第50話「次の波へ向かって——」
関東大会への移動日。
午前中に出発した白波女子学園水泳部を乗せた大型バスは、夏の陽光が降り注ぐ海岸線を快走していた。
明日の決戦に備えて会場近くの宿舎へと向かう車内には、程よい緊張感と、それを上回る遠足のような高揚感が満ちている。
昨夜の決起集会で一つになったチームの士気は、一夜明けても冷めるどころか、太陽と共にさらに熱を帯びているようだった。
そんなバスの後方座席。
そこにはチームの中心であり、新たな関係を歩み始めた三人の姿があった。
「「じゃん、けん——」」
二人の真剣な声が社内に響く。
「「ぽん!」」
パーが重なる。
「くっ、またあいこ!」
「相変わらずしつこい……」
千尋を真ん中にして座る明日香と玲奈が、真剣な表情で拳を突き出し合っていた。
これは二人だけの、千尋を巡る静かなる戦いだった。
「なんでじゃんけんしてるの……」
千尋が呆れたように尋ねる。
「なんでって、決まってんじゃん!」
「?」
「着くまで約1時間。その間の『千尋の肩』を独占する権利を賭けた神聖な勝負!」
「そうよ。明日の決戦に備えて英気を養うためにも必要不可欠だもの」
千尋を挟んで火花が散る。二人は一歩も引かない。
昨夜の決起集会で見せた『リーダーたち』としての顔とは打って変わって、今は完全に『恋人』としての顔だった。
「「じゃん、けん——ぽん!」」
チョキとパーが交差する。
「あーっ! 負けたー!!」
「勝ったわ! 日頃の行いの差ね!」
チョキを出した玲奈が勝ち誇ったように眼を光らせ、パーを出した明日香はがっくりと項垂れる。
「うぅ……千尋の肩がぁぁぁ……」
「残念だったわね、千尋の肩は私が頂くわ。明日香は寄りかかるのも禁止」
玲奈は嬉しそうに千尋の腕に手を回してその肩に頭を預けようとする。
だが、その時——。
「二人とも子供じゃないんだから」
千尋が苦笑しながら左右の二人を抱き寄せる。
「「えっ?」」
千尋は明日香の頭を自分の左肩に、そして玲奈の頭を右肩に乗せた。
「二人ともチームの一員だし、大切な人。肩は2カ所あるんだし、どっちかだけなんて言いっこなし。ね?」
「「千尋……」」
二人は顔を見合わせ、そして同時に頬を染めた。
ジャンケンの勝敗なんて関係ない。千尋はいつだって、二人を平等に、そして大切に包み込んでくれる。
「やっぱり千尋は千尋だねー」
「悔しいけど、今が一番心地いいわ……」
明日香と玲奈は心地よい降伏宣言と共に千尋の体温に身を委ね、千尋もまた、二人の重みと温もりを両肩に感じながら、窓の外へと視線を向ける。
その様子を、前の座席からこっそりと覗き見ている影があった。
次期キャプテン候補の2年生・藤原詩織と、一年生マネージャー・水瀬美羽だ。
「……あの三人は特別、か……」
「はい。見てるだけで幸せな気持ちになります。いいなぁ……」
二人は顔を見合わせ、微笑ましそうに頷き合う。
キャプテンと副キャプテンとチーフマネジャーによる最強のトライアングル。
その絆は、すでにチーム全体を支える大きな柱となっていた。
窓の外にはキラキラと輝く夏の海が広がっている。
都予選での嵐のような日々を越え、彼女たちは今、新しい海へと漕ぎ出そうとしていた。
「……いよいよ、明日だね」
到着が近くなってきた頃、千尋が独り言のように呟く。
その声に、肩に寄りかかっていた二人が反応する。
「見せてやろうよ、私たちの真の泳ぎってやつをさ」
「私たちの——白波の強さを証明しましょう」
三人は顔を上げて見つめ合い、手を握り合う。
そこにはもう、迷いも不安もない。あるのは、揺るぎない信頼と、勝利への渇望だけ。
バスがトンネルを抜けると視界が開ける。
遠くには関東大会が開かれる『東京ベイサイド・アクアティクスセンター』が夏の日差しを浴びて白く輝いていた。
恋も勝利もドンとこい——。
たくさんの想いを巻き込んで突き進む、白波の新しい夏の開幕だ!
【 完 】
最後まで愛読いただき、ありがとうございました。
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どこかのジャ○プ作品でみたような、ボケの連続と鋭いツッコミを目指して描いてますので、アレが好きな方ならきっと一度は笑えると思います!
漫画のようなテンポのギャグラノベを書いてみたい……そんな思いつきで書き始めた迷作です。
無双もスキルも恋愛も——全部がギャグのスパイス!
たぶん今ままでのラノベでは味わえなかった読み心地が味わえますので、是非一度ご賞味下さい!
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