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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第九章 伊勢太守編(伊賀・大和攻略編)

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第百三十五話 銭で殴る戦

秀政は一度、皆の顔を見渡した。


先ほどまでの開発の話とは違う。

今から語るのは、大和をどう崩すか――

その本題だ。


「よし。では、大和攻めについて話すぞ」


上段の間に、ぴたりと静けさが満ちる。


秀政はわざと少しだけ間を置いてから口を開いた。


「お前たち、

 芋粥の戦い方とは何だと思う?」


村瀬が待ってましたとばかりに胸を張った。


「鬼備前の剣にございます!」


だが、秀政は即座に叫んだ。


「否!」


村瀬が目を丸くする。


「違う」


一拍置き、視線を巡らせる。


誰も口を開かない中、

政成が恐る恐る答えた。


「……銭、にございますか?」


秀政は、待っていたとばかりに指を鳴らした。


「そうだ!」


声が上段の間に響く。


「銭袋を振り回して敵の頭を殴りつける。

 それが芋粥流よ!」


村瀬が思わず呟いた。


「武士らしゅうないな……」


秀政は鼻で笑う。


「いや、それでよい。

 むしろその方が強い」


そして、姿勢を正した。


「今から作戦を伝える」


皆が居ずまいを正す。


秀政はまず政成を見た。


「政成。千種屋に命じて、

 大筒を九門仕入れよ。

 すぐにだ」


政成が目を見開く。


「大筒、にございますか?」


「そうだ」


政成は即座に暗算し、顔をしかめた。


「一門百貫はいたします。

 それだけで九百貫……」


「政成、俺が言っているのは、

 和製花火のような大筒ではない。


 大型の南蛮大砲、

 高品質の青銅製カノン砲だ」


「南蛮大砲ですか?

 しかも高品質ですか?

 入荷困難で、しかも五百貫はします」


「構わん」


秀政はあっさりと言う。


「再利用が利く。

 それに、後で他家へ高値で売りつけることもできよう」


政成がなおも困惑した顔で問う。


「……それを、どう使われるので?」


秀政の口元がわずかに歪んだ。


「まず、浅野」


「は」


「伊賀忍びを使って、大和に噂を流せ」


浅野が静かに頷く。


「どのような噂を?」


「筒井は教えを曲げ、民を誑かしている」


低い声で言う。


「ゆえに仏がお怒りである。

 いずれ仏罰が下る――とな」


場に、わずかなざわめきが走る。


「もちろん、筒井は織田の悪あがきと鼻で笑うだろう。

 構わん」


秀政は続ける。


「噂は、流すだけでよい。

 信じさせる必要はない」


「承知」


浅野が短く応じた。


「そして、もう一つ仕掛ける」


秀政は皆を見渡した。


「我ら芋粥も、赤備えと同じく

 “見て分かる兵団”を作る」


村瀬が眉をひそめる。


「軍装を揃える、ということですか」


「そうだ」


秀政は頷いた。


「赤一色、黒一色、青一色の兵団を作る。


 それぞれ甲冑の前立ては角だ。


 そして全員、鬼の頬面を付ける」


沈黙。


誰もすぐには意味を飲み込めない。


秀政は言い切った。


「赤備えすら打ち破った鬼備前の名は、

 毛利ですら知るほど世に広まった。

 ならば芋粥の兵も鬼兵だ」


鷺山が、目を輝かせながらも、

意味が理解できずに口を開く。


「……俺としては面白いとは思いますが、

 それが今回の戦で何に?」


秀政は片手を上げた。


「まあ待て。焦るな。順に説明する」


地図を広げ、指を落とす。


「我らが攻める先は、福住城だ」


指先は、筒井城の南東を叩いた。


「まず周りから押さえるように見せかけるには丁度良い」


何人かが身を乗り出す。


「見せかける?」


秀政は続ける。


「ここは筒井城から半日ほどの距離。


 筒井は援軍を出すだろう。

 だが本城が危うくなるとは思わぬ位置だ」


さらに指で周囲を囲う。


「しかも寺衆の砦ではない。

 筒井の問題と見れば、寺衆は静観する」


政成が頷いた。


「……なるほど。

 孤立させやすく、攻めやすい」


「そう思うか?

 ならば半分はもはや成功だ」


秀政は笑う。


「ここは山に囲まれた谷間の城だ。

 隠密行動に向く」


そこで、場の空気が少し変わる。


秀政が本命を語る気配を察したのだ。


「ここからが本番だ」


皆が息を呑む。


「夜、日没と同時に――鷺山」


「は」


「お前が筒井城に奇襲をかけろ」


鷺山の目が細くなる。


「兵は?」


「南蛮大砲九門。

 青鬼兵三百。工兵二百」


場がざわつく。


鷺山もさすがに問い返した。


「それで落とせますか?

