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ドンと恋!〜 私たちのStarting Block 〜インターハイで日本新記録を出したら表彰台で公開告白されました。  作者: 空知美英
5章:恋と笑いと日常と——

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第43話(上)「恋の宣言動画狂騒曲」

 新たな三人の関係――大人の関係が始まって一週間が過ぎた頃。

 水泳部のプールサイドには、明るく前向きな活気が満ち溢れていた。

 その中心にはいるのはもちろん、千尋、明日香、玲奈。

 三人の間には確かな信頼と、以前にはなかった親密さが漂っていた。

 その日の練習メニューの大一番は、関東大会に向けた個人のタイムアタック。チーム全体の士気が高まっている中、選手たちは次々と自己ベスト前後の好タイムを記録していく。


「次、堂島千尋! フリー100、一本!」


 チーフマネージャーとしての、凜とした玲奈の声が響く。

 千尋はスタート台に立ち、集中力を高める。

 クラウチングスタートの姿勢になり、入水のイメージと泳ぎのイメージを固め、息を吐く。


 ピッ――!


 最小限の水しぶきを残し、千尋の身体はプールに吸い込まれる。


「キャプテン速い!」


 部員の驚きの声がすぐに上がる。

 スタートのドルフィンキックは完璧だった。

 瞬く間に15mラインに迫り、水面を割くようなクロールに移る。

 観客席のFC応援団もその異常なスピードに気付き、歓声を上げ、ペンライトと写真入りうちわを振る。


『キャー!!』

『千尋先輩ー!!』

『頑張ってぇぇぇー!!』


 泳ぎに迷いは無い。

 力強く、どこまでも伸び続けるような圧倒的なストローク。

 水の抵抗いなす、理想的なフォーム。

 その泳ぎは、記録会や東京都予選よりも洗練され、全ての動作に魂が籠もっている。

 心身の充実――その変化は、誰の目にも明らかだった。

 50m、水中生物のような動きで綺麗にターンを決める。

 ラップタイムが表示されると歓声はさらに大きくなった。

 トップレベルの潜行速度を発揮し、ラインギリギリの15mを突き進む。

 そして――クロールの鋭さが増した。

 衰えることなく鋭さをましたその身体は水を割き、壁に向かって一直線に伸びる。


〈 堂島千尋 51:87 〉


 部員たちも観客席も、時間が止まったように静まりかえる。

 電光掲示板に表示されたタイム。

 それは、自己新の日本記録を大幅に上回る、世界記録に肉薄するタイムだった。

 プールサイドがどよめき、観客席では歓声とペンライトが一斉に煌めく。


「よし!」


 千尋が水中でガッツポーズをし、喜びを爆発させる。

 満面の笑顔を浮かべた明日香がスタート台の横から千尋に手を伸ばす。


「やったじゃん、千尋!」

「はあ、はあ……うん、ありがとう」


 明日香の手を握って一気にプールから上がると、後輩マネージャーがタオルを手にして駆け寄ってくるが見えた。


「キャプテーン――」


 小動物のような動きの後輩を見てると、その脇から人影が飛び出してくる。


「千尋っ!!」


 それは、タイムを計測していた玲奈だった。

 興奮を抑えきれない様子で勢いよく千尋の胸に飛び込み、両手でその身体を抱え込む。


「すごいわ! 完璧な泳ぎだった! さすが千尋――!」


 玲奈の瞳はキラキラと輝き、その声も表情も『冷静なチーフマネージャー』からは想像もつかないほど、感情に満ち溢れていた。


「おめでとう! 千尋!」

「ありがとう、玲奈」


 玲奈の両手が千尋の首に周り、玲奈の身体がふわっと持ち上がる。

 察した千尋は軽く腰を折り、それを迎える。

 二人の唇が自然と重なり、恋人らしい、甘い空気が二人を包む――。


「「「…………え?」」」


 広い屋内プールが完全に凍りつく。

 泳いでいた選手も、後片付けをしていたマネージャーも、観客席で声援を送っていたFC応援団も、全員が動きを止め、信じられないものを見たかのように二人を凝視する。


「――ん……本当におめでとう。さすが、私の千尋…………あ――」

「はは、ついやっちゃったね……」


 唇が離れて一息ついた二人は、《《ここがどこなのか》》を思い出す。

 勢いのままキスをしてしまった二人は、顔を真っ赤にして固まる。


「あ、わ、私は、部活中になんてことを……」


 玲奈が我に返り、真っ青になって後ずさろうとした、その時。


「待ってましたぁ!!」


 静寂を突き破って入ってきたのは、満面の笑みを浮かべた明日香だった。


「玲奈だけずるい! おめでとう、千尋!!」


 そう叫ぶや否や、明日香は濡れたままの千尋に飛びつき、これ見よがしに情熱的なキスをする。


「んむっ――!?」


 千尋は驚きながらも、明日香をゆっくり受け入れる。

 そして、一呼吸、二呼吸……呼吸が苦しくなってきた頃――プールが揺れた。


 観客席「「「キャーーーーーーッ!!!」」

 部員達「「「キャーーーーーーッ!!!」」


 プール全体が興奮と混乱のるつぼと化した。

 観客席からは悲鳴と歓声が入り混じり、部員たちは顔を見合わせて唖然としたり、赤面したり、鼻を押さえたり、カオスな光景が広がる。


「なにやってんのよバカ明日香!」


 玲奈が真っ赤になって叫ぶ。


「玲奈が先にやったんじゃん! 千尋の一番は私なのに! ねー♡」


 千尋の頬にキスしながら言い返す。


「わ、私のはついよ、つい! あんたは確信犯でしょ!」

「キスはキスでーす。ねー、千尋ー」

「う、うん。そう、かな……?」

「ッ――!!」


 ギャーギャーと言い争いを始める二人。

 端から見た《《それ》》は、完全に痴話喧嘩だった。

 千尋は二人に挟まれ、「ちょっと二人とも、落ち着こう――」とオロオロする。

 そんな三人に忍び寄る影。

 騒がしい三人に徐々に近づき、真横まで迫る。


「スゥゥゥ…………コラァァァーーーッ!!」

「「「!?」」」

「お前ら、いい加減にしろぉ!!」


 雷が落ちる。

 白波美紗顧問の怒号。

 その凄みに、三人だけではなく、部員たちも観客席も一瞬にして静まり返る。

 美紗顧問は仁王立ちで三人(主に玲奈と明日香)を睨みつけていたが、やがて深いため息をつくと、呆れたように、しかしどこか面白がるような口調でタオルを放り投げ、言い放つ。


「こうなったら腹を括れ、お前ら」

「「「え?」」」


 タオルを投げ込まれた千尋はキョトンとする。


「練習中に痴話喧嘩なんて言語道断だ。そして、その関係を今後も隠し通せると思ったら大間違いだと思え。この騒ぎだ、すぐに噂は広まる」


 美紗顧問はスマホを取り上げると、動画モードを起動し、三人に向ける。


「今から撮るぞ。すぐにだ」

「な、なにをですか……?」


 異様な迫力の顧問に、千尋が恐る恐る尋ねる。


「決まってるだろ、『宣言動画』だ」

「……?」

「応援してくれてる皆さんに報告だ。『私たち三人は恋人になりました。これからも応援よろしくお願いします』ってな。それを撮影して水泳部公式ファンクラブで公開する!」

「「――――――ッ!!??」」


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