表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第八章 伊勢太守編(国作り編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/136

第百十三話 本題

皆が引っ越しの話に沸き立った。

思わず立ち上がろうとする者まで現れる。


秀政は苦笑した。


「待て待て。まだ話は終わっておらん」


軽く手を上げる。


「今日は引っ越しの段取りも、

 ここで決めておきたいのだ」


慌てて皆が座り直す。

姿勢を正し、秀政を見つめた。


秀政は一度、家臣たちを見回した。


「うむ、その前にだ」


ゆっくりと言う。


「太守になるにあたって、

 政成、松之助、そして松親。


 この千種親子には、

 ずいぶん助けられた」


政成がすぐに平伏する。


「滅相もない。

 当然の事にございます」


「いや」


秀政は首を振った。


「千種の働きは格別だった」


一同を見回す。


「よって、政成には感状を与える」


政成が深く頭を下げる。


そして秀政は松親を見た。


「そして松親には――

 我が名“政”の偏諱を与える」


「「おぉ!」」


一同が感嘆の声を上げた。


千種親子の働きは、

誰もが認めている。


異を唱える者などいない。


秀政は静かに続けた。


「松親は今後、


 『千種松次郎政親』


 と名乗るがよい」


松親が深く頭を下げる。


「はっ!ありがたき幸せ」


声に力がこもる。


「芋粥のため、

 犬馬の労も惜しみませぬ!」


「うむ」


秀政が頷く。


「これからも頼むぞ」


この偏諱は――

ただの名誉ではない。


筆頭家老、千種政成の跡継ぎ。


つまり。


次代の筆頭家老を約束するものだった。


家臣たちの間に、

小さなどよめきが広がる。


秀政は続けた。


「そして千種屋松之助」


松之助が前に出る。


「これまでの千種屋の働き、

 そして芋粥への貢献。


 いずれも疑いようがない」


一呼吸置く。


「殿のお許しも得た。


 我が娘・蘭と、

 松之助の嫡男・松太郎の

 縁組をここに約束する」


「「おぉ!」」


再び大きな声が上がる。


松之助が深く頭を下げた。


「ありがたき幸せにございます」


静かに続ける。


「千種屋本店はあくまで尾張にございます。


 ですが、伊勢に新たに本店を構えた上で、

 私は大旦那として、

 月の半分は伊勢に常駐いたします」


胸に手を当てる。


「なんなりとお申し付けください」


秀政は満足そうに頷いた。


「うむ。期待しておる」


一拍置く。


秀政は軽く手を叩いた。


「よし」


家臣たちを見回す。


「では――

 引っ越しの話と参ろうか」


そして二人の名を呼ぶ。


「松親」


少し笑う。


「いや、政親」


視線を移す。


「神崎」


二人がすぐに応じた。


「は!」


「お前達二人は、

 引っ越しの段取りからは外す」


皆が少し驚く。


秀政は続けた。


「今すぐ伊勢に戻り、

 引っ越しが完了するまで……


 伊勢を頼むぞ!」


少し声を強める。


「桑名と長島は戦で荒れておる。


 お前達二人には

 その復興を命じる」


短く言った。


「今すぐ桑名へ発て」


政親と神崎が深く頭を下げる。


「は!承知しました。


 では早速、参ります」


二人はその場を辞し、

すぐに伊勢へ向かった。


偏諱を受けたばかりの政親は、

胸を張り、歩みに迷いがなかった。


その背には、

新たな責務を背負う者の気迫があった。



完全に政親と神崎の姿が見えなくなったのを確認してから、

秀政がゆっくりと口を開いた。


「うむ。今回はあの二人に、貧乏くじを引いてもらう」


少し肩をすくめる。


「ゆえに退場させた」


静かに政成が鋭い視線を向ける。

