第47話「ベッドの中の女子会(仮)」
「……キングサイズのベッドが欲しい」
「無理に決まってるじゃない。明日香がダイエットすればいいだけよ」
「私の体脂肪率はベストコンディションなんですけどー? そっちが無駄にでかい胸を引っ込めればじゃん」
「無理ね。千尋が好きな『大きさ』だから」
「淫獣」
「どっちがよ」
消灯時間を過ぎた寮の部屋。
シングルベッドの上は、物理的な限界を迎えていた。
千尋を中心に、右に明日香、左に玲奈が川の字に横たわる。
三人の女子高生だけでもギリギリなのに、全員がアスリート体型。当然、密着度は100%を超える。
「まあまあ、二人とも。くっついてると温かいし、いいじゃない」
千尋は両腕を広げて二人の腕枕になっていた。
重いし、暑い。しかし、それ以上に愛おしさが勝り、落ち着いた後は自然とこうなるが三人の定番だった。
「それで、今日はなに?」
千尋が問いかけると、明日香が千尋のパジャマのボタンをいじりながら口を開く。
「昼間の部活でさ、後輩たちが千尋に群がってたじゃん?」
「だね。最近は特に」
「私たちがすぐ追っぱらた訳だけど、千尋って天然だし、ぐいぐいこれらたら落ちそうな気がするんだよね」
「そう?」
「間違いないわね」
玲奈が同意して千尋の胸元に顔を寄せると、千尋は自然とその頭を抱く。
「ほら」
「……好きな人に求められると応じちゃうだけだよ……たぶん……」
「だからさ、ここでしっかり再確認しておこうと思って」
「再確認? なんの?」
二人が同時に顔を上げ、闇の中で目を光らせる。
「第一回、ラブラブクーイズ! 第一問!」
「唐突!?」
「ぶっちゃけ、私のどこが一番好き?」
直球の質問。明日香は自信満々に、キラキラした瞳で見つめてくる。
「えっと……太陽みたいに明るいところと、何事にもまっすぐなところかな。あと、泳いでる時の野性的——真剣な目、かな」
「えへへ、でしょー♡」
明日香は満足げに千尋の頬にキスをして、その胸に顔を擦り付ける。
すかさず反対側から冷ややかな声が飛ぶ。
「じゃあ、私は?」
「え?」
「私の一番好きなところは?」
玲奈は負けじと身を乗り出し、鼻息が届くくらいの距離で千尋の目を見つめる。
これはただの恋バナではない。
千尋の中での二人に対する『好き』の解像度を競う、静かなる戦いなのだ。
「えーと、玲奈は……冷静で頼りになるところと、実はすごく情熱的なところ。あと、ふとした時に見せる優しくて可愛らしい笑顔」
「ッ——! ご、合格……」
玲奈は顔を真っ赤にして、明日香と同じように千尋の胸に額を押し付ける。
千尋は内心で冷や汗をかく。
この回答、一つでも間違えれば命取りだと。
「じゃあ第二問!」
明日香が顔を上げ、追撃する。
「私の手料理と玲奈の手料理、どっちが食べたい?」
「なっ!」
玲奈がバッと顔を上がる。
「そんなの、栄養管理まで計算された私の料理に決まってるじゃない。聞くまでもないわよ、バカ明日香」
「はぁ? 料理は愛情! 美味しさと愛の重さは比例すんの、アホ玲奈!」
「しないわよ!」
二人の視線が千尋に集まる、究極の選択。
「え、えっと……朝は玲奈の優しい和食が食べたいし、夜は明日香のガッツリした肉料理が食べたい——かな!」
ポカンとする二人。
「……うまいこと逃げたわね」
「ま、両方食べるなら許す! 私は誰かさんと違って心が広いからねー」
「私だって許すわよ!」
軽く息を吐くと、玲奈が口を開く。
「じゃあ次、私からの質問」
「うん……」
「もし、無人島に一人だけ連れて行くならどっち?」
「出たー! 定番の悪魔の選択!」
明日香が身構える。
「ちなみに、サバイバル能力なら知識のある私が有利よ。明日香なんて、初日で毒キノコ食べて倒れるのがオチだわ」
「私は体力あるし! 魚だって獲れるし! 千尋を守れるのは私だよ!」
「ふん。さあ千尋、どっち?」
「……」
左右から迫る二つの顔。逃げ場はない。布団の中は興奮でサウナ状態だ。
千尋は必死に脳を回転させる。
無人島。一人だけ。選べない、選びたくない——。
「……二人とも、連れて行かない」
「「えっ?」」
二人の声が重なる。
「一人で行くよ」
「「なんで!?」」
「だって、どっちか一人なんて選べないし、二人を危険な目に合わせたくないから」
千尋は二人の頭をぎゅっと抱き寄せた。
「私が先に行って、安全な家を建てて、お風呂も沸かして、美味しいご飯も用意して……それから二人を迎えに行く。それなら、三人で暮らせるでしょ?」
千尋の答えに、部屋に一瞬の静寂が落ちる。
そして——。
「……ぷっ、あはははは!」
「ふふっ、もう……」
明日香と玲奈が、同時に吹き出す。
「なにそれ! カッコよすぎ!」
「本当ね。天然たらしもここまで来ると才能だわ」
二人は呆れたように、でも最高に幸せそうに、千尋の胸に顔を埋めた。
「まあ、千尋がそう言うなら、ずっと待っててあげるよ」
「すぐに迎えに来るのよ、絶対」
「うん、約束する」
千尋は二人の温もりを両腕に感じながら、深く息を吸い込んだ。
序列争いも、嫉妬も、独占欲も。その全てが、二人からの愛の証だと実感していた。
騒がしくて、重たくて、そして何よりも心地よい、三人の夜。
「……すごく幸せ。大好きだよ、二人とも」
「私も好き!」
「私も大好きよ」
密着度200%のベッドの上。
女子会という名の甘い夜更かしは、更に熱くなって続くのだった。




