


天正四年は鉄砲調達の任を受けたことで、

秀政は出陣を免れていた。

ならばやることは一つ。


鈴鹿を固める。


秀政は政成、そして松丸を伴い、

上機嫌で鈴鹿一帯の巡視に出ていた。


見るべきは多い。

地形、流通、治水、人口。



鈴鹿川沿いの土木現場に差し掛かった時である。


若武者が二人、黙々と鍬を振るっていた。


藤堂高虎と加藤虎之助。


どちらも、羽柴から来た大器の若者である。

歴史を知る秀政にとって、彼らの成長を見守れるのは、

この上なく嬉しい。


秀政は馬上から声をかけた。


「調子はどうだ?

 芋粥には慣れたか?」


清正が顔を上げる。


「はい!

 日々学ぶことが多く、伊勢に来てよかったと思っておりまする。


 それにしても、ここの土は締まりが良くて――」


その言葉の途中で、別の方向から声が入る。


「芋粥殿。

 ここの土塁、角度が甘いです」


高虎である。


視線は地面ではない。

全体を見ている。


「あと少し削れば、水が逃げ、崩れませぬ」


秀政は小さく笑う。


(さすが藤堂高虎。

 だがな、この伊勢はやらんぞ)


「ただの土運びでは終わらぬか」


和やかな空気が流れる。


その時だった。

清正がぽつりと呟いた。


「この土塁をみていると思い出します。

 ……姫路城の外堀は、見事でした」


手を止める。


「……城と言えば、秀吉様から聞きました。

 大殿様は安土に凄まじい城を築くと聞きました」


「ほぉ?」


(安土城のことだな。確かにすさまじい城にはなるな)


虎之助の興奮は止まらない。


「山そのものを城にするような、

 とんでもない御城を築こうとしておられるそうです。


 石垣を積むんじゃなくて、

 山を削って、削った分をまた積んで、

 山ごと形を変えてしまうんだとか!」


高虎も目を輝かせる。


「……山を……造り替える……?」


「しかも、

 城の中に七つも八つも曲輪ができて、

 上に行くほど道が狭くなって、

 敵が登るほど不利になるように作るそうです!」


「大殿もさすが日ノ本一の殿様にございますな」


政成が笑顔のまま感心する。


「秀吉様が笑いながら言ってました。

 “あれはもう城じゃねえ、化け物の巣だ”って!」


高虎が視線を落として呟く。

握る手に力が入っている。


「化け物の巣……」


「はい!

 しかも、天守は空に届くほど高くなるとか、

 城の中に寺が入るとか、

 殿が座る部屋は金で光るとか……

 もう何が本当で何が嘘か分かりません!」


秀政も遂に噴き出す。


「ふっ……秀吉様らしい話しぶりだな」


急に松丸が反応する。


「父上!」


勢いよく馬の腹をけり、秀政の側に駆け寄る。


「鈴鹿にも城が欲しい!

 城がないと武士ではない!」


秀政が視線を落とす。


「……は?」



政成が苦笑する。


「殿。

 子供の願いにございます」


軽く言う。だが判断は早い。


「廃城予定の城を寄せ集めれば、

 それなりのものは作れましょう」


現実に落とした。


秀政は腕を組む。


「城などあっても意味は――。

 それに殿が城を建てる中で家臣の俺も城を建てるなど」


言いかけて止まる。


松丸が見ている。


逃げ場はない。


「……まあ、松丸が言うなら仕方ないか。

 どうせ出来上がるのは安土城とは比べ物にはならん。

 殿の安土城の良い引き立て役になろう。


 鈴鹿城を作ろうぞ!」


あっさり折れた。


「やった!」


松丸の声が弾ける。



話はすぐに具体へ落ちる。


政成が指を折りながら整理する。


「神戸城の城郭を移し、

 木田城・高岡城の材木を使い、

 切畑城・田光城の石垣を流用する。


 新規築城より早く、安く、

 そして目立ちませぬ」


秀政は即座に釘を刺す。


「殿には変に疑われたくない。


 土塁主体、石垣は腰巻き程度の控えめなもの。

 天守は物見櫓に毛が生えた程度にせよ。


 ……それ以上は絶対にやるな」


「心得ております」


政成は迷いなく応じた。



そこで高虎が一歩進み出る。


「芋粥殿……俺は築城を学びとうございます」


間髪入れず清正も続く。


「芋粥殿!

 俺も手伝わせてください!

 土の扱いには自信があります!」


秀政が眉をひそめる。


「お前ら……目が輝いておるぞ」


(そういえばこいつらは築城名人だったな。

 若いうちから築城には興味があったわけか)


