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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第七章 伊勢惣奉行編(躍進編)

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第百一話 政成の提案

豊川の戦いは、実質織田の勝利と言えた。


山県は撤退したが、

敵中ゆえ、ゆっくりしてもおられず、

芋粥軍も撤退準備を急いでいる。


野戦で戦死した芋粥兵の内、

名のある者だけ遺体を回収し、

その他の足軽は記録だけを残して、

連れてきた陣僧がその場で供養する。


城で焼死した者達も同様だ。


赤備えで討ち取った首は千を超えたが、

持ち帰れたのは、

その中でも組頭以上の名のある者の首のみであった。

甘利の首はその中でも格別の扱いである。

その他の首はその場で実検し、陣僧が供養した。


それだけでも大した手間になった。


撤退準備が整うとその日のうちに、

遠江から離れるべく出立した。



秀政は戦死者名簿を見て、深く息を吐いた。


「……多いな。

 武田の精鋭とぶつかって、

 これだけで済んだとも言えるが……。


 こいつらは、那古野を預かってから、

 ずっと俺を支えてくれた者たちだ」


政成が静かに頷く。


「組頭以上の五十余名には扶持米を継がせます。

 名のない者たちにも、

 香典米を出すよう手配しておきます」


「義父殿……助かる。

 ただの慰めかもしれぬが、

 それでも、何もしないよりは俺の気が少し楽になる」


「ところで殿、

 千五百貫余の出費は大殿にどうご説明なされますか?」


「ん?


 あぁ……嫌なことを思い出させる。

 これをやらねば、俺が死んだ。


 あれは“やらねば俺が死ぬ”策だった。


 山県の赤備えに正面から当たれば、

 九割九分、俺も兵も皆殺しだった。

 残りの一分に賭けたのが――

 あの千五百貫だ」


秀政が自分で自分を納得させるかのように、

顎に手を当てながら頷いた。


「勝って落ち着いてみれば……

 千五百貫の重みが骨身に染みる。


 殿は鉄砲に金を回せと言っておられるし、

 これは痛い出費だ。

 だが、あれをやらねば俺は今ここに生きて立ってはいない」


「確かに……」


「とは言うても、

 赤備え千を討つためだけに千五百貫だからな。


 説明がつかん」


秀政が困った顔をする。

勝利した将らしくない。


「そうですね」


政成が目を瞑って考え込む。



時を戻す。

出陣前夜、千種屋屋敷。


政成と松之助が座敷に座って、

今回の経費一覧を眺めている。


「松之助、此度はご苦労だった。

 ここまでの段取り、見事だ。


 もはやお前が千種屋の大旦那だ。


 わしの出番はないな」


「ありがとうございます。

 ですが、父上。


 私からしてみたら父上の背中が遠すぎて、

 夜ごと不安で眠れなくなりますよ。


 父上のように千種屋を守れるかと」


政成が嬉しそうに笑う。


「謙遜するな。

 もうお前は商人として父を超えたやもしれんぞ」


「まさか……」


松之助も笑う。


政成が微笑みながら静かに続けた。


「なぁ、松之助。


 これにかかった千五百貫余。


 千種屋が持て」


松之助が目を見開いて驚く。


「は?はぁ?!


