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インタビュー・ウィズ・ゴッド──最後の答え

作者: 森の ゆう
掲載日:2025/12/12

もし神に会えるとしたら、私は何を尋ねるだろう。

 そう考えたことは、きっと誰にでも一度はあるはずだ。

 けれどもその日、私は本当に“神”と名乗る存在と対面することになった。

 部屋は特別な光に包まれていたわけでも、雷鳴が轟いたわけでもない。

 ただ静かな夕暮れの色が差し込み、私は机の向こうに座る“何か”を前にしていた。

 姿形は人間のようだが、目の奥に広がる深さだけが明らかにこの世界のものではなかった。


「質問するといい」

 神はそう言った。まるで今日が予定されていた出来事であるかのように。


■ 1. 「なぜ地球を作ったのか?」


 私は一番根源的な問いをぶつけた。

「……まず聞きたい。なぜ、この地球を作ったのですか?」


 神は机に落ちた光を指でなぞりながら答えた。


「世界は完成された作品ではなく、学ぶための場として作った。

 魂は経験しなければ成熟しない。

 美しさも醜さも、愛も憎しみも、すべては魂が深まるための教材だ。」


 淡々と語るその言葉には、創造の喜びと同時に、長い観察者の疲れのようなものがにじんでいた。


「地球は、“試してみたい思いつき”ではなかった。

 私は可能性を信じていた。

 人が互いに学び合い、支え合い、進化していく未来を。」


 神は一度だけ微笑んだように見えた。


「だが……それがどうなったか、君も知っているだろう?」


■ 2. 「なぜ犯罪が存在するのか?」


 私は質問を続けた。

「では、なぜ犯罪があるのです? 苦しみがある? 争いが生まれる?」


 神は短く息をついた。


「自由を与えたからだ。」


「自由?」

「そうだ。自由がなければ善行は“義務”になり、意味を失う。

 人間が自らの意思で選んだときにのみ、善は価値を持つ。

 しかし自由は、同時に“影”を生む。

 欲を選ぶ者、傷つける者、奪う者……

 それもまた自由の結果だ。」


 神は続ける。


「私は人間が影を見て、光の意味を学ぶと信じていた。

 だが、影に飲まれてしまう者があまりにも多かった。」


■ 3. 「なぜ死があるのか?」


「では……死は?

 なぜ、人は死ななければならないのでしょう?」


 神は静かにうなずいた。


「終わりがない人生は、意味が薄れる。

 永遠に続く旅では、人は努力をやめ、感情は鈍化する。

 死は罰ではなく、節目だ。

 魂が一度、肉体の制約から離れ、学びを持ち帰るための扉だ。」


 私は黙ってその言葉を聞いた。

 死を恐れる私たち人間にとって、その説明は残酷でありながら救いでもあった。


■ 4. 「なぜ戦争はなくならないのか?」


「では最後に……なぜ、戦争は繰り返されるのですか?」


 神の表情がわずかに曇った。


「恐れと欲。

 それが人間の心から完全に消えることはなかった。

 違いを理解するより先に、排除しようとする。

 対話よりも攻撃を選ぶ。

 歴史は長いが、人は同じ過ちを何度も繰り返した。」


 それは神が語るというよりも、長い観察の末に積もった嘆きのようだった。


「私は干渉しすぎないようにした。

 自ら気づき、成長することこそが人間の価値だからだ。

 しかし……」


 そこで言葉が途切れた。

 私は思わず問い返した。


「……しかし?」


■ 5. 神が最後に語った“結論”


 神はゆっくりと目を閉じ、そして静かに言った。


「人間は、私が期待したほど学ばなかった。」


 淡々としているのに、その一言は雷のように響いた。


「戦争は増え、憎しみは循環し、文明は加速しながら精神は退化していった。

 理解よりも対立を選び、協力よりも支配を選んだ。」


 神の声は低く、どこか寂しげだった。


「私は時間を与えた。

 機会も与えた。

 言葉も、文化も、知恵も、痛みも、喜びも……

 あらゆる道具を用意した。

 それでも、人間は愚かさを克服できなかった。」


 神は目を開け、まっすぐこちらを見た。


「人間は私が作ったものだ。

 だから、ずっと見守り続けてきた。

 可能性を信じ、変化を待ち続けた。

 しかし……もう十分だ。」


 その言葉に、背筋が冷たくなる。


「どういう……意味ですか?」


 神は短く答えた。


「もう地球上から“人間”を削除する。」


 その一言は、あまりにも静かで、あまりにも絶望的だった。


■ 6. “最終宣告”の重さ


 世界は、終わるのだろうか。

 私たちが積み上げてきた歴史も、文化も、感情も、記憶も──全て。


 私は必死で言葉を探した。


「ま、待ってください……。

 まだ希望は……人間には変われる可能性が……」


 神は首を振った。その動作は決定的だった。


「君自身も理解しているはずだ。

 希望は常にあった。

 だが実行されたことはほとんどなかった。」


 反論はできなかった。

 私たちはあまりにも多くの機会を無駄にしてきた。


「最後に、人間へ伝える言葉はありますか?」


 私は絞り出すように尋ねた。

 神は一瞬だけ考えた後、こう答えた。


「……人間よ。

 私はお前たちを愛していた。

 しかし愛は、盲目的に全てを許すことではない。

 学ぶ力を持ちながら、それを捨て続けた責任は取らなければならない。

 人間はこの世界で、多くを得、多くを壊し、多くを学び損ねた。

 それが結末だ。」


 そして神は最後に、静かに告げた。


「さようなら、人間。

 時間は十分に与えた。

 お前たちは、自らの未来を選ばなかった。

 だから今度は、私が選ぶ番だ。」


 そう言うと神の姿はふっとかき消え、部屋には夕暮れの光だけが残った。

 その光は美しく、温かかった。

 しかし私の心には、世界の終わりの宣告だけが重く響いていた。


■ 結び


 もしこれが神の最終宣言なら──

 私たちはどこで道を誤ったのだろうか。

 いや、本当は分かっている。

 分かっていたのに、何も変えようとしなかった。

 その結果が、今ここに突きつけられているだけなのだ。


 神の言葉は冷酷ではなかった。

 むしろ正直すぎた。

 “愛していた”と言いながら、最後には切り捨てる。

 その矛盾こそが、長い歴史を見続けた神の答えだったのだろう。


 その日以来、私は人間という存在を改めて見つめ直している。

 もし本当に削除されるなら、せめて最後の瞬間まで“学ぼうとする姿勢”だけは失わずにいたい。

 神に見放されたとしても、自分たち自身を見放すわけにはいかない。


 世界が終わるかどうかは──

 もしかしたら、まだ決まっていないのかもしれない。

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