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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第八章 伊勢太守編(国作り編)

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第百十五話 引っ越し作業開始

秀政は千種屋松之助、木曾与英、南條利昌を呼んだ。

資金と実行力、帳面整理と情報管理、開発政務を担う三人だ。


「木曾、まずはお前が肝だ。


 政成は那古野の引継ぎで忙しい。

 となるとお前にしか任せられん」


「は!ご信頼いただき光栄至極。

 何を為しましょう?」


「皆は引っ越しの準備で忙しくしている。


 だがな、鈴鹿にはまだ何もない。

 住む場所もだ。


 笑えてくるが、誰もそのことを気にしていない。

 引っ越した先で野宿でもするつもりか。


 まずは政庁と居住区を作るぞ。

 鈴鹿城は、館だけで十分だ」


(最終的には江戸城のようにしたい。

 1.5km四方は欲しいな)


「だがな、与英。

 鈴鹿館の敷地は東西南北十四町を押さえよ」


「十四町……。

 随分と広うございますな……」


「広すぎるくらいでよい。いずれは町を抱く城とする。

 本丸、二の丸、三の丸……

 それらを置く場所を、

 今のうちに確保しておかねばならぬ」


(将来は江戸城に負けない名城にする)


 秀政は地図の中央に指を置いた。


「館はこの中央に“仮”として置く。

 だが周りには何も建てるな。

 ここが後の本丸となる。


 堀も土塁も、町の流れも、この地を中心に決める。


 その上でお前の特技の区画計画だ」


「なるほど、最初から都市を計画するのですな」


「そうだ。そして城は最後でよい。


 まずは町を作る。

 町が生きれば、

 城は自然と形を得る」


 秀政の言葉に、

 木曾与英は深く頷いた。


「では、まずは館を中心に四方へ基準線を引きましょう。

 この線をもとに、後の堀や大手道を決められます」


「うむ。それでよい」


秀政は棒で地図に線を引きながら続けた。


「湊からの道は、館へ向けて一直線に通す。

 荷車が詰まらぬよう、道幅は広く取れ。

 市場へ向かう道は別に設け、荷と人を分けるのだ」


「なるほど……。町の流れが乱れませぬな」


「侍屋敷は城の東西に。

 足軽長屋は南へまとめよ。

 兵と町人が無用に交わらぬようにする」


与英は次々と頷き、地図に印をつけていく。


「水路はどういたしましょう」


「まずは一本だけ、鈴鹿川から引け。


 その一本を“幹”として、

 後で枝を伸ばす。


 湿地は砂利を敷いて固め、

 道の両脇には浅い側溝を作る。

 雨のたびに水が溜まっては町が死ぬ」


「……殿は、まるで都を作るようでございますな」


「あぁ、そうだ。

 人が迷わぬよう、

 道は曲げずに升目に区切れ」


与英は息を呑んだ。


「升目……。

 まるで京のような町並みになりますな」


「いずれ鈴鹿は、伊勢の京となる」


秀政の声は静かだったが、

その奥には揺るぎない未来があった。


「城の着手は三年後でよい。

 いずれは天守を構える巨城にしたいが、

 まずは小城か館で構わん。


 だが――

 土地は今しか押さえられぬ。


 与英、頼んだぞ」


「はっ。

 必ずや、殿の御構想を形にしてみせましょう。


 しかし、そんなに大きな敷地を確保すると、

 変な野心を疑われませんか?」


「ん、確かに天下人になるならいいが、

 一家臣で巨城はやり過ぎか。

 いや、許可を貰えるほど活躍する」


(待て、本能寺の変が今でも起きるなら、

 天下人になることも夢ではないな。


 そこに至るまでに俺は強くなる)


「良い言い訳を思いついた。

 それまでは、まず政庁と誤魔化す。


 鈴鹿のこの広大な敷地は、

 外堀と城壁で囲む、


 政庁総構えだ」


「政庁総構えとは?」


「広大な空き地を平和利用し、

 政庁施設で埋め尽くす。


 巨城に変える場合、

 それを移転させればよい。


 各施設とはこうだ。

 これも後で区画割りせよ。

 優先順位は城と同じで良い。


 まずは館を中心に政庁だ。

 評定、裁判、年貢割付を行う政務局。

 朱印状や、黒印状を発給する文書局。

 お悠の領域、会計局。

 南蛮商人や千種屋の対応をする商務局だ。


 その外は、大学だ。


 算術・測量、漢方・南蛮医学、

 土木・築城学、農政学、火薬学、

 南蛮語学を学べる施設だ。


 稲の品種改良や、

 新しい南蛮野菜の栽培研究もやりたい。


 隣には医局。


 南蛮医術、薬種調合、外科手術、

 疫病対策、産科。


 大学と連携しつつ、医療の発展と、

 治療の充実を図る。


 次は工房。

 