政成が静かに言う。


「殿。

 若者の学びには良い機会にございます」


秀政は一拍も置かず答えた。


「……まあ、いいか」


こうして“ついでの築城”が始まった。



「場所についてだが――」


秀政は視線を遠くへ向ける。


「鈴鹿は既に囲ってある」


政成が頷く。


「はい、一里半四方――

 外堀予定地まで含め、確保済みにございます」


松丸は意味が分からぬ顔をしている。


秀政は淡々と続ける。


「その内に、本丸・二の丸・三の丸の区画を切ってある。

 だが――」


少し間を置く。


「堀は掘っていない。

 櫓もない」


政成が補足する。


「政庁として使うためにございます。

 塀と門だけを立て、城とは見せぬ形にしております」


秀政が頷く。


「そうだ。

 今は“城下町”ではなく、“政庁総構え”だ。


 まぁ、いずれは城にするつもりだったが、今は違う」


信長への配慮である。


「目立てば疑われる。

 あくまで街を作っているように見せる必要があるからな。


 だから今回も、本丸の中に収まる程度で良い。

 あくまで政庁の一部だ」


ここでようやく話が繋がる。


「場所は鈴鹿館の周囲。

 中央区画だ」


「承知いたしました」



だが――

ついでで終わるはずがなかった。


高虎は、本丸予定地の土塁の前で足を止めた。


「……殿。この土塁、角度が甘うございます」


誰に教わったわけでもない。


「あと少しだけ削って、丸く締めれば……

 雨で崩れませぬ。

 敵も登りにくくなります」


秀政が眉を上げる。


「お前、そんなことまで分かるのか」


高虎は首を傾げた。


「なんとなく、です」


次に、積みかけの石を一つ手に取る。


「この石……噛みが浅い。

 ここを少し削れば、ずれませぬ」


政成が思わず感心する。


「高虎殿、どこで学ばれたのです?」


「学んではおりませぬ。

 ただ……見れば、分かるのです」


秀政は内心で呟いた。


(……こいつ、恐ろしいな)



本丸の土台を固める作業が始まっていた。


清正は、黙って人の動きを見ていた。


土を運ぶ者。

突き固める者。

木を組む者。


しばらく見てから、ぽつりと言う。


「……これでは、日が暮れても終わりません」


秀政が振り向く。


「どういうことだ」


清正は、指で地面に線を引いた。


「土をここから運んでいますが――

 この道は遠回りです。

 ここに仮の土橋を一本かければ、

 往復の歩数が半分になります」


政成が目を細める。


「半分……?」


清正は続ける。


「それと、

 突き固める者と運ぶ者が離れすぎています。

 ここに一人“受け”を置けば、

 手が止まりません」


秀政は、試しに清正の言う通りにさせた。

それだけで、土の山がみるみる減っていく。


人の動きが淀まない。

無駄が消える。


政成が小さく息を吐いた。


「……虎之助殿。

 どこでそのようなことを学ばれた?」


清正は首を傾げる。


「学んではおりません。

 ただ――

 もったいないと思っただけです」


「もったいない?」


「はい。

 せっかく動ける者が、

 立っているのが、もったいない。

 せっかく土があるのに、

 運ばれないのが、もったいない。

 それを詰めていったら、こうなりました」


秀政は内心で呟いた。


(……こいつは、戦場に出したら厄介だな)



気が付けば規模は膨らんでいた。


当初の想定は小規模な移設である。

政庁の一角に収まる、ただの拠点。


それだけのはずだった。


だが――

出来上がったものは違った。



完成した鈴鹿城――仮。


本丸区画の中央。


鈴鹿館と政務施設の間に、

ぴたりと収まっている。


規模は大きくない。


だが――

形が整い過ぎていた。


二重天守。

最上階は望楼。


石垣は腰巻き程度。

本来なら粗くてよい。


だが妙に整っている。


土塁は高い。

わずかに、だが確実に。


堀もある。

深くはない。

だが浅くもない。


渡れるが、崩せない。


全体として――


「小さいが、崩れぬ」


そういう城であった。



秀政は腕を組んで眺める。


「……おかしいな」


本音が漏れる。


「これほどのものを作るつもりではなかった」


政成が静かに答える。


「本丸区画に収めた結果、

 無駄が削ぎ落とされましたな」


高虎の方を見る。

満足そうに鈴鹿城を見つめている。


虎之助は最初のひと月ほど取り組んだ後は、

北陸に向けて出陣し、完成を見なかった。

だが、彼が最初に定めた仕組みは鈴鹿城の築城を大いに効率化した。


秀政はため息をついた。


「……危なかった」


視線を城から外す。


「これ以上立派にしたら、

 殿に疑われるところだった」


政成が頷く。


「ですが殿。

 これは“政庁の付属”にございます」


少し間を置く。


「そう見せることは、十分に可能です」


松丸が駆け出す。


「父上!

 城です!!」


高虎も頷く。


「良い城になりました」


秀政は小さく息を吐く。


「……まあ、松丸が喜んでいるならいいか」


だが内心では理解している。


(これはただの城ではない。


 いずれ、この中に

 本当の城を建てるための“核”だ)


鈴鹿はまだ街である。


だが――


既に城であった。

あとがき


久しぶりのイメージ画像です。

(ChatGPTを使用しています)


①長政&明姫

167話の「伊勢の芋」宣言シーン。

明の笑いのツボにはまったようです。

二人大きくなりましたが、まだおままごと夫婦なので初孫は先です。

挿絵(By みてみん)


②鷺山利玄

もう青鬼将が馴染んでいますね。

挿絵(By みてみん)


③村瀬兼良

秀政に戦場によく連れだされていたので

月代をしっかり剃り上げました。蒸れるのは我慢できないらしいです。

(とはいえ、兜かぶってませんね)

挿絵(By みてみん)


④比自山実綱

まだあまり出番がありませんが、赤鬼兵を鍛え上げる鬼教官です。

伊賀一条流槍術師範です。

挿絵(By みてみん)


⑤ジョアン・デ・アゼヴェード

女と金と酒を愛する胡散臭いポルトガル人のジョアンです。

日本語は

「オネサーン、キレーイデスーネ。オサーケ、イッショノミマーショ」

のような一分の片言しか話せません。

……が面白いのできっとモテてます。

挿絵(By みてみん)


⑥白子潮勝

秀政といったら水軍になりそうなくらい海軍力が膨らんできました。

今後活躍するかもしれませんね。

挿絵(By みてみん)


⑦伊賀忍者たち

MOBですが、秀政の情報網を支える者たちです。

挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
芋粥が作る城なら五稜郭風の火器対応型になりそうな。
清正、北陸に出陣してませんか?
たんなる趣味、ロマンだが、外側崩れたら、内側に本当の城みたいなギミック憧れるなあ。芋だし、外側は黒系外壁だが、内側白壁で中身がある絡繰り(笑)
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