秀政はそれに気づかず、そのまま続ける。


「長島の復興は大変な事業だ。


 戦で荒れた田畑、崩れた堤、焼けた家々。

 それらを立て直すには、年単位の手間がかかろう」


秀政が笑う。


「まぁ、あの二人なら出来る」


軽く言う。


「だがまさに言葉の通り、

 犬馬の労が待ち受けておる。


 はっはっは。口は災いの元だな」


冗談めかした口調だった。


だが政成は、その意図を探ろうと考えこんだ。


秀政は一度、家臣たちを見回した。


「いや」


少し声を落とす。


「大事なことを、皆に伝える」


一拍置く。


「政親が居ると、ややこしくなる」


静かに続けた。

そこで初めて政成が複雑な表情をしていることに気付いた。


「ゆえに退場させたのだ。


 政成、心配するな。

 政親に危険なことを任せる訳ではない」


部屋の空気が、わずかに張り詰める。

秀政は真剣な顔に戻った。


「政親を桑名城代に任命する」


家臣たちの視線が集まる。


「桑名と長島の復興に専念させるのだ」


政成が不思議そうに首を傾げた。


「それでは――


 殿は、どちらへ本城を置かれるのですか?」


秀政は少し笑った。


(ふっ、この時代、北伊勢で本城に出来る城は、

 実質、桑名くらいしかない。


 だが……、


 俺はな、オリジナルの都市と城を作りたい。

 安濃津でもない。既存の城でもない。


 ゲームにも登場しない城だ。


 それを俺の本拠として――

 歴史に残る名城、大都市にしたい)


「新しく城、都市を作る」


一同がざわめく。


「場所は――

 白子湊のある鈴鹿郡だ」


皆が顔を見合わせる。


秀政は続けた。


「白子は浅瀬が多い。

 浚渫と防波堤が必要だが、

 白子水軍の湊を、

 桑名のような立派な湊にする」


指で地図を描くように言う。


「そして伊勢の中央に、

 俺の城を作る」


政成が顎を撫でながら呟いた。


「白子……鈴鹿郡ですか」


少し考える。


「確かにあの辺りは平野が広い。

 鈴鹿川もある。


 商業にも農業にも向く。

 山間には特産品も作れる。


 そして――

 水軍が常駐する湊もある」


政成がゆっくり頷いた。


「確かに良き地ですね」


秀政が笑う。


「その通りだ」


少し考える。


「差し詰め、城の名は……」


少しだけ焦らす。


「鈴鹿城だ」


(焦らす必要もなかった。

 郡名のままだ。

 芸がないが、響きが良い)


秀政は続ける。


「まずは一万貫の国費を使い、

 最低限の平城を築く。


 堀・土塁・櫓は後から拡張していく」


そして松之助を見る。


「もちろん千種屋にも協力してもらうぞ。


 政庁、代官所・蔵・兵舎・市場、住居は、真っ先に必要だ。

 千種屋の財と力を借りたい」


松之助が笑う。


「それはもう、お任せください。


 もし新都の利権を何かと頂けるのであれば、

 千貫でも二千貫でも出しますぞ。


 もちろん一流の大工もお貸しいたします」


「あぁ、頼むぞ」


そして、秀政が家臣たちを見渡す。


「家臣一同、皆――


 鈴鹿郡へ引っ越しじゃ」


秀政は少し黙った。


(そうだ、俺の違和感だ。

 政親と俺の家族は――

 遠ざけないといけない。


 先ほどの会話で分かった。

 世継ぎに固執しているのは政親本人だ。


 井口の討死に政親が噛んでいるとは思いたくもないが、

 万丸に関しては、

 政親は危険かもしれん。


 桑名は浅野に命じて、

 遠巻きに警戒だけはさせる。

 今はそれで十分だ。


 探りを入れると探られる。

 軽率な行動は避けたほうが良い。


 事が起こってから後悔だけはしたくない。

 こういう時の直感は大事にすべきだ。

 それがリスク管理だ。


 その政親が居ない鈴鹿で、

 万丸――長政と松丸を、

 あの二人を俺は、

 きちんと育てなければならない。


 その上で、最も良い形で後継を決める)


