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ドンと恋!〜 私たちのStarting Block 〜インターハイで日本新記録を出したら表彰台で公開告白されました。  作者: 空知美英
1章:新生・白波女子学園水泳部!

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第5話「公式カップルデート」

「午後はオフにしなさい! 以上、解散!」

「「 はい! 」」


 美紗先生の一声で、白波プールに元気の良い返事と歓声が響いた。

 水しぶきの代わりに上がる「やったー!」の声。

 いつもなら日が沈むまで響くホイッスルが、今は全く聞こえない。


「午後オフなんて珍しい。玲奈が?」

「提案はしたけど、美沙先生はすでに組んでたわ」

「そっか。でも、ありがと」

「それがマネージャーの仕事だし」


 玲奈は他のマネージャーと一緒に部員たちにタオルを配り始める。

 白波水泳部は高等部90名、中等部60名、計150名の大所帯。当然、管理するマネージャーも多くいる。

 そんなバタバタを尻目に、明日香が目を輝かせて飛び跳ね、千尋の腕に絡みつく。


「ねえねえ千尋! 街行こ! スイーツ巡り!」

「急に全力だね」

「最近は追い込みもきつかったし、息抜きデートぐらいしよー」


 その発言に眉をひそめた玲奈が口をはさむ。


「オフでもバカップルは禁止だからね」

「えぇ〜。それって職権乱用じゃないのー」

「あのルールはどこでも有効。チーフマネージャー権限よ」

「なら、こっちは副部長権限であのルールは外では無効にする」

「それじゃ、私は部長権限で有効かな」


 明日香がキョトンとする。


「は? マジで言ってる、千尋?」

「うん、大マジ」

「ふっ、2対1ね。外でもルールは有効よ、明日香」

「したくないの、千尋?」

「明日香がしたいならしてあげたいけど、玲奈も大切な友達。私たちを心配してあのルールを作ってくれたんだから素直に従っておこう、ね」

「……千尋は素直すぎんよ。あんな暴走ツンデレを信じるなんて」

「誰が暴走ツンデレよ。ほら、決定したんだからさっさと拭いて着替えなさい」

「ういー」


 明日香は自分の体をささっと拭く。

 そして千尋の手伝いをするフリをして、バレなようにいちゃつきをするのだった。

 しかし、黄色い歓声と玲奈の怒りが飛んでいたのは言うまでもない。


 ***


 千尋と明日香が校門を出ると、そこにはショッピングモールが広がっていた。

 白波女子学園のプールは世界大会も開かれるほどの最高水準。学園周辺は世界中から集まる選手や観客むけに開発された観光特区で、通称「白波ストリート」。

 食事処、カフェ、アパレル、スイーツ店がずらりと並ぶその光景は、まさに小さな原宿だった。

 二人は外出用の制服を着ている。

 標準の制服より露出が少なく、スカート丈が長い制服だ。


「あー、久しぶりの空気。学校と寮とプールの往復の日々からやっと開放されたね−」

「私はプールの方が落ち着くし、水があった方が気持ちいいけどね」

「千尋は水の女神なの?」

「どうだろうね。前世は魚だったとか?」

「ありえそー。マグロとか」

「泳ぎ続けないと死ぬんだっけ? まあ、そう言われればそんな気もするね」

「美味しそうなマグロだったんだよ。きっと10億円ぐらい」

「あはは、ずいぶん高いね」

「で、超高級料亭で出された。その功績が認められて人間として生まれ変わったんだよ」

「そうなのかなー」

「うん、そう。絶対に巨大マグロだった。海の主」

「主って……」

「だってめっちゃ背ぇ高いじゃん。182だっけ?」

「83になったよ」

「くうぅ〜、この高身長イケジョめ。10センチぐらいちょうだい。そうすればもっとタイムが伸びそう」

「上げられるなら上げたいけどね。子供の頃は男子に間違われたり、いじめられたりもしたから」

「ま、いいっしょ。今は女子校にいるし、水泳選手としては高身長は武器になるんだから」

「うん、そうだね」

「私的にも、彼女が高身長イケジョだと嬉しいしー」


 明日香は千尋の腕に絡みつき、胸に腕をはさんで密着する。


「……ルールは?」

「これは抱きつきじゃなくて腕組み。ルール外」

「そう?」

「そう。ほら、早く行こう。まずはあのクレープ屋!」

「はいはい」


 二人は全く別々のクレープをカップル割で購入し、ベンチで食べさせあったのだった。


 ***


 そのころ、寮では——。


「……まったく。キャプテンも副キャプテンも、オフだからって緩みすぎ……」


 玲奈はノートPCを閉じ、ひとりで寮の部屋を出た。

 廊下を歩くたび、あちこちから楽しそうな笑い声や筋トレの掛け声が聞こえてくる。


(今ごろあの二人、イチャイチャしてるんだろうな……)


 長いため息をついたとき、ふとすれ違った一年生が声をかけてくる。


「あれ? 篠原先輩、デートに行かなかったんですか?」

「……誰と?」

「え、堂島先輩とですよ」

「……お風呂掃除とトイレ掃除でもしたいの?」

「す、すみませんでした!」


 一年生は足早に逃げ去った。

 玲奈はほんの少し笑い、口をぎゅっと結び、窓の外を見る。

 その向こうには、春の陽気の中、腕組みをして笑う二人が見えるような気がした。


 ***


 スイーツ巡りの帰り道。

 夕焼けが街をオレンジ色に染めている。


「ねぇ千尋、来月はもう予選だね」

「うん。早いね」

「絶対勝とうね」

「もちろん」

「負けたら泣くからね」

「明日香が負けたら私も泣くよ」

「あー、お互いに負けられないね」

「うん」


 絡み合う腕に力が入り、さらに身を寄せ合う。


「ま、白波の副キャプテンの看板を背負ってるし、負けられないんだけどね」

「私はキャプテンだしね。みんなに無様な試合は見せられないよ」

「千尋が無様な試合をするって? ないない。前のインハイよりタイムめっちゃ伸びてるじゃん」

「タイムはね。でも——」

「試合には相手がいて、空気が敵だって言いたいんでしょ? 耳タコでーす」

「うん。練習通りにいかないのが試合だよ」

「それでも千尋は勝つと思うけどねー。ちょっと前に日本記録更新してるし」

「練習でね」

「プールはプール、同じ泳ぎをするだけだって。気楽に考えようよ」

「明日香がそう言うなら……。でも、そうだよね。いつもの泳ぎをするだけ」

「そうそう」

「ありがと、明日香」

「うん」


 校門が見え始めたところで二人は軽く抱き合い、唇を重ねる。

 そして、夕日に染まる校門から二人を見つめる一つの視線。

 その瞳にはうっすらと涙がにじみ、口はわずかにゆがんでいるのだった。


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