 筒井城は筒井の本城ですぞ」


秀政は自信ありげに笑った。


「落とす必要はない」


「は?」


「壊せばよい」


その一言に、皆が固まった。


秀政は続ける。


「夜のうちに大砲を運び込め。

 存在を気取られぬギリギリまで詰め寄れ。


 工兵は周囲の山に忍び込み、

 太鼓を打て。


 ただし普通に打つな。

 不気味に、重く、腹に響くように叩け」


村瀬がにやりとする。


「化け物じみた音を立てろ、ということですな」


「そうだ」


秀政は頷く。


「さらに、鬨の声ではない。恨めしく唸れ。


 人とも鬼ともつかぬ声を山に響かせろ。

 この土地は声がよく響く。


 青鬼兵は最低限の松明の下、

 敵の矢が届かぬところに姿を現せ。


 はっきり見せるのだ。

 松明はゆらゆらと揺らせ。

 人魂よ。


 そこに地獄が現れたと思わせよ」


そして、言葉に力を込める。


「その上で叫べ」


秀政はわざと低く、

おどろおどろしく声色を変えた。


「仏罰である」


誰も口を挟めない。


「仏を語り、民を惑わす筒井に対し、

 仏罰を与えん」


さらに低く続ける。


「仏の命により、

 地獄の鬼と雷神が罪人を戒めん――とな」


空気が凍る。


秀政はそこで、にやりと笑った。


「そして大砲だ。


 三門ずつ、三交代。

 なるべく連射せよ。


 最初は三連での連射で破壊を行う。

 その後は一門ずつ冷やしながらの、

 間を開けた九層回転撃ちだ。


 筒井城に向けて各砲門が、

 三十発ずつ撃ち込め。


 終わりの見えない天罰だ。

 もはや瓦礫以外何も残るまい」


政成が思わず息を呑んだ。


「二百七十発……!」


「城門も城も塀も蔵も櫓も館も兵舎も、

 まとめて粉砕し尽くせ。


 奈良の仏教徒は――古い。


 兵どもは大筒には慣れておらぬ。

 さらに今回は南蛮大砲だ」


秀政は指で机を叩く。


「夜の闇、鬼兵、太鼓、不気味な声、地獄、仏罰の噂。


 その上で雷鳴のような大砲だ。


 雷神の怒りと取ってもおかしくあるまい」


鷺山の口元が歪む。


「……事前の噂も効くわけですな」


「そういうことだ」


「そして逃げる筒井兵は追うな。


 放置せよ」


村瀬が眉を上げた。


「逃がすのですか?」


「逃げた兵が、恐怖を広げる」


秀政は即答する。


「城から逃げ出した者どもが、

 “見たもの”を勝手に語る。

 そこまでで作戦は半ば成功だ」


少しだけ焦らしてから力強く断言する。


「決着は一夜だ」


声が低くなる。


「朝になれば、砲弾の跡を見て、

 ただの織田の夜襲と知れる。


 だから夜のうちに終わらせろ」


皆が呆然としている。


だが、秀政はさらに続けた。


「二刻遅れで本隊も筒井城に合流する。


 福住城は攻める振りじゃ。

 本命は本城たる筒井城の破壊だからな。


 空き家同然になった筒井城へ入り、

 焼却して、砲弾を隠す。


 仏罰の真相は隠す。


 だが、これで――

 筒井は一夜で終わる」


誰もが口を開けたまま、固まっている。


その沈黙を破ったのは、お悠だった。


すでに冷静な顔に戻っている。


「……計算いたしました」


控えめな声で言う。


「大砲九門で四千五百貫。


 放つ砲撃は二百七十発。


 火薬は十発で四貫で、百八貫。


 鉄球は十発で三貫で、八十一貫。


 合計――

 四千六百八十九貫」


静かに言い切る。


「しかも筒井城は、

 もはや使い物にならぬでしょう」


秀政は即答した。


「構わん。


 どうせ大和は信雄様、信孝様の領地となる。

 後はお好きに立て直せばよい。


 焼いて平地にしておけば再建しやすかろう」


お悠がじっと秀政を見る。


「その四千五百貫は?」


「再利用可能な四千五百貫だ」


秀政は笑う。


「千種屋に借りる」


政成が苦い顔をする。


「伊勢は二十万石の大国になりつつありますからな……

 貸せぬ額ではありませぬが」


お悠が小さく咳払いした。


「大殿様には十万石とお伝えしておりますが……」


「良い良い」


秀政は手を振る。


「また千種屋に金を出させたと思うだけだ」


村瀬がぼそりと呟く。


「やっぱり武士らしゅうないな」


秀政は即座に返す。


「だから勝つのだ」


そして最後に言い放つ。


「筒井の本城をこんな形で潰せば、

 小心者で逃げ癖のある筒井は、

 完全に牙を抜かれる。

 あとは筒井派の砦を松永殿と共に虱潰しに落としていく。


 筒井を一夜で骨抜きにすることが重要なのだ。


 最初が肝心。

 大和で伊勢の国力を落とすわけにはいかん。

 今後はどうなるか分からんからな。


 それにな、その後さらに噂を流すのだ。

 芋粥の殿様は阿弥陀如来からの夢告を受けて、

 鬼兵を作った。

 

 それで雷神が味方し、

 一夜で筒井城を落とした。


 芋粥は仏の尖兵である。


 とな。


 今後、芋粥の鬼兵は、

 赤備え以上に強い覇気を纏うぞ。


 さらに奈良だ。

 仏の加護を受けた軍は強かろうな。

 寺衆はその次だ」


その言葉に、ようやく皆の顔つきが変わった。


呆れは残る。


だが、それ以上に。


(勝てる)


そう思わされていた。

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― 新着の感想 ―
この頃の筒井家には黒田家のトラウマ製造機さんがいたよな…そこに頼廉まで来たらエライことになりますねぇ
問題は重い大砲を現地まで移動させる手段でしょうか。可能なら敵方に悟られないようにしながら。
一見現代人からの転生者らしい発想にみえつつ、輪廻転生を説く仏教を考えると、主人公に御仏の加護が本当にあるっぱいのが酷いw。
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