表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドンと恋!〜 私たちのStarting Block 〜インターハイで日本新記録を出したら表彰台で公開告白されました。  作者: 空知美英
1章:新生・白波女子学園水泳部!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/62

第6話「春季大会前夜ミーティング」

 白波女子学園・水泳部部室。

 時計の針が午後五時を指すと同時に、部員たちが一斉に顔を上げた。

 美紗顧問がホワイトボードをトントンと叩く。


「いよいよ明日から春季大会だ。各自、コンディションチェック終わってるな?」

「「 はいっ! 」」


 部員たちの元気な返事の波が響く。

 明日香は机の上にバッと立ち上がり、「白波魂いれてくよー!」と拳を突き上げるが、そのまま玲奈に首根っこを掴まれ、椅子に強制着席させられる。


「机の上は立つ場所じゃないのよ。わかった?」

「すいませんでしたー、玲奈先生ー」


 明日香のいい加減な謝罪で玲奈が声が上げそうになるが、千尋が静めてミーティングは続く。


「さて、今回の遠征は全員じゃなくて代表組だけだ。高等部Sチーム3名、Aチームが18名、中等部が16名。宿泊は三泊四日、バス移動。マネージャー組については、篠原、お前に任せる」

「はい」


 玲奈が即答する。

 その声のキレは、まるで軍人レベルだった。

 美沙顧問が続ける。


「明日の出発は朝五時半。遅刻者は“イエロー二枚”、即・レッド扱いにする。いいな?」

「「 はぁーい 」」


 イエロー二枚——これはいわば違反カードが二枚ということ。いまや白波の風物詩。

 忘れ物やルール違反をわかりやすく管理する“マネージャー裁定システム”である。

 玲奈が1年生の時に提案したシステムで、そのおかげか今では遅刻者もゼロ。

 イエローカード二枚でレッド一枚。とくに罰則は設けられてはいないが、素行の判断材料にもなるので教員たちには好評だった。

 このカードを受けた部員はほとんどいない。一部を除いて——。


「……そういえば玲奈。明日香はいま何枚目?」


 千尋の質問に、玲奈がノートを開き、千尋の顔の前にバッと広げる。


「イエロー29枚よ」

「レッド14回分!? 不良レベル!?」


 千尋の驚きをよそに、部員たちは爆笑する。

 明日香は異議ありとばかりに立ち上がり、手を勢いよく挙げる。


「それは誤解! イエローの数は千尋への愛の証なの!」

「規定に愛は存在しないのよ」

「じゃあラブラブ度とか!」

「なし」

「ぐっ、この堅物が……!」


 笑いが止まらない。

 千尋が「まぁまぁ」と割って入り、明日香の手を引く。


「玲奈に反論しても勝てないよ。それにさ……イエローカードもらう時ってだいたい私がらみだから、その気持ちは嬉しいよ。伝わってるから、まずは座って」

「伝わってるならいいよ。30枚いったらご褒美くれる?」

「状況によってね」


 座り直した明日香と千尋が二人の世界に入る寸前、顧問が小さく咳払いして場を戻す。


「でだ、スケジュール表は篠原が作ってくれた。移動時間、宿舎、部屋割り、試合ごとの担当、全部完璧にそろってる。各自、よく確認しておくように」


 顧問の手から冊子の束が順に回され、全員の手に行き渡る。

 千尋は何ページか確認すると、感嘆の息をはく。


「さすが玲奈だね。去年よりわかりやすくなってる。ありがと」

「当然。私のマネジメント能力は日々上がってるのよ。千尋のためにね」

「すごいね。でもそこは私のためじゃなくて部のためにしといて。独占したらもったいないし、玲奈はこの部の支柱なんだから」

「あ、そ、そうね。部のため、部のために頑張るわ」

「うん、ありがと」

「ツンデレ」

「黙りなさい、この淫獣」


 千尋はそのやり取りが聞こえていないのか、次々とページをめくり、内容を確認していく。