 鉄砲の改良と生産。

 火薬の研究、鋳造技術、

 農具改良だ。


 そして訓練所を広くとる。

 常に訓練を欠かさず、

 赤備えを超える強兵を作る。


 軍装を揃えて黒鬼兵、赤鬼兵、青鬼兵とし、

 功を競わせるのも面白いな。


 最後に寄宿舎だ。


 研究者に医者、職人、商人の

 優遇で優秀な者を抱える。


 後の余った土地は畑にせよ。

 品種改良種や南蛮野菜の研究に使っても良い」


松之助、木曾、南條は圧倒されて目を見開いたまま、固まった。


「どうだ?

 少々夢を語ったが、これなら疑われまい」


「は、はい。左様で……」


三人は呆けた顔から真面目な顔に切り替わる。


「ううむ!お任せ下され!

 殿の夢、我らで全力でお支えします!」


「ああ、頼むぞ。城は後回しだ。

 これらはゆっくりと準備してくれ。

 

 鈴鹿館ができるまでは、

 仮政庁を確保する。

 白子湊から離れた平野の中央に、

 ひっそりと朽ちた館がある。


 かつて稲生いのうの国衆が住んだというが、

 今は屋根も抜け、土塀も崩れている。


 それを改修して住めるようにせよ。

 俺の最初の住処はそこで良い」


松之助が呟く。


「それはまた……

 いち早く鈴鹿館も作らせます」


「いや、後で良い。


 一に居住区、二に湊。

 三に開墾と治水、四に市場。

 五に治安で、六に城だ」


松之助が納得したようにうなずいた。


「まずは移動し、次に物流確保。

 そして石高の底上げで芋粥家の収入を安定させる。

 経済を回し、急激に開発したことで生じる治安の悪化を防止する。


 そして最後に城ですな」


「その通りだ、

 松之助、南條。


 木曾が区画の計画を立てたら、

 一気に長屋や武家屋敷を作ってくれ。


 松之助、融資を頼むぞ、

 利子は程々にしてくれよ」


「はい!」


「引っ越しは二ヶ月後だ、

 そこまでに居住区を作る」


南條と木曾が唸る。


「に、二ヶ月?」


「二ヶ月で六千の兵とその家族を住まわせる。

 無茶だと思うか?」


思わず南條が本音を吐いた。


「普通なら半年から一年はかかりまするが」


それに対して、松之助は笑った。


「殿、金と人を揃えれば、

 町など二ヶ月でできます」


「無茶な……」


南條が汗を拭いた。

秀政が笑いながら諭す。


「南條、考える前から無理というな。

 そこで発想が止まる。


 まず現状を把握する。

 次に為すべき事と比べる。


 その上で無理なら無理と言え」


「はぁ……。確かに。

 では、まとめます。


 現在芋粥家は六千の家臣がおります。


 侍大将、奉行が五十八名おります。

 上等な侍屋敷が五十八軒必要となります。


 次に足軽大将、与力、馬廻が二百四十名ほど。

 侍屋敷か上等な長屋を用意する必要があります。


 侍屋敷は百二十軒といったところですね。

 上等な長屋も六十軒は必要です。


 そして、六百名ほどの足軽組頭がおります。

 組頭用の長屋が百五十軒は必要です。


 最後に足軽です。

 足軽長屋は一棟当たり二十五名入ってもらうとして、

 二百余りの長屋が必要です。


 この長屋は兵舎です。

 足軽用の妻子長屋も必要になります。


 百五十棟は必要になりましょう。


 あと、それに共同炊事場が必要です。

 一箇所で長屋二十五棟を賄うとして、

 二十箇所作る必要があります。


 あとは水です。

 川利用を行うにしても、

 この規模の人口を賄うならば、

 三十五箇所は井戸を掘る必要があります。


 共同便所も五十箇所は必要でしょう」


そこまで聞いて秀政も驚いた顔をした。


(さすが、南條。一言いえばここまで具体化するか。

 そう考えると、さすがに二ヶ月は酷か)


