第44話「ファンクラブ大フィーバー! ~コメント欄は戦場?~」
動画公開から一夜明けた世間は、まさに『白波一色』に染まっていた。
『白波女子学園・堂島千尋の緊急報告動画。二人目の交際宣言!!』
再生数:1億2000万回以上。
いいね:1億以上。
コメント:計測不能。
国内最大手の短文SNS【 Chirp 】のトレンドワードは、上から下まで白波関連で埋め尽くされている。
1. #白波は家族
2. #ちひあすれな
3. #堂島千尋
4. #ハーレム宣言
5. #尊すぎて浄化された
寮の談話室。
テレビには朝の情報ニュース番組が映っており、局の美人アナウンサーが朝らしい爽やかな口調でトップニュースを伝えていた。
『昨日の昼、白波女子学園水泳部の公式ファンクラブサイト【 White Wave 】に突然投稿された愛の波紋は、一夜明けた今でも治まっていません。この騒動を受けて、白波女子学園の理事長で、水泳部顧問でもある白波美沙氏は、昨晩の20時に緊急記者会見を開き——』
画面が切り替わり、美沙顧問の記者会見の様子が流れ始める。
その様子を唖然として見つめるのは、当事者である千尋だった。
「……なんか、すごいことになっちゃったね」
千尋からは、呆れ半分、苦笑い半分の声がもれる。
昨日からずっと、SNSやメールの通知が止まらないのだ。
画面を更新するたびに、秒速で数千件のコメントが増えていく。バッテリーが持たないので、ずっとモバイルバッテリーに繋がっている始末だった。
「あははは! 千尋、見てよこれ!」
「なに?」
明日香のスマホには宣言動画のコメント欄が映っており、そこには 『千尋さん。前世でどんな徳を積んだら美女二人と恋人になれるんですか?』と投稿されていた。
「うんうん、確かにそうだよね!」
「それはそうだけど、なんか……照れるね」
「お、これなんかも!」
この調子で、明日香は昨日からずっとハイテンションだった。
「こっちもすごいよ!」
「今度はなに……?」
ずっと明日香に付き合っていた千尋はくたくただった。
そして見せられた画面を見て、軽くため息をつく。
『怪物・堂島千尋による、人類補完計画ならぬ、白波女子補完計画』
「……私って、そんな尻軽女に見えるのかな?」
メールフォルダに新しく追加された1000件を超える告白メールでさえ断るのが大変なのに、変な誤解まで広がっていると考えると……今度は深いため息が漏れた。
一方の玲奈。
眉間に深い皺を寄せ、高速でフリック入力を行っているその目は血走っていた。
「玲奈はなにしてるの?」
「エゴサよ。変なデマが流れてないか監視してるの。明らかなデマや中傷は見つけたら警告と即通報してる」
玲奈は画面を睨みつけたまま、早口でまくし立てる。
「……どこの世界にも幸せを妬む人っているのよね。【 Blue Script 】(玲奈FC)の人たちを見習って欲しいわ」
玲奈にタブレットを見せられ、専用コミュニティのコメントを読んでいく。
『玲奈様の長年の献身が報われた!』
『これぞ下剋上!』
『Water Bird様はどこいった?』
『幸せすぎて昇天してる?』
『玲奈様もWater Bird様も幸せにするとか、さすが千尋様!』
『千尋様と玲奈様の結婚式、今から楽しみすぎる」
『正妻は管理能力のある玲奈様にしか務まらない』
『うんうん』
『朝倉先輩、脳筋だから』
「……」
「こういったコメントなら大歓迎なのよ。正妻は私にしか務まらない。わかってるわよねー」
「はあ!? どこの誰が正妻だって!? こっち見ろし!!」
明日香が即座に反応し、自分のスマホ——【 SUN♡SPLASH 】(明日香FC)のチャット画面——を突きつける。
『太陽属性のアスカっちが最強。篠原玲奈は月。所詮は陰』
『幼馴染ムーブかましてた玲奈先輩は愛人枠が順当』
『明日香先輩の愛に負けて軍門に降った』
「——って書いてあるじゃん!」
「誰が愛人で軍門に降ったよ! 対等なパートナーって動画で言ったでしょ!」
「でも一番は私だしねー!」
朝から元気な二人だった。
千尋は苦笑しながら、自分宛のメッセージ——【QUEEN’s Current】(千尋FC)のタイムライン——に目を落とす。
『千尋様の包容力は海より深い』
『二人とも愛すとか、漢すぎる』
『私も混ぜて』
『↑抜け駆け禁止!』
『あの腕に抱かれたい』
『次の大会、恋人三人揃い踏みとか激アツ』
『やっぱり最強は千尋様』
そこには、賛否両論ありつつも、概ね好意的な、そして熱狂的な応援の言葉が溢れていた。
「……みんな、受け入れてくれてる、か」
ぽつりと呟くと、言い争っていた明日香と玲奈の動きが止まる。
「ま、時代だねー。愛に形なんてないってことっしょ」
「そうね。それに、昨日の宣言動画……あの痴話喧嘩的な感じが、逆に『ガチ感』がなくて良かったのかも」
玲奈が分析する通り、宣言動画の大半は明日香と玲奈を中心にした痴話喧嘩であり、たまに美沙顧問の『喝!』が飛ぶ様子が、『女子高生らしくて可愛い』と評判になっていたのだ。
「あ、なんか変なハッシュタグができてるっぽい」
明日香が声を上げ、玲奈がのぞき込む。
『#ちひろ争奪戦・関東の陣』
「なにこれ?」
「えーっと……」
スクロールし、詳細を読み上げる。
『関東大会の活躍次第で夜の主導権が決まる!?』
『千尋様のご褒美キスは誰の手に!』
「……だってさ」
明日香が読み上げると、玲奈がなにかを噛みしめるように顔を上げる。
「……ふ、悪くないわね」
「は?」
「関東大会。どちらがより千尋に貢献できるか、ファンのみんなが見てるってことよ。燃えるじゃない」
「ふん! 上等! バタフライ女王の座、見せつけてやるし!」
二人の間に、メラメラと対抗心の炎が燃え上がる。
「二人とも、仲良くやるんじゃ……」
「仲良く『競う』のよ、千尋」
「そうそう! 千尋は黙って、『勝者』の愛を全力で受け止めればいいの!」
「そっか……」
千尋は呆れながらも、二人の活き活きとした表情を見て頬が緩む。
SNSの喧騒は、三人の関係を壊すものではなく、むしろ新しい刺激となっていた。
まるで彼女たちの絆を、競い合う気持ちを、試しているようだった。
「とりあえずファンのみんなに『おはよう』投稿するよ! 千尋、玲奈、こっち向いて!」
明日香がスマホの正面カメラを起動して掲げ、二人を抱き込む。
「え、今!? すっぴんなんだけど!」
「みんな可愛いからノープロブレム! はい、チーズ!」
カシャシャシャシャシャシャシャシャ——!!
「連写!?」
「馬鹿なの!?」
撮られた写真は、慌ててピースする玲奈、ウィンクしながらピースする明日香、そして二人に挟まれて困り笑いする千尋の、爽やかなスリーショットだった。
選び抜かれた写真の投稿ボタンが押された瞬間、日本中の至る所で通知音が鳴る。
白波女子学園の騒がしくも幸せな『公認された』朝は、今日も多くの視線に見守られながら過ぎていくのだった。




