表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドンと恋!〜 私たちのStarting Block 〜インターハイで日本新記録を出したら表彰台で公開告白されました。  作者: 空知美英
1章:新生・白波女子学園水泳部!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/62

第4話「ファンクラブ騒動!」

 白波女子学園・水泳部部室。

 顔を出したばかりの太陽の光が窓から差し込み、明かりを付ける前の部室をうっすらと照らしていた。

 朝練のために一番乗りをしたのは、千尋と明日香、そしてチーフマネージャーの玲奈。


「なによ、これ……」


 玲奈は部室のドアを開けた瞬間、息を呑む。

 本来はベンチや机、ロッカーやホワイトボードしかない、玲奈が整えた実用的な部室。しかし目の前の机には、色とりどりの花束、ぬいぐるみ、箱詰めのスイーツが山積みされていた。


「ファンクラブからの差し入れでーす!」

「は?」

「堂島先輩の自己新のお祝いでーす!」


 段ボールを抱えた下級生たちが次々と入ってくる。

 それぞれの腕には、ファンクラブの腕章がしっかり留められていた。


「まだまだ増えそーだねー」

「油断してたわ。昨日はなにもなかったから……」

「昨日は買い出し期間だったらしいからねー」

「は?」

「ほらこれ、千尋が自己新とった夜に配られてたやつ」


 明日香はそう言うと、バッグから一枚の紙を取り出す。

 そこに書かれていたのは『号外』の文字と『堂島先輩ついに1:56:11!』の文字。ようはファンクラブの号外で、千尋の自己新を讃えるための記事だった。

 そして記事の最後には大きく『これを記念して、水泳部に差し入れを行います! 寄付金や品物の持ち込み大歓迎! 締め切りは本日23:59まで!』と書かれていた。


「当日に集めて、昨日整理して、今につながってるわけね……」

「そだね」

「で、明日香はどうして黙ってたわけ? こんなにごちゃごちゃしてたら練習に支障があるでしょ」

「千尋のお祝いを私が止めるわけないっしょ。あ、てっぺんのクッキー缶は私が寄付したやつだ」


 明日香は誇らしげに、山の頂点にあるクッキー缶を指さす。

 クッキー缶も朝日を照らし、実に誇らしそうだった。


「ふっ……」


 玲奈は鼻で笑うとそのクッキー缶を両手で持ち、天高く持ち上げる。

 その缶の眼下には、贈り主の頭があった。


「バカァァァーーー!!」

「いだぁぁぁあああーーー!!」


 部室に鈍い音がひびき渡り、贈答用のクッキー缶は見事に凹んだのだった。


「バカバカバカ、バカ明日香! あんた仮にも副部長でしょ!? 部活を優先しなさいよ! どうすんのよこの山! 邪魔なのよ! キィィィーーー!!」


 玲奈は凹んだクッキー缶を振り回し、虚無にむかって発狂していた。


「アタタタタ……ツンデレからバーサーカーにクラスチェンジでもしたか……」

「これは明日香が悪いんじゃないかな? 部室の鍵開けたの明日香でしょ?」

「千尋たちが起きる前に連絡もらってさ、ちょちょっと」

「いつもなら笑って全部受け取るんだけど、この量はちょっとアレだからさ、悪いけどちょっと持ち帰ってもらうよ」

  

 千尋はバタバタと走り回るファンクラブの一人を捕まえて、少し持って帰るようにお願いをする。


「堂島先輩がそういうなら……。でも——!」

「うん、気持ちは受け取ったよ。ありがとう。これでいい?」

「ほえ?」


 千尋は一人一人を抱きしめて頭をなで、おでこにキスをして感謝を述べる。

 効果は抜群だった。

 数秒の失神から蘇った彼女たちは、引っ越し屋顔負けの速度で贈答品を片付け始める。

 すぐに部室は綺麗になった。

 残るのは適量の贈答品と、我を忘れて暴走する玲奈だけ。千尋はスキを見て玲奈を強く抱きしめ、耳元で優しく囁く。


「玲奈」

「!?」

「大丈夫。ほら、もう綺麗になったから。もう大丈夫、大丈夫だから」

「ち、千尋……」


 一瞬で我に返った玲奈は、クッキー缶を手放し、千尋の背中に手を回そうとする。


「千尋、私は——」

「5秒ルール発動! 必殺! 別れのストリームライン!」


 千尋と玲奈を包む淡い水玉は、明日香の入水によって綺麗に分断される。

 玲奈は恨めしそうに明日香を見るが、明日香の目には玲奈が映っていなかった。


「ど、どうしたの、明日香?」

「バカップル禁止令!」

「あ、抱きつきは5秒とかいう……」

「そう! 8秒も抱きついてた!」

「いや、今の場合は仕方ないんじゃないのか?」

「だから——!」


 明日香はむりやり千尋の唇を奪い、ぐっと身体を密着させる。


「んー!?」

「……はっ! バカップル禁止令! キスは1秒よ!」


 今度は玲奈によって二人は引き離される。


「いいじゃん! 先にルール破ったのは玲奈のほうじゃん!」

「アレは抱きつきじゃなくて慰め、ノーカンよ! 明日香はモロでしょ!」

「じゃあ私もキスじゃなくて慰め! ものすっごく傷ついた!」

「なにが慰めよ!」

「そっちこそ!」


 明日香と玲奈はガシッと組み合い、グギギギという音が聞こえてきそうな姿勢になる。


「あー、私のせい、かな?」


 千尋はよく分かっていなかった。だから——。


「二人とも、ごめん。これで許して」


 組み合っている二人をまとめて抱きしめ、二人の頬に軽くキスをする。


「「 …… 」」


 明日香と玲奈はスッと離れる。

 まるで、感情が抜け落ちたような動きで。


「大丈夫? 明日香? 玲奈?」

「「 大丈夫 」」


 二人の声が重なった。

 明日香と玲奈は目を丸くして見つめ合う。

 そして、戦場を生き抜いた兵士のように固い握手を交わし、表情に色が戻ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