南條の説明が終わると、

部屋の空気が重く沈んだ。


六千の家臣とその家族を収めるために必要な建物は、

七百棟を超える。


井戸三十五、便所五十、炊事場二十。


数字だけ見れば、常識では到底不可能な規模だった。


沈黙を破ったのは、千種屋松之助だった。


「……殿。やりましょう」


秀政が眉を上げる。


「松之助?」


「先ほども申しましたが、できます。


 二ヶ月で町を作るのは無茶ですが――

 金と人と段取りが揃えば、無茶は無茶ではなくなります。

 千種屋が総力を挙げましょう」


南條が思わず声を上げた。


「松之助殿、七百棟以上ですぞ!?

 井戸も便所も、道も水路も……!」


松之助は笑った。


「南條殿、数字を見て怯えてはなりませぬ。

 分ければよいのです。


 千種屋は優れた大工を百五十人集めます。


 木材も板も茅も釘も、

 すべて船で白子湊へ運び込む。


 湊に仮の荷揚げ場を作り、

 資材置き場も鈴鹿館の南に確保する。


 資材が揃えば、あとは組み立てるだけです」


秀政が頷いた。


「そうだ。長屋はすべて規格化する。

 寸法を揃え、部材を揃え、組み立てを“流れ作業”にする。


 一棟一日で建てられるようにする。

 これは尾張で試した方法だ」


松之助も答える。


「長屋は規格化できれば、部材は事前に大量生産できます。

 作ると建てるを同時です」


木曾与英が目を見開いた。


「一棟一日……!?」


「できる。

 まずは道を通す。


 湊から政庁へ一直線の幹線道路。


 市場へ向かう商業道路。


 兵舎へ向かう軍用道路。


 道が通れば、資材も人夫も迷わぬ。

 道が町を作るのだ」


南條が帳簿を開きながら言う。


「では、足軽・農民・大工を二十人一班に分け、百班――

 二千人規模で動かします。


 各班に監督を置き、遅れた班は即座に別班で補う。

 労働時間、休憩、食事も帳簿で管理します」


松之助が続ける。


「炊事場は二十ヶ所。

 井戸は三十五ヶ所。

 便所は五十ヶ所。


 これらは長屋より先に作るべきです。

 水と火と便所がなければ、

 工事が止まりますからな。」


秀政が指を鳴らした。


「湿地には砂利を敷け。

 雨で作業が止まるのは無駄だ。


 井戸と便所は離せ。

 病が出れば、工事は終わる。


 火除地を設け、風の通り道を塞ぐな。

 町は生き物だ。死なせるな。」


木曾が深く頷いた。


「では、まずは道と水路、井戸と便所。

 次に長屋と侍屋敷。


 最後に妻子長屋と市場の整備……


 順番を間違えなければ、二ヶ月で形になります」


南條が震える声で言った。


「……本当に、できるので?」


松之助が胸を叩いた。


「南條殿、千種屋を舐めては困ります。

 尾張の金と人を動かせば、町一つくらい二ヶ月で建ちます。

 殿のためなら、千種屋は命を賭けますぞ。


 五年、十年後に利子を付けて、この金は返ってきます。


 秀政様はそういうお方ですからな」


秀政は静かに笑った。


「よし。

 二ヶ月で鈴鹿に町を作る。


 六千の家臣とその家族が暮らせる町だ。


 無茶ではない。


 無茶を通すのが、我らの役目だ」


三人は深く頭を下げた。


「「「ははっ!!」」」


秀政は地図を見つめながら呟いた。


(鈴鹿は、ここから始まる。

 二ヶ月で町を作り、三年で城を築く。

 伊勢の京――


 いや。


 日ノ本が誇る都の一つにしてみせる)

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― 新着の感想 ―
鈴鹿なら京や近江に1番近い裏道「関宿」が要所に成りそうで直接伊賀と甲賀への抜け道 誰がまからせるのか?京近江には甲賀への道で 奈良紀伊なら伊賀への道、
投稿ありがとうございます。 鈴鹿の城作りでふと思ったのですが、現行にある 【神戸城】は同じ鈴鹿にありますがこれどうするんですかね? 信孝が入り改築して規模を大きくし、城下も投資出来るほどの立地条件…
この世界では名古屋から鈴鹿を経由して甲賀を通って京都につながる新幹線ルートができそうですな 鈴鹿サーキットは消えゆくか
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