 そして、リレーメンバーのページで指が止まる。


「……ねえ、玲奈」

「なに?」

「リレー走順、私がアンカーでいいの?」

「当然でしょ。千尋以外にいないじゃない」

「このメンバーだと、私が三人目で、明日香をアンカーにしたほうが……」

「ダメよ。明日香は“前菜担当”だから」

「私が前菜!? つーか、担当ってなにさ!?」

「当然でしょ。あんたは前菜、千尋はメインディッシュ。効率的にも雰囲気的にも最適なのよ。あなたにしか前菜は任せられないから期待してるわよ、前菜担当」

「バカにしてない!?」


 部室内が再び笑いに包まれる。

 美沙顧問も口元を緩め、3人のやり取りを見てそっと頷き、口を開く。


「うん、いいチームだ。笑って遠征に出られるのは強い証拠だぞ。朝倉にも篠原にも期待してる」


 明日香と玲奈が同時に「ありがとうございます!」と頭を下げる。

 美沙顧問はそれを受けて全員を見渡し、部室全体にも檄を飛ばすのだった。


 ***


 ミーティング後。

 部室には千尋と玲奈だけが残っていた。

 部室を閉める前の最終チェック。それぞれに部室内を確認し、問題がないことを確認する。

 そして終わったころ、千尋がふと声をかける。


「玲奈、いつもごめんね。全部任せっぱなしで」

「みんなが泳ぐことに集中できるようにするのが私の仕事だから」

「うん、ありがと」


 短く、真面目な返事。

 ほんの一拍、静かな間が生まれた。


「……明日香とのデート」

「え?」

「昨日の白波ストリートでのツーショット、また写真撮られてる。見てないの?」

「あ、ファンクラブのSNS?」

「また噂になってるのよ、“公式カップル”って」

「そっか……全然気がつかなかったよ」

「バカ明日香だけカメラ目線なのが腹立つ」

「明日香って勘がするどいからね。いつも最初に気付くのは明日香だし」

「そうね。そして見せつけるようにあーんしたり、腕くんだり、キスしたり……ずいぶんと楽しいデートだったようね」


 千尋は少し照れたように笑う。


「うん、まぁ……私としてはデートっていうより、気分転換だったんだけどね」

「あれで気分転換……なら、私も——」


 玲奈はつぶやくように漏らすが言い切らず、視線を切って静かにバッグを持つ。

 しかしその瞳には、わずかに期待の色が宿っていた。

 そして千尋もバックを肩にかけ、出口に向かう。

 扉を開けると外に明日香が待っており、待ちかねたように腕を組む。

 明日香を見つめるうれしそうな千尋の横顔に、玲奈は小さく息をのんだ。


(――私にも、そんな笑顔を——)


 声には出さなかった。

 そして千尋が振り返り、その笑顔を玲奈にも向ける。


「ち、千尋——?」

「どうしたの、玲奈。帰ろうよ」

「あ、そうね。うん、異常なし。電気を消して——うん、これでOK」


 玲奈がバタバタとして外に出ると、千尋は部室の鍵を閉める。


「よし、施錠確認。いこ」

「ええ」

「寂しかったよー、千尋ー」


 腕をからめてじゃれつく明日香にイラッとした玲奈は、明日香に体当たりをかます。


「なにすんの!?」

「なんかムカついた」

「ふんっ。ここは絶対に譲らないから」


 千尋の腕をさらにぎゅっと抱きしめ、明日香は自分の指定席をアピールする。


「この——っ!」

「明日香がごめん。玲奈も、ほら」

「え?」


 千尋は空いてる手を玲奈に伸ばす。


「……いいの?」

「もちろん。みんなで手をつないで帰ろうよ。明日から遠征だし、団結強化ってことで」

「あ、団結、ね。うん、団結強化は必要よね」


 玲奈は出された手をぎゅっと握り、千尋のとなりに立つ。


「ツンデレも度が過ぎると婚期を逃すぞ」

「うっさい」


 千尋たちは笑いながら手をつなぎ、3人で帰寮したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