インタビュー・ウィズ・ゴッド──最後の答え
もし神に会えるとしたら、私は何を尋ねるだろう。
そう考えたことは、きっと誰にでも一度はあるはずだ。
けれどもその日、私は本当に“神”と名乗る存在と対面することになった。
部屋は特別な光に包まれていたわけでも、雷鳴が轟いたわけでもない。
ただ静かな夕暮れの色が差し込み、私は机の向こうに座る“何か”を前にしていた。
姿形は人間のようだが、目の奥に広がる深さだけが明らかにこの世界のものではなかった。
「質問するといい」
神はそう言った。まるで今日が予定されていた出来事であるかのように。
■ 1. 「なぜ地球を作ったのか?」
私は一番根源的な問いをぶつけた。
「……まず聞きたい。なぜ、この地球を作ったのですか?」
神は机に落ちた光を指でなぞりながら答えた。
「世界は完成された作品ではなく、学ぶための場として作った。
魂は経験しなければ成熟しない。
美しさも醜さも、愛も憎しみも、すべては魂が深まるための教材だ。」
淡々と語るその言葉には、創造の喜びと同時に、長い観察者の疲れのようなものがにじんでいた。
「地球は、“試してみたい思いつき”ではなかった。
私は可能性を信じていた。
人が互いに学び合い、支え合い、進化していく未来を。」
神は一度だけ微笑んだように見えた。
「だが……それがどうなったか、君も知っているだろう?」
■ 2. 「なぜ犯罪が存在するのか?」
私は質問を続けた。
「では、なぜ犯罪があるのです? 苦しみがある? 争いが生まれる?」
神は短く息をついた。
「自由を与えたからだ。」
「自由?」
「そうだ。自由がなければ善行は“義務”になり、意味を失う。
人間が自らの意思で選んだときにのみ、善は価値を持つ。
しかし自由は、同時に“影”を生む。
欲を選ぶ者、傷つける者、奪う者……
それもまた自由の結果だ。」
神は続ける。
「私は人間が影を見て、光の意味を学ぶと信じていた。
だが、影に飲まれてしまう者があまりにも多かった。」
■ 3. 「なぜ死があるのか?」
「では……死は?
なぜ、人は死ななければならないのでしょう?」
神は静かにうなずいた。
「終わりがない人生は、意味が薄れる。
永遠に続く旅では、人は努力をやめ、感情は鈍化する。
死は罰ではなく、節目だ。
魂が一度、肉体の制約から離れ、学びを持ち帰るための扉だ。」
私は黙ってその言葉を聞いた。
死を恐れる私たち人間にとって、その説明は残酷でありながら救いでもあった。
■ 4. 「なぜ戦争はなくならないのか?」
「では最後に……なぜ、戦争は繰り返されるのですか?」
神の表情がわずかに曇った。
「恐れと欲。
それが人間の心から完全に消えることはなかった。
違いを理解するより先に、排除しようとする。
対話よりも攻撃を選ぶ。
歴史は長いが、人は同じ過ちを何度も繰り返した。」
それは神が語るというよりも、長い観察の末に積もった嘆きのようだった。
「私は干渉しすぎないようにした。
自ら気づき、成長することこそが人間の価値だからだ。
しかし……」
そこで言葉が途切れた。
私は思わず問い返した。
「……しかし?」
■ 5. 神が最後に語った“結論”
神はゆっくりと目を閉じ、そして静かに言った。
「人間は、私が期待したほど学ばなかった。」
淡々としているのに、その一言は雷のように響いた。
「戦争は増え、憎しみは循環し、文明は加速しながら精神は退化していった。
理解よりも対立を選び、協力よりも支配を選んだ。」
神の声は低く、どこか寂しげだった。
「私は時間を与えた。
機会も与えた。
言葉も、文化も、知恵も、痛みも、喜びも……
あらゆる道具を用意した。
それでも、人間は愚かさを克服できなかった。」
神は目を開け、まっすぐこちらを見た。
「人間は私が作ったものだ。
だから、ずっと見守り続けてきた。
可能性を信じ、変化を待ち続けた。
しかし……もう十分だ。」
その言葉に、背筋が冷たくなる。
「どういう……意味ですか?」
神は短く答えた。
「もう地球上から“人間”を削除する。」
その一言は、あまりにも静かで、あまりにも絶望的だった。
■ 6. “最終宣告”の重さ
世界は、終わるのだろうか。
私たちが積み上げてきた歴史も、文化も、感情も、記憶も──全て。
私は必死で言葉を探した。
「ま、待ってください……。
まだ希望は……人間には変われる可能性が……」
神は首を振った。その動作は決定的だった。
「君自身も理解しているはずだ。
希望は常にあった。
だが実行されたことはほとんどなかった。」
反論はできなかった。
私たちはあまりにも多くの機会を無駄にしてきた。
「最後に、人間へ伝える言葉はありますか?」
私は絞り出すように尋ねた。
神は一瞬だけ考えた後、こう答えた。
「……人間よ。
私はお前たちを愛していた。
しかし愛は、盲目的に全てを許すことではない。
学ぶ力を持ちながら、それを捨て続けた責任は取らなければならない。
人間はこの世界で、多くを得、多くを壊し、多くを学び損ねた。
それが結末だ。」
そして神は最後に、静かに告げた。
「さようなら、人間。
時間は十分に与えた。
お前たちは、自らの未来を選ばなかった。
だから今度は、私が選ぶ番だ。」
そう言うと神の姿はふっとかき消え、部屋には夕暮れの光だけが残った。
その光は美しく、温かかった。
しかし私の心には、世界の終わりの宣告だけが重く響いていた。
■ 結び
もしこれが神の最終宣言なら──
私たちはどこで道を誤ったのだろうか。
いや、本当は分かっている。
分かっていたのに、何も変えようとしなかった。
その結果が、今ここに突きつけられているだけなのだ。
神の言葉は冷酷ではなかった。
むしろ正直すぎた。
“愛していた”と言いながら、最後には切り捨てる。
その矛盾こそが、長い歴史を見続けた神の答えだったのだろう。
その日以来、私は人間という存在を改めて見つめ直している。
もし本当に削除されるなら、せめて最後の瞬間まで“学ぼうとする姿勢”だけは失わずにいたい。
神に見放されたとしても、自分たち自身を見放すわけにはいかない。
世界が終わるかどうかは──
もしかしたら、まだ決まっていないのかもしれない。