秀政は顔を上げた。


「これが政親を退出させた理由よ。

 この大事業から外せば、

 あいつは拗ねるからな。


 ははははっ」


政成が苦笑する。


秀政は内心を笑って誤魔化した。


再び真面目な顔に戻る。


「皆、良いな?」


家臣たちを見渡す。


「何もない平野に、


 城を作り、


 都市を作り、


 湊を作り、


 農地を開く」


ゆっくり言う。


「北畠は一年ほど放置だな」


少し笑う。


「もちろん浅野には最低限、出陣してもらうぞ。

 奴らが芋粥を舐めてもらっては困るからな。


 だが戦を後回しだ」


そして言い切った。


「これからは――


 内政ぞ!」


家臣たちが一斉に応じる。


「は!」


「浅野、殿より那古野の常備兵を、

 芋粥家臣として伊勢に連れていく許可をもらった。


 奴らは武田と戦える猛者だ。

 希望者は連れていきたい」


浅野が冷静に答えた。


「全員ついてきますよ。


 皆、謀玄・鬼備前に惚れてますから」


秀政は笑う。


「それはありがたい。

 鉄砲九十丁も持ち出して良いと許可をもらっている。


 軍備はそのまま持っていける。

 代わりの那古屋常備兵を新たに徴兵せよ。

 浅野任せるぞ」


「は!」


お悠がふと心配そうに呟く。


「伊勢にも兵が二千おりましたよね?

 那古野四千の扶持がそのまま伊勢に移動となると……。


 六千人分の常備兵ですか?


 えっと……。


 食糧・装備・家族扶持・兵站を含めると、

 一人当たり十石。


 六万石は必要です」


秀政が笑う。


「計算が早いな」


政成も続ける。


「滝川様から引き継いだ検地の帳票では、

 北伊勢は長島争乱で荒れ果てたこともあり、

 三万石だそうです」


「赤字だな。雇いきれんではないか」


「ですが、これは名目石高です。


 神崎の年貢帖は正確にまとめ上げております。

 これによると六万石はあります。


 また税帖によれば、北勢と違って伊勢中部は、

 殿の内政が効いていて商業や港収入が盛ん。


 湊税・市場税を含めると実収入で二万石相当あります。


 現在八万石といったところです」


秀政の目が大きく開かれた。


「おぉ。俺の惣奉行時代の内政は無駄ではなかったか。


 これなら六千も養える。


 この六千の兵は土木にも使える。

 長島、武田との戦いで、この兵どもは

 土木工事の経験も多い。

 開発もはかどる。


 そしてそういうのが得意な奴らが、

 俺の家臣には多い。


 義父殿、お悠、鈴鹿城立ち上げと鈴鹿郡開発の総責任者を、

 任せても良いか?」


「「はい、腕がなります!」」


父と娘が同時に叫んだ。


「よし、皆の者、今度こそ引っ越し準備だ」


「あ、弥八様。お待ち下さい」


「何だ?」


「先ほど六千の兵を養うのは六万石と申しました。


 それは一人十石の計算です。


 一人十石はかなり絞った扶持になります。


 弥八様に惚れて付いてきてくださる方々です。

 一年は耐えてくれるかも知れませんが、

 本来赤備えとも向き合う精鋭です。

 一人十五石、いえ二十石が妥当」


「つ、つまり?」


「この一年で石高を倍にしないと、

 養えません」


「……き、聞いたか?皆の衆。


 やる事は思った以上に多いぞ。


 引っ越しを急げ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最初から最新話まで読破しました。 主人公が歩んだ道、犠牲も大きかったけど、どう展開するのか見物です。
猿さんの出世がはやいなあ、そうすると嫁さん連中がまた違うパターンで増えて??逆に子だから恵まれコース?
才能のある野心家は、鎖で縛って手元に置くのが常道な気がしますが こころが耐えられなくなって遠ざけちゃいましたね。 視界の外に問題を押しやれば、見えなくなって万事解決、 というのであれば、どれだけこの世…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