 いえ、いくら父上の頼みとは言え、

 千五百貫も千種屋が代わりに持てば、

 家業が傾きまする」


「大げさにいうな。

 影響は大きかろうが、今の千種屋なら

 十分耐えうるだろう。


 もちろん只で千五百貫持てとは、

 この父も言わぬ」


「確かに今の千種屋なら耐えられはします。

 ですが、父上。

 よほどのものを代わりに頂かなければ、

 “はい”とは言えませぬよ」


「あぁ、よほどのものじゃ。

 わしはな。


 殿にお前の嫡男の松太郎(後の千種屋松之丞)と、

 お蘭の縁組を提案してみるつもりだ」


松之助が一瞬固まる。


「……。


 ……な、なんですと!?」


政成は淡々と続けた。


「確か松太郎は七つになったな。


 ちょうど良いではないか」


「それはそうですし、殿の蘭様をいただけるなら、

 千五百貫など安いものです。


 ですが、確か蘭様は松親が嫁に欲しいと、

 言ったとか?」


「そうじゃ、それだ。

 だからじゃ。


 松親は才はあるが、欲が深すぎる。

 芋粥家と千種家を食い潰しかねん。


 蘭を松親に娶らせるのは避けたい。


 わしの勘じゃが、芋粥と千種に害を及ぼす。


 最も避けるべき悪手だ。」


「しかし、私が蘭様を横取りしたとあらば……」


「今は殿も迷っておられる。

 だから一押しすれば大丈夫だ。


 千種屋は千五百貫も殿のために喜んで供出する。

 さらには鉄砲や火薬も扱う。


 これほどの力を持った商家だ。

 大殿は商人も侍も分け隔てなく、

 有能な者を優遇し、囲おうとする。


 殿から大殿へ千種屋との縁組の許可を願っていただくのだ。

 必ず成立する。


 大殿の命であれば松親も諦めがつく」


松之助が真剣な顔で口を開いた。


「……。

 分かりました。


 あまり政治には深入りしないことにします。

 この件、父上にお任せ致します。


 ですが、父上。

 私は蘭様を頂かなくても、芋粥を裏切ったりは致しませぬよ。

 こんな上客いませんからね、ははは」


「わかっておる。そういうお前だからこそ、

 殿にご提案できるのだ」


二人は黙って見つめあった。



政成は真剣な顔になって、秀政に提案した。


「殿、千五百貫に関して、ご提案があります」


「ん?」


「お蘭を……。


 お蘭を千種屋にいただきたいのです」


秀政が口を大きく開けて驚いた。


「……んあ?!

 なんじゃいきなり」


政成はお構いなしで続けた。


「お蘭を松親ではなく、

 千種屋松之助の嫡男、松太郎に頂きたいのです。


 さすれば松之助は今回の千五百貫を千種屋で持つと、

 申しております」


「いや、いきなり言われても頭が回らんわ!


 千五百貫を千種屋が持ってもらえるなら、

 それはそれで助かるが……。


 それに千種屋に嫁ぐなら、松親が言った通り、

 戦の犠牲にならん。人質にもならん。

 贅沢な暮らしが出来る。

 孫にも会いに行ける。


 なにより叔父と姪よりは、いとこ同士の方がましだ。


 しかも、確か松太郎は明や蘭とよく遊んでいて、

 三人は仲が良いとも聞いたな」


政成がいつも通り温和な笑みを返す。


「頭が回らんと仰る割りには、

 冷静に損得を見極めておられますね」


「いや、しかしだ。

 松親が納得するまい。

 お悠も何か思う所がありそうだったしな」


「お悠はこの私がしっかり説得致します。


 そして松親に関しては一つ案があります。


 殿から大殿へ千種屋との縁組の許可を願ってください」


「許可?」


「今や殿は織田家中でも、大殿の構想の中でも、

 重要な立ち位置におられます。


 縁組は家を繋ぐ大事。


 もはや軽くは出来ませぬ。


 ですが、芋粥と千種屋であれば大殿は喜んで、

 お許しいただけるはずです。


 何せ千種屋は鉄砲と火薬を商っておりますし、

 芋粥、織田のために千五百貫を出しますからな」


少し考えこむ秀政。


「……なるほど。

 殿を巻き込むか。

 松親には悪いが、蘭の幸せを考えると政成の案だな」


(千五百貫も千種屋に押し付けられるしな)


「よかろう、殿には相談してみる。

 お悠と松親の説得は頼むぞ」


「は!」


「よし!千五百貫の心配がなくなるならば、

 大いに気が晴れたぞ!


 さぁ、凱旋だ!


 お悠と子たちに会いたいなぁ!」


「はい!」


秀政と政成が笑顔で向き合った。

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― 新着の感想 ―
松親、 暴走して虫ケラのように堕ちるか どうせ死ぬなら陰腹切って、まさに芋粥が甘く見ている「血」を見せて諫言する程の覚悟があれば或いは
松親が暴走気味なのは義父殿も気づいていたか
1500貫、素直に対武田、赤備えの為の必要経費ですと報告したらノッブも納得しそうですが。 ここでヤラレっぱなしでなく戦って武田を退けた評判は何十倍も価値がありますから。 そして松親……芋粥にとって天…
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